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接地エリアとスイートスポット

接地エリアとは

接地エリアとは、「どこから接地するのか」という時の分類された区域のことをいいます。
分かりやすいように”接地”としていますが、厳密にはどこから地面に接するのかではなく、「力の受け渡しをしたり、バランスをとったりするための機能面」をどこから作るのかという意味になります。
したがって、実際の地面に最初に着く場所と必ずしも一致するわけではありません。(例:FOREの性質だが歩行ではかかとから着く、短距離で前足部だけで走っているがかかとから地面に向かっている、など)
しかし、マラソンやランニングではこの機能と実際の着地が一致するため、着地の仕方に多様性が生まれ、フォームを考える上で大切な要素となります。


16通りの接地エリア

接地エリアは16通りに区分されており、それぞれSPEC分類と対応しています。
まず基準となるのが、母趾球・小趾球レベルの「FORE」、第五中足骨基部・土踏まず中点レベルの「MID」、かかとレベルの「HEEL」です。
その間のエリアを「FORE-MID」、「MID-HEEL」とします。
そして、FOREの前を「SUPERFORE」、指先の先端エリアを「FOREFRONT」、かかと後部の後端を「BACK-END」として8通りのエリアに区分します。
さらに、それぞれMEDIAL(内側)とLATERAL(外側)に分かれるので、全部で16通りの接地エリアとなります。


スイートスポット

スイートスポットとは、「最適点」のことを言います。
効率的に力を加えていく”足部の芯”にあたる部位であり、全身の使い方を最適化しやすくする点となります。
これも厳密には、足底腱膜ーアキレス腱のつながりでできる構成体の伸張反射を引き出すために、どのポイントから力を加えるかという意味になります。
そのメカニズムを経由して地面に力を加えていくので、実際に地面に力を加える点と一致する場合もあれば、しない場合もあります。
しかしどのポイントであっても、スイートスポットから地面に力を加えようとしたり、蹴り出そうとしたりすることでパフォーマンスが上がりやすくなります。
このポイントは4通りあり、1軸・2軸などといった全身の動作傾向を決定する要素となります。


足底内の力の移動

接地エリアとスイートスポットは、接地エリアから地面(便宜上)に着いて、スイートスポットに移動して蹴り出すといった、足底内の力の移動と関係します。
この足底内の力の移動は、大きく分けて「進行方向と逆に移動するパターン」、「ほとんど移動しないパターン」、「進行方向に移動するパターン」の3つに分かれます。
これによって、どこから着くかだけではなく、着いてから蹴り出すまでの体の使い方に違いを生んでいきます。


フォアフット着地、フラット着地、かかと着地、正解は??

様々な媒体で着地に関しての議論がされています。
・ケニア、エチオピアの選手はフォアフットだ。
・生まれ育った環境(土、不整地)でフォアフットになっている。
・舗装道路だからかかと着地になる。
・フォアフットとかかとの中間であるフラット着地が基本だ。
・フォアフットはアキレス腱を痛める。
・かかと着地はケガをする、悪癖だ。
・かかと着地はブレーキになってスピードが出ない。
・足の着く位置や、骨盤の関係で違いが出る。
・どの着地でも体の前で着くとケガをする
などなど・・・

では、男子マラソン世界歴代記録ベスト10(2024年3月時点)の選手たちの着地の仕方をみてみます。
分かりやすいように、FOREFRONT・SUPERFORE・FOREのエリアを「フォアフット着地」、FORE-MID・MIDを「フラット着地」、MID-HEEL・HEEL・BACK-ENDを「かかと着地」とします。

マラソン世界10傑と接地パターン

これをみる限り、ケニアやエチオピアの選手だからフォアフット着地かというとそうではなさそうです。
むしろ、フラット~かかと着地の方が多くなっています。
では、かかと着地の選手は偶然、舗装道路中心の生活環境だったのでしょうか?
本当に「かかと着地はブレーキになるのでフォアフット着地が人類の最適解」なのでしょうか?
トップ3をみるとフォアフットはキプチョゲだけで、残りの二人はかかと着地になっています。
人類初のレースでの2時間切りが期待されていた世界記録保持者のキプタムはかかと着地です。

★ケルヴィン・キプタム

★その他の世界のトップ選手
・タミラト・トラ(エチオピア)2:03:39 かかと・真下着地
・シュラ・キタタ(エチオピア)2:04:49 かかと・体の前着地
・ラバン・コリル(ケニア)2:05:58 フラット・体の前着地

この動画でもわかるように、大きく体の前で着こうとした方がケガなくパフォーマンスが上がるタイプがあります。
必ずしも「真下で着地」の意識が正解ではないのです。

ちなみに、世界2位の記録を持つキプチョゲはフォアフットで真下着地です。

★エリウド・キプチョゲ

SPECでは、生まれた国や育った環境、人種の違い、足や骨盤の位置関係で着地の最適解が決まるのではないと考えています。
着地の正解は、「その人がどのような動作特性を持っているのか」によって違ってくるのです。
つまり「個の性質」の違いです。
だからといって「人それぞれだから意識しないで自然に任せておけばいい」といった漠然とした無限定なものではなく、その人ごとに上手くいくためのルールがあるということです。
それを知るための手がかりになるのがスポーツ動作特性(SPEC)になります。
フォアフット着地も、フラット着地も、かかと着地も、優劣などなく「体に合った走り方」を見つけるための選択肢の一つなのです。

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