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極相林と神社


<極相林と神社>

日本の森林率は国土面積当たり66%(約2505万ha、世界第3位)であり、そのうち天然林が約5割(約1348万ha)、人工林が約4割(1020万ha)となる。実は日本の森林の中で原生林はたったの1%しかない。そしてそのほとんどが神社仏閣の鎮守の森だ。まとまった原生林は現在では世界自然遺産として登録されているエリアか国立公園内のごく一部だけである。

鎮守の森では一般的にその土地・気候において極相林となっている。極相林の植生はその緯度や標高に依存するが、低緯度から高緯度になるにつれて、標高が高くなるにつれてタブやシイ、アラカシ、シラカシなどの照葉樹(常緑広葉樹)、ブナやミズナラの落葉広葉樹、カラマツなどの落葉針葉樹、エゾマツやトドマツなどの常緑針葉樹と変わっていく。

自分の住んでいる地域の極相の植生を知りたければ、近くの古い神社に行けばすぐに分かるだろう。日本の極相林事情で面白いところは家のすぐ近くにあるということだ。

世界の国立公園や自然保護区を訪れる人は毎年およそ80億人にのぼるが、そのほぼすべてが都市部から遠く離れたところにある。もしくは観光業に従事する人たちの街が近年になって無理やり作られている。

日本の神社はコンビニエンスストアよりも多くある。寺社も入れればさらに多い。その土地その土地の守護神は必ずその地域に生い茂る照葉樹の森の中心に鎮守として祀られる。不思議なことに鎮守の森のほとんどが照葉樹林である。東日本や山間部などでは広葉樹の中でもケヤキやカツラなど水を好む樹種が御神木として残るところが多い。もしくは参道沿いにスギの巨木が立ち並ぶ。

その土地の風土、いわば土地柄を最もイキイキと象徴するものであればなんでもいい。地・水・火・風の無生物から植物・動物。人間の生き物まで、その土地の精いわゆるカミと呼ばれるにふさわしいものが選び出され、奉祀される。巨木や巨岩、山そのもの、森林そのものがその担い手となった。

日本人が古来巨木や巨岩を神の依代とし、神の座として崇拝した。古代人にとってはなんとなくではなく、確かに神々や精霊はそこにいた。巨木・巨岩はそこに存在するだけで言葉にしようがない神々しさ、尊さ、圧倒的な生命力で私たちを包み込むだろう。

鎮守の森でしばらく過ごしてみれば、すぐに分かることだが、極相林には緊張があり、里山に戻ってくると安心する。神社はカミの領域とヒトの領域のエッジであり、カミとヒトをつなぐ場であった。そのため人々はそこに集い、ときには神頼みをし、ときには神を喜ばせるために舞った。カミ、神、先祖霊、老若男女がつながる場として神社と鎮守の森は残り続けてきたのである。


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