立体農業のススメ 山岳農業
<立体農業のススメ 山岳農業>
日本の国土のうち山岳地域が85%、平地は15%ほどであり、さらに国土のうち森林が66%のため大規模農業のために切り拓く場所は少ないばかりか、無理に開発をすれば自然災害が増えるばかりだ。
その山岳地域、森林内で森林を保ちながら食糧を確保することができればさまざまな社会問題が解決されるに違いない。山岳農業を提唱する賀川豊彦は「人口1億人になっても自給はさして困難ではない」と断言する。
山岳農業には森林学に必要な知識はもちろん必要であるが、さらに農学的知識と技術もよく習得しておく必要がある。ただ困ることは樹木作物は作付けから収穫まで長期を要するために、中長期的な計画性も必要だ。
世界的には中~多雨地域で、急勾配の高地ではもっとも森林が優勢な生態系となることが多い。つまり日本の山岳地域は世界が羨む森林生態系なのだ。しかも安定した生態系だ。
樹木は草類に比べて根が強い。そして土の中へ深く入っている。幹を切り倒してもまた根から根を吹き出す。その根がなかなか腐らないから豪雨や少しくらいの乾燥に十分対抗できる。幹葉は洪水が来ても水の上に出ているから草よりも水に強い。また海水にさえも負けない樹木がある。風にも強く冷害にも猛暑にも強い。そのため気候の変化に対応しうる力を草よりも持っている。
地質学的調査によると第三紀層から第四紀層にかけて、地殻の変動があったにも関わらず、植物の年輪から見ると5000年以上も生息していた松柏類がいたことから樹木の気候の変動に対応する能力は私たちの想像以上かもしれない。
逆に草類は安定した気候を好む。太古、地球が安定しないころ、裸子植物から被子植物の堅果類へと進化していったのは気候的理由、つまり不安定な気候が大きい理由だった。樹木は集まることで安定した気候を作り出す。樹木のないところでは気温の変化が激しい。アスファルト砂漠やメガソーラー山岳では洪水か砂漠の二択しかない。
山岳地帯はパーマカルチャーデザインの考え方としてはゾーン4に入るだろう。そこには針葉樹林を植えることでさまざまな機能性を持たすことができる。とくに養分が必要な田畑や果樹園には向いていないような土質やひふみのバランスが悪い土地では植樹地にしたい。
スギやヒノキなどの建築材の植樹林も大切だが、食べられる針葉樹を取り入れることもできる。とくに松の実はタンパク質、脂質を多く含む人間の食物として優秀だ。日本に自生していて食べられる松の実は朝鮮ゴヨウマツだけで、東北から中部にかけての山間部に多い。雪や寒さに強く、昔から松の実のお菓子に利用されていた。
ネイティブアメリカンもジブの少ないクヌギ(ドングリ)と松の実(ビニヨン)を食べていた。他にも食用松の実としてはチルゴサマツ(ヒマラヤシロマツ、チベットシロマツ)、アメリカヒトツバマツ、ピニョンマツ、イタリアカサマツなどがあるがどれも日本では一般的ではない。
しかし他の松ぼっくりの青い未熟な実は砂糖漬け(ヴァレーニエ)や蜂蜜漬け、アルコール漬けにできる。また松の葉には薬効成分や栄養、アロマなど多彩な楽しみ方がある。
アカマツと共生関係を結ぶマツタケが有名だが、他にも松露(ショウロ)というクロマツやアカマツの林に生えてくるキノコもある。針葉樹なら他にもイチイやラカンマキなどの果実も甘いく、生垣に利用されていることもある。
樹木はゆっくり育てることが大切だ。野菜と同じように樹木も早く大きく育てようとすると軟弱に育つ。針葉樹を早く育てると辺材が多くなり、用材としての価値が下がる。パルプや挽き材やベニア材のためには都合が良いが。
成長を早めた木材は水分量が多く腐りやすく、弱く、変形や割れが起こりやすい。また樹木の根張りが弱く、災害にも弱い。そのため近年、高品質の木材を生産するために成長の遅い樹木を植林する林業家や農家が増え始めている。
1本の木が生えると18種類くらいの雑草が生えてくるとダーウィンは書いている。土は植物の力で増えることから植物が繁茂する気候では土作りも容易となる。立体農業でも山岳農業でも樹木の根元にはハーブや山菜などをギルドメンバーとして植え付けてあげたい。
耕作放棄地となった段々畑や棚田にはクズが繁茂しやすい。マメ科のクズが多い地は土が豊かになるのも早い。その間に穴を掘って木を植えるもの良いアイデアだ。またススキも同様に土を豊かにする力が強く、マルチとしても利用しやすい。
日本の山岳地域では林道を整備することも難しい山はたくさんある。近年では自伐型林業が推進されており、次第に小さな林道が開かれているが、パーマカルチャーデザインの原則を取り入れるとすれば、運搬にウシやウマを利用する。適切な間伐と適度な皆伐ならスギ林を切り倒すとそのあとにイチゴが生えてくる。また山岳農業には小動物の家畜が必ず出番が来るだろう。
山岳農業は物理的困難の克服を小動物たちの活躍でクリアしたい。そこでイヌとウマは山岳農業に最適な家畜である。イヌは人間20人分の仕事をしてくれるとニュージラーンドの牧畜家はいう。イヌはニュージランドではヒツジやウシを集める仕事、オオカミやイノシシを追い払う仕事をこなし、ウマは乗用として。また山岳農業では養蜂は高原地帯に自生する高山植物も蜜源と利用することができる。
山岳農業においてもっとも困難な問題は飲料水である。
井戸水のない場合、樹木の幹に縄を結んで枝を沿って落ちる水がその縄の下にうけてあるバケツに集まるように工夫する。(樹幹流水)
賀川豊彦は「山岳樹木作物において人造肥料をやる必要はない。樹下に生えている草や灌木をなぎ倒して、それを土中に埋めてやるのが一番良い。」と言うように日本なら自然遷移の法則を利用したい。もちろん、鶏糞、豚糞なども非常によく効くので、囲いを作ってそのなかで家畜することがポイントだ。そうすれば家畜の飼料問題も、糞問題も解決する。
果実ほど、地質によって味の変化するものはないと言われている。化成肥料を過度に施肥するところでは果肉だけは大きくなるが、味はかえって落ちてしまう。ミカン、ビワ、ナシ、モモがその例である。だからこそ、化成肥料の使い方に農家はこだわる。
また、リンの多い海底火山系のほうが安山岩質の山に比べて甘くなる。ブドウにしてもミカンにしても、駿河の安山岩質の上にできたものよりも伊豆天城山の斜面すなわち海底火山の玄武岩質の土質の上にできたものの方が味が良いそうだ。