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アジア圏で爆増中「マジカル家事メン」ドラマにモヤモヤするポイント

近年、アジア圏のドラマでは、ズバ抜けた家事スキルを持つ男性主人公のドラマが増えてきた。
 
例えば、今期、日本で放送されている『わたしのお嫁くん』(フジテレビ系列で放送中)。
 
男主はおたまを振り回して悪者を撃退し、仕事はできるが家事が苦手な女主の生活を整える。過去の仮面ライダーの劇中で正しさと強さを求めて闇落ちした彼は「最強家事スキル」を身に着けていた。
 
そして、中国ドラマの『Falling before fireworks(最食人间烟火色)』(Iqiyiで配信中)。

出世して職場で陰口をたたかれまくっている女主を、男主の温かい料理と愛くるしい子犬たちが癒す。自宅で伝統工芸品を作る男主は卓越した家事スキルを持ち、仕事のイライラを自宅に持ち込んでいつもスマホばかり見ている女主の心はほぐれていく。

 これらのドラマでは、見目麗しい男主たちが女主のQOL(生活の質)爆上げに貢献する「ヒーロー」となり、剣を振らずに、鍋を振る。
 
どちらも深く考えずに観られるので、私は夜、山のような洗濯物をたたみ、アイロンをかけながらニヤニヤと見ている。それにしても最近「男主が家事テクニシャン」のドラマ、本当に多い。
 
面白いけど、一方でモヤモヤもする。
 
結局、多くの人は「主婦的な存在」を必要としているのではないか、と。
 
そこに住まう人のことを思って部屋を整え、体に良い食事を作り、家庭内に何かあれば「調整弁」のように伸びたり縮んだりして、困りごとを解決したり面倒なことをやってくれる「誰か」を。
 
先にあげた2つのドラマでは、いずれの男主も「洗いものが増えるから、おかずは大皿に全乗せしろ!」とか言わないし、倒れたら全力で看病してくれるし、「おいしい」と無邪気に喜べばまた作ってくれる。「家事はテクニックだけじゃなくてハートも大事よ」マターをきちんと網羅している。
 
近年、女性に向けて「内助の功」というほめ言葉を使うべきではないという声が聞かれるが、これらのドラマでは、男性側が多忙な女性の「内助の功」を担う。

よって女性側の生活の質は上がり、家事を任せられる安心感が宿るが、それは面倒な家事を「マジカルな男主」が担っているからにすぎないのだ。

■「家事の魔法」を信じる人たちの声

現実社会にはタダで家事を機嫌よく担い続けてくれるヒーローもヒロインもいない。面倒なことを押し付けたり、押し付けられたり、感謝したり、感謝されたり、押し付け合った末にケンカしたりして、変わりばえのない日常は今日も回っている。

家庭の中の誰かが寝る間・食べる間を惜しんで外で働いている場合、別の誰かが「主婦的な仕事」をしない限り、部屋は荒れるし、食生活は乏しくなるばかりだ。今のところ、家事が消える魔法もテクノロジーはなく、ChatGPTは家事をしてくれない。
 
にも関わらず、いまだに「家事ゼロ化の魔法」を信じる人もいる。

国内のネット言論を振り返っても「家事は月に2万円も払えば業者が全部やってくれる」と豪語するハイパーデフレの異世界から来ている人がいれば、家事を外注しない人を“バカ”となじって炎上したドラえもんみたいな通称の人もいるし、「掃除、洗濯、食事・子供のお弁当の用意(3分で済む)など全部で1時間ぐらいだったけどw」と言い放つ、地球上では実業家の魔法使いもいる。

時代と場所を変えると、経済学の父と呼ばれるアダム・スミスは、身の回りの家事の一切を母親に丸投げしてその分研究に没頭し、自身の研究では家事の経済的価値をカウントしていない、というのだから(『アダム・スミスの夕食を作ったのは誰か』参照)、身近な手よりも見えざる手に注目して「家事ゼロ化の魔法」にかかっていたのかもしれない。

結局、家事をしない人は、誰かの家事力に依存している。そして、家事のすべてを委ねられるような信頼できる人との巡り会いは、金を介しても難しく、家事の分配と差配の労力が負担になるケースもある。

経済の最前線にいる(と自負する人)にとっては家事の経済的価値は小さいかもしれない。だが、人間らしく暮らすために家事は必要で、その家事はけっこうな重労働で、だからこそ家事を見下さず、家事を分け合い、感謝を交わし、愛する人が家事の沼でおぼれて死なないように互いに思いやり、できる範囲で外部化できたらいい、と私は思う。
 
ゆえに「今は、マジカルな家事テクニシャン男主が全部の家事をやっつけるラブコメより、前向きに2人で家事協力して共闘するドラマが見たいぜ」なんて思いながら、洗濯畳みのお供に『We TV』で人気ランキング1位の中国ドラマ『The Love You Give Me』を見始めた。
 
冒頭で紹介したドラマの男主がわき役で出演していて、今回もスペシャルな家事スキルをふるって別の女性(仕事はできるが家事は苦手)のQOLを爆上げさせていた。

ラブコメのスーパーヒーローの必須小道具は、誰かを倒す武器や知識から、誰かを癒すマジカルな料理用包丁へとシフトしているのかもしれない。現実には魔法なんてどこにもないけれど。

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