ケイバの壁(#6名馬編①顕彰馬)
名馬の基準として最も分かりやすい指標は「競馬の殿堂」(顕彰馬)である。
次いで、年度代表馬(JRA賞)が一般的なものであろう。
今回は顕彰馬について考えてみたい。
「競馬の殿堂」は1984年に設置(制定)された。
これまで顕彰馬は34頭が選出されている(2022年4月現在)。
今年の選考(投票)結果は6月上旬に出る予定であり、アーモンドアイが選出される見込みである(追記:なんと落選!!笑)。
では、歴代の顕彰馬を見ていくことにしよう。
■競馬の殿堂(JRA顕彰馬)
①クモハタ(生年1936)選出年1984 21戦9勝
②セントライト(1938) 1984 12戦9勝
③クリフジ(1940) 1984 11戦11勝
④トキツカゼ(1944) 1984 30戦11勝
⑤トサミドリ(1946) 1984 31戦21勝
⑥トキノミノル(1948) 1984 10戦10勝
⑦メイヂヒカリ(1952) 1990 21戦16勝
⑧ハクチカラ(1953) 1984 49戦21勝
⑨セイユウ(1954) 1985 49戦26勝
⑩コダマ(1957) 1990 17戦12勝
⑪シンザン(1961) 1984 19戦15勝
⑫スピードシンボリ(1963) 1990 43戦17勝
⑬タケシバオー(1965) 2004 29戦16勝
⑭グランドマーチス(1969) 1985 63戦23勝
⑮ハイセイコー(1970) 1984 22戦13勝
⑯トウショウボーイ(1973) 1984 15戦10勝
⑰テンポイント(1973) 1990 18戦11勝
⑱マルゼンスキー(1974) 1990 8戦8勝
⑲ミスターシービー(1980) 1986 15戦8勝
⑳シンボリルドルフ(1981) 1987 16戦13勝
㉑メジロラモーヌ(1983) 1987 12戦9勝
㉒オグリキャップ(1985) 1991 32戦22勝
㉓メジロマックイーン(1987) 1994 21戦12勝
㉔トウカイテイオー(1988) 1995 12戦9勝
㉕ナリタブライアン(1991) 1998 21戦12勝
㉖タイキシャトル(1994) 1999 13戦11勝
㉗エルコンドルパサー(1995) 2014 11戦8勝
㉘テイエムオペラオー(1996) 2004 26戦14勝
㉙ディープインパクト(2002) 2008 14戦12勝
㉚ウオッカ(2004) 2011 26戦10勝
㉛オルフェーヴル(2008) 2015 21戦12勝
㉜ロードカナロア(2008) 2018 19戦13勝
㉝ジェンティルドンナ(2009) 2016 19戦10勝
㉞キタサンブラック(2012) 2020 20戦12勝
(㉟アーモンドアイ 2015 2022 15戦11勝)
このようになっている。
ところで、江面(2017)によれば顕彰馬の歴史は6グループに分かれるという。
第1部 戦前:競馬の黎明期 (※ この表現は誤解を招きかねない、笑)
①から③
第2部 戦後:競馬の復興期 (※ たぶん国営競馬時代を復興期としている)
④から⑨
第3部 高度成長時代:競馬の大衆化 (※ ハイセイコーブームの影響か)
⑩から⑮
第4部 昭和50年代:競馬の成長期 (※ 他の公営競技と比べて伸びた期間)
⑯から㉑
第5部 バブルの余韻:日本馬のレベルアップ(※外国からの種牡馬、繁殖牝馬=肌馬の良化、第2次競馬ブームの始まり)
㉒から㉗
第6部 2000年代:世界の中の日本競馬 (※ 日本調教馬が海外で活躍するようになった時代)
㉘から㉞
と、分けられているが、
私は別の見方をする。
花の1984年組(1985年から1987年の準花組)と1990年組
と
それ以外(笑)
グレード制導入(1984年)以降、もっと言ってしまえばJRAによる80年代革命(※)の象徴が「競馬の殿堂」企画でもあった。
また、違った見方を提示してみよう。
1936年生からの20年間(1955年まで)。
選ばれた馬は9頭。
1956年からの20年間(1975年まで)。
選ばれた馬は9頭。
1976年からの20年間(1995年まで)。
選ばれた馬は9頭。
1996年からの20年間(2015年まで)。
選ばれた馬は7頭。
となっている。
このように見るとやや厳しめの印象が残る近年の顕彰馬選考(記者や制度に対する不満、笑)も割とまともであるということが分かる。
これは間違いなく選考者と競馬ファンの「認識の壁」だ。
しかし、である。
これからの顕彰馬選考は大きな問題を抱えている。
候補がたくさんいる(笑)
アーモンドアイ(なぜか落選!)、コントレイル、デアリングタクト、オジュウチョウサン、クロノジェネシス、グランアレグリア・・・
つい最近ではあのGⅠ7勝を誇るキタサンブラックですら初年度投票は落選した(アーモンドアイも追加、笑)。
昨年度と今年は該当馬はなし!
(大種牡馬であるキングカメハメハやブエナビスタは蚊帳の外・・・門番となる逸材、笑)
さて、近年の顕彰馬選考が厳しい。あるいは少ないといったイメージは「基準が著しく上がったこと」が2つ挙げられる。
1つは日本のGⅠの数が増えた。もう1つは海外GⅠに挑戦する馬が増えたからである。
だから昔に比べて印象論(戦績を含む)では少ないと感じてしまう。
問題は選考方法の理由だけではないのだ。
しかしながら、その点を踏まえた上でGⅠ6勝を達成した馬や種牡馬(あるいは現役時活躍し、かつ繁殖としても優秀なシーザリオのような牝馬)として大成功を収めた馬が選出されないのは実に可哀想ではある(アーモンドアイが、おそろしや~)。
2000年代は1.5~2倍増であっても良いのではないか。
実はウマ娘の圧倒的センター・スペシャルウィークも顕彰馬ではない(笑)。
娘のブエナビスタも顕彰馬ではない。
お馬とお馬を合わせて幸せ(顕彰馬)とはならないものか。
「20世紀の名馬100」企画とのズレも甚大なものがあるぞ(笑)
この件については今後も引き続き検討していきたい。
参考資料)
江面弘也(2007)『名馬を読む』三賢社
※ジェンティルドンナ選出までの32頭のエピソードを収録
日本中央競馬会編(2005)『日本中央競馬会50年史』日本中央競馬会
※80年代以降の諸改革(クリーンな競馬イメージ作り)について詳しい
小沼啓二(1993)『JRA・超巨大財務の秘密:不況を知らないサラブレッドビジネスの内幕を探る』こう書房
小沼啓二(1997)『日本中央競馬会の陰謀:JRAは誰の味方か』日本イベントプロデューサーズアカデミー(NEPA)
小沼啓二(2000)『競馬のからくりが怖いほどわかる本』王様文庫
※金融ジャーナリストである小沼によるJRA(主に好景気時)の分析。
通称・小沼三部作(=筆者による造語)
これを読むと80年代のJRA改革の意味(良くも悪くも、笑)がわかる
なお、JRAの売上のピークは「1997年」であるので、これ以後の競馬関連本は「売上低下問題」に対する改善点を提示する類の本が乱立する(笑)。
筆者の本棚にも多数ある・・・
「2012年」から現在までは売上が10年連続で回復中。
岩崎徹(2002)『競馬社会をみると、日本経済がみえてくる』源草社
岩崎先生の代表作。この本を読むと競馬の国際化と馬産地の状況、種馬や繁殖牝馬の輸入、公営競技の売上シェア率の推移などが把握できる。
JRAの売上推移:https://jra.jp/company/about/outline/growth/pdf/g_22_01.pdf
(2022.4.10)
追記)
まさかこのような悲しいニュースを付記することになるとは・・・
来年はコントレイル(無敗の三冠馬)が加わる状況だ。
(2022.11.10)