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第5話:「みどりのマキバオー」

平成に入ると続々と競馬マンガが出現し、少年誌を彩り豊かなものにした。

その背景には競馬の世界でのブームがあった。

時代の象徴となったスターホース「オグリキャップ」、その好敵手であったタマモクロス、スーパークリーク、イナリワンなど地方からの「芦毛の怪物」の登場は同じ芦毛の稲妻タマモクロス(史上初の天皇賞春秋連覇)と共に「芦毛伝説」のスタートを促した。この伝説はメジロマックイーンの活躍によって絶頂期を迎える(ビワハヤヒデの登場まで)。

(やっとウマ娘ファンの方なら聞いたこともある名前が出てきた、笑)

また、天才ジョッキー・武豊(1987年デビュー)も同時期に現れた。

このようなオグリキャップが中央でデビューした1988年以降の競馬ブームがマンガ世界にも影響を及ぼし、これまで競馬に関心がなかった若い世代や女性も競馬場に足を運ぶようになった。その追い風の中で競馬マンガブームも起きた(『ダビスタ』も同じ)。

まず先陣を切って登場した作品は平成元年の『風のシルフィード』(本島幸久、マガジン連載)だった(オグリキャップ現役中の1989年からビワハヤヒデの年、いわゆるBNWの1993年クラシック世代年末まで連載、全23巻)

この作品の革命的であった点は多々ある。

その幾つかを紹介しよう。

第一にタイトルが人間ではなく、馬の名前になった。これは「番号」(枠連馬券)から「名前」(単勝馬券に馬名)の時代へと移行しつつある競馬社会とも連動した。つまり、主役が変わったのだ!(同作品は主人公が騎手となり、ダブル主人公であったが、タイトルに馬名が付いた意義は大きい。)

第二に本作品は競馬サークルというものを世に伝えた。競馬には様々な人が携わっている。調教師、調教助手、厩務員、騎手など。また馬運車(運送業者)、獣医、各種研究、トレーニング施設も大切な存在である。中でも調教師、騎手の役割を高く評価した作品は今までになかった。

第三に競馬をギャンブルではなく、感動巨編に仕立て上げた作風として第1巻は輝きを放った。それは寺山修司のエッセイ(「さらば!ハイセイコー」『競馬への望郷』)や宮本輝『優駿』(第1回JRA賞馬事文化賞受賞作品。後に映画化もされた)などにも見られた伝統技法であったが、マンガの世界ではこの作品が初となった。なおシルフィードの夢とロマン、スケールの大きさは凱旋門賞(仏、GⅠ)にまで至る。その世界観は現実の競馬をも上回っていた(1999年の日本調教馬エルコンドルパサー2着よりも先)

第四にライバル関係を確立した点がある。シルフィードと言えば、マキシマム、ヒヌマボーク(芦毛馬)がよく知られている。シルフィードとヒヌマボークの関係は史実のオグリキャプとタマモクロスのようであった。こうした分かりやすいライバル関係の構図も従来の作品にはなかった。

これを受けて1990年代半ばに登場したものが『みどりのマキバオー』(つの丸、ジャンプ連載)であった。

この時期は『優駿の門』(やまさき拓味、チャンピオン)『じゃじゃ馬グルーミン★UP!』(ゆうきまさみ、サンデー)、シルフィードの続編にあたる『蒼き神話マルス』(本島幸久、マガジン)も連載されていたのであるが、この中で頭一つ抜きん出た作品が同作品であった。

マキバオーは『週刊少年ジャンプ』にて1994年50号から1998年9月号まで連載された全16巻の競馬マンガ作品である。

主人公はミドリマキバオー(うんこたれ蔵)といい、異名は「白い珍獣」、「白い奇跡」と呼ばれる白毛馬だった。同作品はシルフィードの流れを組んでいる。例えば、タイトルが馬(マキバオー)である。また競馬サークルというものをより深く世間に伝えた。

さらに本作の特徴は人間(調教師、馬主、厩務員)だけでなく、マキバオーの助手であるねずみのチュウ兵衛が大きな役割を果たした。彼の存在なくしてマキバオーの伝説は語れない。この点で競馬をギャンブルではなく、感動巨編に仕立て上げた作品としてはシルフィードを上回るものがあった(筆者の主観も入ります、笑)。

この作品は競馬の光の部分だけでなく、暗の部分も世に伝えた。そう、競馬はギャンブルである。

競馬雑誌『週刊競馬ゴング』の記者やハゲ親父(ゲーハーと呼ばれる)の競馬ファンがこの現実を伝える。彼らにとって馬券は娯楽だけでなく生活を懸けた戦いなのだった。ここから、競馬のお金の部分、弱小生産者の模様(良血と大牧場)、母馬と仔馬の別れ、レース中の不慮の事故、中央と地方の格差(プライドの部分も含む)、日本産馬と外国産馬の競馬社会(当時の競馬界のルール)など競馬の泥臭い部分も巧みに描かれた。この点はシルフィードの人生ドラマをよりスケールアップさせたものだった。

また、主人公とライバルの見た目や個性(特徴)も豊かになった。これも忘れてはならないところであろう。マキバオーは見た目が「珍獣」というだけでなく、なんと人間の言葉を話す(勘の鋭い方はもうお分かりであろう、笑)。「んあ~」、「~なのね」が口癖であり、りんごが大好物であった(そのため、激太りしたこともある。にんじんではなくりんご、笑)。

この人間とコミュニケーションを取れるということ(手法)は競馬マンガ界および日本大衆競馬文化を形付ける上で大きな「革命」であった(ちなみに、ねずみの親分・チュウ兵衛も言葉が話せる)。

ライバル関係はカスケード、アマゴワクチン(ピーターⅡの弟)、ニトロニクス(外国産馬の象徴)、モーリアロー(生産関係、家族と馬)、ベアナックル、アンカルジア、トゥーカッター、サトミアマゾン(地方の星)、ヒゲ○○たち(悪質なライバル)と彩り豊かになった。さらに同作品はモンゴル遠征で「ナーダム」(伝統競馬)、女性騎手の高坂里華、ドバイへの遠征など現在の競馬を先取り(むしろ、現実の活躍を巧みに表現)したところも見られた。当時の読者はツァビデル(モンゴル)、エルサレム(ドバイ)と名前を出せば、たちまち少年少女時代に立ち戻ることが出来よう。

無論、この作品でも凱旋門賞のシーンも描かれたが、それはシルフィードと対照的なものとして登場した(ネタバレはしない、笑)。この辺りが作者(つの丸)の力量、センスであろう。

また、マキバオーが競馬マンガの金字塔たる所以は土曜日の夕方、いわゆる(当時の)アニメにおけるゴールデンタイムに連続して放送されたことだ(放送期間はフジテレビ・スタジオぴえろ制作で1996年3月2日から1997年7月12日放送、全61話)。また、ギャンブル(賭博)マンガであるのにもかかわらず、第42回(平成8年度)小学館漫画賞(児童部門)を受賞した(まさに革新的!)。これによって日本の競馬(ギャンブル)観が現実競馬以外の場面でも大幅に認知されるようになった。私がマキバオーのライバルたちをたくさん思い出すことができるのは「アニメ化」されたことに他ならず、シルフィードとの違いはそこにも垣間見えよう。

さて、これ以降も『ダービージョッキー』(一色登希彦・武豊・工藤晋、ビックサンデー連載)『うままんが日記』(荒川耕、サラブレ連載)『優駿の門』の続編や関連作品(『優駿たちの蹄跡』、『優駿の門GⅠ』、『優駿の門ピエタ』ほか)、『JUMP MAN~ふたりの大障害~』(井上正治、マガジン連載)などが描かれた。

この時期には女性騎手や新人騎手、障害競走に特化した作品や近代競馬、地方競馬を扱ったものも登場した。近代競馬を扱った作品としては『竜蹄の門』(やまさき拓味、コミック乱ツインズ連載)、地方競馬を扱ったものとしてはマキバオーの続編にあたる『たいようのマキバオー』(つの丸、週刊プレイボーイ連載)が異彩を放った。地方編のマキバオーはヒノデマキバオーが主人公であったが、彼は中央ではなく、高知競馬に所属していた。これは当時の地方競馬界の業界模様を切実に表したもの(リンク参照)だった。その証拠に作品途中に登場する荒尾競馬は実際につぶれてしまった

後の展開としては笠松競馬の答申を経て、地方競馬は再生する(現在、中央競馬の馬券の買い目、控除率が馬券種:単勝、馬連、3連単など、ごとに変化したのはこのためである)。

当時、ヒノデマキバオーの所属する高知競馬も破綻寸前であった。

作者つの丸は「空想」をマンガ世界に落とし込んだのではなく、「現実」をマンガ化させる社会派漫画家としても天才だった!

とはいえ、2000年代の競馬マンガの中心は2006年に『週刊ヤングマガジン』(講談社)で始まった『ウイニング・チケット』(小松大幹・河村清明)であった。

2010年代まで青年誌で長期連載された同作品は『ウマ娘 シンデレラグレイ』に橋渡しをする重要な作品となった。

なお、『みどりのマキバオー』、『じゃじゃ馬グルーミン★UP!』は1994年に連載が開始され、後に競馬マンガの第一人者となったやまさき拓味の『優駿の門』が始まったのは1995年。1994年は三冠馬ナリタブライアン(史上5頭目)が誕生した年である。

1990年代半ばのブームを背負ったのがこれらの作品群であったとすれば、『ウイニング・チケット』は無敗の「三冠馬」ディープインパクト(史上6頭目)の全盛期に登場した。また続く、ウオッカ、ダイワスカーレットの時代にそれは成長を遂げた。最終的に同作品は2012年5月に連載を終了した(『ウイニング・チケット(全21巻)』に続き『ウイニング・チケットⅡ(全4巻)』)。これは2011年の「三冠馬」オルフェーヴル(史上7頭目)の誕生を見届けて終わったことを意味した。

同作品の特徴は当時の外国人馬主問題を絡めた競馬の国際化を扱った作品であったが、基本軸は主人公二階堂駿とミカヅキオーを巡る「愛」と「友情」の物語である。主人公は天才的な相馬眼を持つ生産者・二階堂駿(元騎手)、「トレーナー」である(これも思い当たる節が、笑)。主人公は天才的な馬券の検討から調教師、馬主、厩務員などの馬全体の生産活動を指揮する。また主人公と競馬場で出会い競馬好きが高じて大手優良企業を脱サラしてしまいサラブレッド生産者となった若者2人もそれにスパイスを加える。要するに、この作品の視点は「トレーナー」の側にあった。特にW主人公といったわけでもなく(ミカヅキオーがいる)、「トレーナー」としての夢を賭けることが同作の主題だった。読者は疑似トレーナーとして駿(のファン)となって、それにシンクロした(イケメンだったから女性ファンもいた、笑)。

こうして「芦毛馬」や「三冠馬」、『シルフィード』、『マキバオー』、『ウイニング・チケット』を巡る物語は『ウマ娘 シンデレラグレイ』という新伝説に引き継がれることになる。


追記)

①当時の地方競馬の状況について:「荒尾競馬ドキュメント」

②馬券(勝馬投票券)の法改正(控除率)
馬券の種類:
https://www.jra.go.jp/kouza/beginner/baken/ 
馬券のルール:払戻率は先の法改正による。

③実は私の名刺が登場している(笑)


駿の名前の由来は切ない、またミカヅキオーの由来は鋭い競馬ファンなら分かるかもしれません・・・

次回はいよいよ『ウマ娘 シンデレラグレイ』篇!

いわゆる一筆書きであまり細かく資料も見てないから、間違いがあるかも・・・

参考文献などは後でまとめる予定です。

自己紹介から一気に来た感じ・・・笑

ゲーム「ウマ娘」のクリスマスガチャ、ワールドカップも近い!

落ち着きのないスペちゃん(中身の人)であった。

(名刺はまだ残ってるかなぁ・・・)


(2022.11.18)




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