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春の気候 三寒四温と地球のリズム~七~


<春の気候 三寒四温と地球のリズム~七~>

立春が過ぎてから桜が開花しはっきりと春を感じられる春分までの間に
三寒四温と呼ぶ地球のリズムを感じる季節がある。
冬と春が混ざり合って、草木も大地も空気も少しずつ溶けては凍り、凍っては溶けていく。春告げ鳥の鶯も山から降りてきて下手くそな歌を鳴き始める。
三日寒い日が続いて、四日温い日が訪れ、また三日間戻りするこのリズムは嬉しい気持ちともどかしい気持ちが交差する

三寒四温のリズムを刻むのは移動性高気圧と温帯低気圧だ。
その話をする前にまずは日本の豊かな詩季織々の風景を生み出す5つの気団について説明しよう。

日本列島を宇宙からのぞいて左上の中国大陸北部には乾燥し、寒冷したシベリア気団。冬の主役。
右上のオホーツク海域には湿潤で寒冷のオホーツク海気団。梅雨の主役。
左下の朝鮮半島・中国大陸南部には乾燥し、温暖な揚子江気団。春と秋のの主役
右下の小笠原海域には湿潤で温暖な小笠原気団。夏の主役。
この4つの気団がそれぞれ主役となって季節の空気を生み出していく。

そして、最後の一つの気団は間接的に天気の移り変わりを一気に変化させるトリックスター的な存在。
それはフィリピン海域にある熱帯モンスーン気団(別名に赤道気団、熱帯気団)である。
ここからやってくる低気圧は日本列島に現れる時には強い雨と風を伴う。そう、台風の元になる気団だ。

さて、冬という季節は日本列島の左上にあるシベリア気団が主役を務めている。
天気予報でよく聞く冬将軍とはまさにシベリア気団のことだ。
立春を過ぎると三寒四温のリズムを作り出すのは日本列島の左下にある揚子江気団である。
なぜ、冬の間に動きが止まっていたこの気団がいきなりエネルギッシュに動き出すのか。
私たちは今、宇宙から日本列島を眺めているがまさにこの視線の持ち主がスイッチを押す。
その持ち主とは太陽だ。

立春を過ぎると太陽から注がれるエネルギー量が変わる。
実際は太陽が変わるのではなく、地球の向きが変わる。
それによってまずは赤道近くの空気が日に日に温められる。そこから少しずつ北極側へと浸透していく。

温められた気団は次々と移動性の高気圧を生む。
その移動性高気圧が偏西風によって西へ西へと運ばれるとき、暖かい空気と冷たい空気が遭遇する。
そこに温帯低気圧が発生すると天気図には台風のような大きい円に二本の線が伸びる特徴的な図が描かれる。
これこそ温帯低気圧なのだが、これは立春から春分にかけてさまざまな姿になって天気を運んでくる。

温帯低気圧が太平洋沿岸を通るとき東京周辺には大雪警報が出ることがある。このときはまだシベリア気団が舞台の上にいるためだ。
低気圧は地上付近まで沈んでいた冷たい空気を一気に上昇気流によって持ち上げて、雪にしてしまう。湿った牡丹雪(別名淡雪)が短時間で街を白く染める。
まさに台風のような悪天候を、冬将軍が大雪に変貌を遂げる。最近では爆弾低気圧とも呼ばれているほど荒々しい。ときにそれは雷を伴う。これを春雷という。
虫出しの雷とも呼ばれ、地中で眠っていた虫たちも動き始める二十四節気の啓蟄にあたるころだ。
はじめに東寄りの風(こち)が吹いた後に北寄りの冷たい風がそのサインだ。
これが三寒四温のサンのリズム。日本だけではなく中国東北部や朝鮮半島にも同じリズムがある。

天気図で追っていると昨日までなかったところに急に姿を現す。温帯低気圧は移動性高気圧の狭間に生み出される。
つまり、その後に暖かくて乾燥した高気圧が日本列島を覆う。
誰もが春の気配を感じ、梅は蕾を膨らませ、鳥は鳴き、草は萌え出す。
そう、これが三寒四温のヨンのリズム。
ヨンのリズムは暖かで穏やかな春風が舞う。万物の生命を育むスイッチの役割を担い、恵風ともいう。古来の日本人は春の柔らかな日差しの中でふくそよ風の様子を見て、「風光る」と表現したことに感心と感動を覚える。
古来から風は季節の移ろいゆく様を示す貴重な地球からの便りだった。さらに農家にとって天気の変化を知らせてくれる神の教えでもあった。キジは春を十分に感じ始める三月ごろに初めて鳴いて、朝を告げる鳥となる。

揚子江気団から訪れる移動性高気圧とその後に必ず続く温帯低気圧は次第に冬将軍の力を奪っていく。
低気圧は持ち上げて拡散するが、高気圧は下降気流で拡散する。
すると温帯低気圧の通り道が次第に北上していく。こうして冬の東低西高気圧配置を崩していく。
温帯低気圧が日本列島の真上を通ると、みぞれのような冷たい雨が関東に注ぎ、列島中央部の山間地帯は豪雪となる。
こういう天気のときに大きな災害につながりやすい。

そしていよいよ冬将軍が舞台から降りて主役の座を明け渡すとき、日本海側を通る。
そのとき日本列島にはっきりと春の訪れを告げる儀式がある。それが誰もが知っている春一番なのだ。
気象庁の春一番の定義は「春分から立春までの間に、風速8m以上の南寄りの風が吹き、気温が上昇した場合」となっている。春分は太陽が真東から昇り、真西へと落ちていく日で、この前後の数日間が春の彼岸である。スズメなどの小さな鳥たちは子育てのための巣作りを始める。日本では春分の日は「自然をたたえ、生物を慈しむ」日として祝日となっている。
この春一番は揚子江気団がシベリア気団に変わって舞台の主役に躍り出たことを大袈裟に誰にでもわかるように知らせる鐘の役割を務める。
この春一番は豪雪地帯ではときに雪解風となり、雪崩注意の鐘の役割も担う。
「冬のやまじ(南風)は人を食う」ということわざもあるくらいだ。
この時に降る雨は木の芽雨とも呼ばれ、草木の息吹に気がつくこともあるだろう。そして次に来る寒さは木の芽冷えという。

ここから三寒四温のリズムは次第に早くなっていく。
サンが少しずつニとなり、イチとなっていく。
ヨンが少しずつゴとなり、ロクとなっていく。
さくらの開花時期に吹く風を春二番、最後の桜を散らし花吹雪と花筏を作り出す風は春三番という。
暖かいひと雨が来る度に草木は萌え動く。とおく山々の山桜やコブシなども咲き、山笑う季節となる。
その風に合わせるかのようにヒバリは高く舞い、冬の間に日本に渡ってきた雁たちは北国へ帰っていく。その群れをなして渡る様子を鳥曇り、その羽音を鳥風という。
こうして4月は生命が清々しく躍動する。まさに二十四節気の清明と呼ぶにふさわしい。

四月の終わりの気象は「五風十雨」と呼ばれ、五日に一度風が吹き、投下に一度雨が降る。春から初夏への順調な天気であり、そこから転じて世の中が平穏無事であるという意味も生まれた。過ごしやすく、農作業が捗る。
こうして立春から八十八日が経つともうすぐ初夏となる。八十八夜は農の吉日であり、全国でさまざまな作物の種まきがはじまり、お茶の主産地では一番茶の詰みが始まる。季節外れの忘れ霜が降りてこないことを祈るばかりだ。末広がりの八が重なった八十八夜の新茶は無病息災、不老長寿の縁起物で人気が高いため、台無しにするわけにはいかない。そのため扇風機のような風を起こす機械が活躍する。

そして、五月の頭になるとついには春の嵐、メイストリームと呼ばれる強い風と雨が大気と大地を揺るがす。
春という季節は野を彩る花の季節であると同時に強風の季節でもある。だからこそ、日本人はその儚さに心を寄せてきた。

ここで、ナナという数字は地球のリズムについて考えみたい。
農事暦の中心である月のリズムにははっきりとナナが刻まれている。
新月から上弦の月、上弦の月から満月、満月から下弦の月、下弦の月から新月がほぼ7日間。
それに伴って潮のリズムが生み出されることは誰もが知っていることだろう。
女性の生理周期もこれに則っている。病院で処方される薬も7日間単位が基本だ。
仏教が色濃く映し出される法事にも七日ごとに忌日として、初七日の後、二七日、三七日、四七日、五七日(三十五日)、六七日を経て、七七日(四十九日)をもって忌明けとなる。
季節の行事の多くも新月、上弦の月、満月に行われる。旧暦でいえば朔日、七日(もしくは八日)、十五日だ。二十三夜待ちとか二十六夜待ちという月を祀る祭りも各地にあった。

世界中の生活リズムで1週7日間制がこんなにも受け入れられたことにも、やはりそのリズムに心地よさを感じていたからだろう。
世界中に地域歴がいまだに存在するがどこも7日間で一区切りとし、休養を入れる。

私たちの身体には、いや地球上の動物にも実は7日間のリズムが刻まれている。
歯を輪切りにして観察すると、木の年輪のような同心円の縞模様が映し出される。
木の年輪は1年ごとだが、歯の縞模様は日輪構造、つまり夜と昼の1日を描く。
薬理学者・岡田正弘はその縞模様が7日周期で一定の同じ縞模様を描くことをウサギにおいて見出した。
これは歯を持つ他の動物にも同じように見られるという。
また爪のような硬組織にも似たようなリズムが刻まれているそうだ。
そういえば、日本の正月の面白い験担ぎに七草爪というのがある。
1年で初めて爪を切る日は1月7日。そして春の七草を浸した水に爪をつけて柔らかくしてから切るとその1年間は病気にかからないという験担ぎである。
やはり、昔から日本の民間には7日間のリズムをはっきりと感じていたのだろうか。

江戸時代の百姓や町人の間で大流行した俳句は五・七・五のリズム(十七音)で季語を入れる。
文字を読めない農民のために農書の教えはときに俳句となり、歌となった。
その歌とリズムが田楽となり町歌舞伎となり、現代の田舎のおじさまたちのカラオケ好きまで続いているような気がしてならない。

7日間のリズムを意識し始めたのは畑を始めてからだった。
前述したように春には7日間ごとに天気が変わるから、作業のリズムが生まれる。
しかし、強く7日間のリズムを意識し始めたのは適期の存在を、つまり作業の旬に気がついてからだった。

農業の職人たちは適期適作に重きを置いている。
私に自然農(自然栽培)を叩き込んでくれた職人たちはカレンダー通りに計画表通りに作業をしなかった。
毎日外に出て、空気を感じ、野菜の様子を観察し、鳥や獣たちに気を配る。
そして「よし、今日だ」と小さく呟くと旬の作業に全力を尽くすのである。
その作業の旬の消費期限が7日間だった。7日間が勝負だった。
そして、空気も野菜たちの様子も獣たちの気配もこの7日間で一気に姿を変えていくのである。

この春先のナナのリズムを観察するのにうってつけなのがムギとマメ、菜花たちだ。
彼らは冬将軍が舞台に上がっているときは地面すれすれで、ひっそりとじっとしている。
しかし、彼らは見えないところで、つまり地面下で根を、大地に張り巡らせていく。
次に移動性高気圧が訪れるたびに、つまり冬将軍がいっとき姿を消す時に、少しだけ背丈を高くする。
そして、冬将軍が完全に舞台から降りると、その背丈は一気に高さを増す。
ムギはひたすら天を目指し、マメは絡みつくか仁王立ちか、菜花はついに花を咲かす。
冬の間に根を伸ばした分だけ、彼らは成長しタネをつける。
春のナナのリスムを生かすのは冬の静かな季節に誰にも知られない地道な努力だった。

太陽(地球の位置)が空気を変え、空気が草木を変え、草木が獣たちを変える。
その繋がりを感じるとき、私たちの身体にはナナのリズムが刻まれていく。
季節が変わるということは、地球が動いている証であり、自ずと私たちも変わっていることである。
私たちの身体内部もまた変化し、体調の浮き沈みとなって体感する。身体も心も、春には春の整え方がある。自然と調和した暮らしを始めるとときにデトックスのような形で体調を大きく崩すことがあるのは、自然のリズムを思い出したからなのだろう。今まで人間の都合で押さえつけていたものが動き出したのだから、大切に労って春の季節の巡りのように静かにゆっくりと穏やかに巡らせていきたい。種子の発芽のように。巡らせることが恵みにつながるのだから。

日本の周りには4つの気団が、しかもすべて性質が違う気団がある。
さながら日本列島は1年を通じてときには勢いを増し、ときには衰えながら主役が入れ替わる舞台となっている。
天気予報でよく目にする天気図を1年を通してみると映画の絵コンテを見ているようで楽しくなる。
日本の四季が美しくなるのは日本列島が4つの気団のエッジに位置しているからだ。
日本の空は世界的にも美しい。変化に富む。だからこそ、日本の森林も、田畑も、足元の草花も変化に富む。
パーマカルチャーではこれをエッジ効果と呼んでいる。エッジにこそ多様性が生まれ、高いエネルギーが産まれる。

~今後のスケジュール~

<自然農とパーマカルチャーデザイン 連続講座>
・沖縄県本部町 2月11日~12月1日
https://fb.me/e/4ZoQTy8Qd
・沖縄県豊見城市 2月10日~11月30日
https://fb.me/e/1vqPRSvCw

・京都府南丹市 3月16日~11月16日
https://fb.me/e/1GDPiBzoQ
・京都会場 無料説明会 2月17日
https://fb.me/e/50pdW5JJX

<自然農とパーマカルチャー1日講座>
・岐阜県岐阜市 4月21日

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