天地返し
<天地返し>
日本では多くの畑で自然農ができるのだが、どの畑でもいきなり自然農ができるわけではない。自然農は積み重ねが大事だ。特に慣行栽培で農薬や肥料、重機による耕耘などが過去にされていると大変難しい。実際、私はそれを理解していなかったために手痛い失敗をした。かの有名な川口由一さんも全ての野菜ができるようになるまで七年かかっている。
なので、まず始めるにあたってすることは二つある。一つ目は深さ30~40cm程度の穴を掘って観察すること、もう一つは過去の栽培歴を、畑の歴史を持ち主に聞くことだ。
自然界の大地には作物が根を張ることができる作土層とそれ以上根が伸ばせない心土層がある。自然農では作土層が最低でも30cm必要である。これが深ければ深いほどよく育つ。しかし、慣行栽培や重機によって土が固く締まってしまい、深さ15~20cm程度のところに硬盤層ができてしまっていることがある。つまり自然界の心土層よりも上に根が伸ばせなくなる層ができているのだ。この層がある場合、まず最初にこれを破壊する必要がある。方法はいくつかあるが、私がオススメしているのは天地返しと緑肥である。
天地返しは慣行栽培農家のなかでも知られているテクニックの一つ。畝の表面15~20cmの土と、その下の15~20cmの土を入れ替える技だ。しかし、過去に慣行栽培をしていると土の中に養分となるものが全くないので、穴の中に有機物を投入する必要がある。オススメしているのが下から順に籾殻くん炭、有機物(周辺の雑草やワラなど)、米ぬか、籾殻くん炭。そして表面の土、下の土、最後に通路の表面の土を載せて、畝の高さ30cm程度になるようにする。このとき、自家製の植物性堆肥がある場合は有機物と米ぬかの代わりに使用しても構わないが、わざわざ購入する必要はない。むしろ購入するのではなく周りの雑草を利用するほうがあとあと自然農がしやすくなる。この作業は夏野菜の植え付けや種まきの3~4週間前に行うこと。
この方法をすれば一年目からある程度の収穫を得ることができる。もちろん、病気になったり虫食いが発生することもある。これは数年かけて克服することを念頭に置いておこう。ただし、自然農は放置するわけではないことは忘れないでおいてほしい。多くの畑を見させてもらうようになって、失敗する理由のほとんどが放置である。
自然農では基本的に一度畝たてをすれば、ときに直すことはあっても作り直すことはない。天地返しも同じくである。あとは主に草刈りとマルチを使いこなして、上に上に積み重ねていく。そうして、三年もすればほとんどの野菜が育つようになる。もちろん、畑によって細かいテクニックが変わってくるのでこれだけで十分ではない。
さて、最後に畑の歴史を知る必要がある理由を述べておきたい。以前、講座に参加された方で実際にあったことなのだが、道路一つ挟んで畑の土質が違ったのだ。片方は粘土質、もう片方は砂質である。これは砂質の方の畑が道路造成の際にどこからか土を持ってきて無理やりできた畑だったのだ。さらに違う方の畑では表面の土はすぐにでも自然農ができるほど豊かな土だったのにも関わらず、穴を掘ろうとした20cm下で剣先スコップが入らないほど硬い層(心土層)にあたったのだ。これはこの畑とすぐ隣の家が五十年ほどまでに山を切り崩して作られた土地にできたからである。現代の日本ではこうやって土をどこかから持ってきたり、持ち去ってしまうことができる。また掘ってみたらゴミクズが大量に出てくる話もよく聞く。
自然農自体が難しい土地があるのも事実なのだ。また畑によって対策が変わることもある。だからまずは畑の歴史を聞いて、穴を掘ることから始めてほしい。畑を知らずして農はできない。ときには自然農を諦めて有機栽培にする決断も必要である。なぜなら、自然農は目的ではなく自給のための手段だから。
天地返しをすれば、おそらく多くの自然農法家の先輩たちに「それは自然農じゃない」とお叱りを受けるかもしれない。しかし、私の苦い経験から多くの人に一年目からある程度の収穫を得てもらいたいと思っている。なので、はじめに少しばかりの有機物を使って、そこから徐々に自然農に切り替えていってもらいたい。自然農は決して無養分農法ではない。