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立体農業のススメ 樹木と家畜その1


<立体農業のススメ 樹木と家畜その1>

賀川豊彦が提唱する立体農業は従来の果樹園と違う点は様々な樹木を植えることと、家畜を取り入れることだろう。パーマカルチャーの9レイヤーをもとに植物を取り入れながら、さらにそこに家畜を取り入れることで、多様性を生み出す。

適地適木の精神で、その土地・気候に合った樹木を選んでいく。その中にもともと自生していた樹種や草類をも取り入れることで多様性をさらに高めることができる。

人間が住む範囲から一番遠くだが、年に数回だけ足を運ぶようなゾーン4では穀樹を中心にデザインする。シイの木は樹冠が美しく、寿命も長い。寒い地域にはトチやカヤ、クリ、クルミ、南方にはシイ、カシ、ペカンナッツが中心となる。

クルミが実をなるのは6年、収入になるには15年、カヤは25年もかかる。その期間を待てないからあまり儲からないと考えてしまう。まずは今残っているクルミとカヤを大切にしたい。

シイは痩せ地に生え、カシは豊かな地に育つ。シイは福島県の海岸地帯から沖縄まで生えていて、渋抜きが不要なことから全国で食べられてきた。生のままでも甘く、焼けば香ばしくてうまい。古代の日本人やギリシャ人は常食としていたようだ。またオシドリはシイの実をたくさん食べている。

また古来から丸木舟としても利用されていて、海岸に使いところに生えている。奈良時代よりタネを蒔いて栽培していたことがわかっている。

シイ・カシは渋抜きが不要でトチ、コナラ、アベマキ、カシワ、クヌギは渋抜きが必要だ。人間が食べないとしてもブタやウサギ、ニワトリにドングリを食べる。イタリアの最高級のブタはクリ林の下で落ちたクリを食べる。

ドングリ類は渋抜きをすればウシやウマ、ウサギも食べられ、ブタやニワトリは渋抜きせずに食べられる。。ウシやウマ、ヤギ、ヒツジの飼料として穀樹の葉に置き換える手もある。特に草が少なくなる冬にも葉が茂っている照葉樹は貴重な飼料となる。東北地方ではシダミといってカシワの実をウマに与えていた。家畜の飼料として他にベリーも含めれば300種に近い有用樹木がある。

殻斗科類のシイ、ナラ、クヌギ、カシワなどは美味しいシイタケを生み出すことで有名で、人間が食べられないリグニンの多い幹はすべてシイタケや他のキノコに変化してもらって食べるのがオススメだ。

信越の秋山郷や越後の入広瀬村ではブナの実をコノミと呼び、炒って香煎して食べた。またブナの新芽も山菜として美味しい。ブナの実はクマや渡り鳥のアトリの好物でもある。

カバノキ科のツノハシバミと近縁種のハシバミはともにヘーゼルナッツの西洋ハシバミと近縁種だ。実は日本全国の山林に自生する低木で、下北半島ではハシバ、カヤバと呼び、食用としていた。ハシバミは小さい木で日陰でも結果する。

ペカンナッツは北海道南部から九州まで栽培が可能だという。耐寒性は強いが耐暑性・耐乾性はやや弱いのでもちろん適地を用意したい。アメリカンのテキサス州では州木で、結婚の記念樹に人気だそうだ。木材としても優秀で結実まで10~20年かかるが、300年以上実をつけるほど寿命が長い。アメリカでは恩給樹木と言われている。

ゾーン4よりも近い果樹園として利用することを考えるゾーン3では一般的な果樹を中心にデザインしよう。そのなかでも肥料木と呼ばれる樹木を取り入れて、チッソ固定による役割を担ってもらおう。

肥料木としてハシバミやネムノキが代表的だ。江戸時代には田んぼの畦に積極的に植えられたハンノキは防風林の役割もあったが、伐採してしまった。今現在でも元田んぼの耕作放棄地からはハンノキやネムノキが自生していることがある。

サイカチはマメ科でブタやウシの飼料にもなる。野生種はトゲがあるが、ないものも見つかっている。鞘にサポニンを多く含むため石鹸として利用されていた。また若芽や若葉を食用として、豆果は漢方薬として利用できる。豆は子供たちの遊び道具おはじきだった。

他に主に砂地に生えてくるアカシア、イナゴマメ、サイカチ、ソウシジュなどがいる。デンマークでは砂地にアカシア類を植え、土を作ってから、間引いて穀樹のカシ類を植えている。

ヤシャブシは放線菌と共生関係を結ぶパイオニアプランツで、酸性土壌を肥やしてくれる。ヤマモモはどんな酸性土壌にも生えると言われるくらい生命力が強く、排気ガスの多い都市部でもチッソ固定をしながら、果実もつけてくれる。

クロバナエンジュ(イタチハギ、マメ科)は北アメリカ原産、日本にも移入済み野生化していて侵略的外来種ワースト100に選定されているほど繁殖力が高い。緑化樹木として経済的に有用であるとして外来生物法では「別途総合的な取り組みを進める外来生物」として要注意外来生物の指定にとどまり、特定外来生物のような導入や栽培への規制がない花が美しく、蜜が取れ、果実も取れ、発育も早いので燃料にもなる。

ウシやウマを飼うだけではなく、牧草牧樹林に作れば海外産飼料に依存することはない。牧草ももちろん必要だが、それだけではなく、立体的にすることで収益量が増やす。そのために牧樹を植えよう。それにはヤシャブシ(アルダー)を牧場の周囲に植え、アカシア、クズ、ハギ、サイカチ、イチゴマメなどのマメ科の牧樹(肥料木)をデザインに取り入れる。

また常緑高木と落葉高木を斜めに交互に植える。たとえばヤマモモを肥料木として、クリやカキなどの間に植えることで土を肥やしつつ、生物多様性を作り、豊かさを享受する。

ゾーン3では一般的な果樹を多種に取り入れたいがその中でも万能なのがクワで、全国どこでも栽培が可能だ。アメリカでは桑は果実を食用とし、ブタやニワトリの飼料のために栽培される。人間の食糧、家畜の飼料、蚕の食料として活躍する。

北緯35度よりも北ではイチゴの栽培が難しい代わりに、クワの栽培をオススメしたい。またクワの葉はヤギ、ヒツジ、ウサギ、ニワトリの飼料として有能である。また傾斜地に向き、高木にして風雪害を防ぎ、枝や幹は木材や薪、パルプ材にも最適だ。長野ではクワの木の周囲にアンズを植えたようだ。

果樹の多くがバラ科であり、日本でよく栽培されているのはパイオニアプランツの代表格だからでもある。日本の風土によくに馴染む。その中でも古来からウメとカキは必ず民家のすぐそばに植えてあった。

ウメは昔から凶作を救う大きな力があると考えられており、さらに万能薬としてもビタミン補給源としても様々な形に加工されて、保存されてきた。ウメは適応性が高く、寒帯から温帯地方まで広く栽培できる。また土をあまり選ばないのも特徴的だ。

西洋の甘いウメがアプリコットだ。日本でも酸味が少なく味がアンズに似ている豊後梅、肥後梅、杏梅という種類がある。九州地方に多く栽培されている。

日本では九州から四国中央山脈に続く古生層の岩盤に関係ある土壌に実る果実は何に限らず味が甘い。ウメやカキもこの中に含まれる。

干し柿は日本民族にとって厳しい冬の飢饉対策の大切な滋養供給源でだった。秋の終わりになるとアンポンタンと称して南側の窓という窓には全部、渋柿の皮をむいたものを干してある光景が今でも見られる。東北や甲州地方で盛んだ。

ネイティブアメリカンの人々も多種類のカキを栽培しているが西洋文化の欧米ではとても少ない。西洋では乾燥した機構のおかげでドライフルーツが保存食の定番だが、日本ではなかなか難しい。

しかし、秋の終わりから冬の初めにかけては全国どこも乾燥した晴れた日が続くため、干し柿を始め干し大根など民家の軒先ではあらゆるものが干されている。


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