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『島耕作』と『東京ラブストーリー』のその後

1980年代にスタートしたコミック『島耕作』シリーズ。ご存じの方が多いと思うが、主人公の島耕作は、公私の紆余曲折を経て出世して組織のトップを経験し、現在は社外取締役というポストについている。
 
島耕作が若かりし頃に成長途上にあった日本の産業は衰退の一途をたどっているが、耕作はそんな現状を憂いつつも、ゴルフ、高級クラブ、酒席での密談、社内政治、利害の絡んだ恋愛で、昭和のノスタルジーを香らせる。
 
作者の弘兼憲史氏のパートナーは、漫画家の柴門ふみ氏。バブル期に『東京ラブストーリー』を始めとした恋愛漫画の評価を得て「恋愛の教祖」と呼ばれたのは、過去のこと。近年は、漫画やエッセイで「家庭の問題」「夫婦の問題」を描く。
 
漫画の登場人物の多くは、夫婦関係に悩み、子どものケアや教育でもがき、妻・嫁・母としての孤独や葛藤を抱える。「母親たちの恋愛」というドラマ性の高いテーマを扱っているように見えるが、1つ1つの小さな場面をつなぎあわせていくと、家庭の問題から社会問題が浮かび上がってくることもある。
 
そんな柴門氏のエッセイ『結婚の嘘』や過去のインタビューを読んでいると、育児・家事にまるで無関心な弘兼氏との関係で苦しんだ時期があったことがうかがえる。その結果、「夫に期待しない」というスタンスに至ったことも伝わってくる。
 
ちなみに、弘兼氏は、以前、こんな発言をしてインターネットで炎上した。

<たとえば僕が上司の立場だとして、急遽、重要な案件が発生して緊急会議になるから残ってくれ、と部下に頼んだとします。その返答が「すみません、今日は子供の誕生日なので帰らせてください」だったとしたら、僕はその部下を仕事から外しますね。> 

『島耕作』作者・弘兼憲史氏「育児に熱心な男は出世しない」(NEWSポストセブン)

仕事に明け暮れていた弘兼氏にとって、子どもの成長の喜びや教育の悩みは、仕事に比べれば「些末なこと」なのかもしれないが、当時は自分の価値観を下の世代に押し付けるような言動は批判を浴びた。
 
話変わって、現在、政権やビジネス界と近いスタンスをとってきた弘兼氏が描く島耕作の最新話が炎上している。

インターネット上では「何が悪いんだ」というコメントも散見されるが、「防衛省広報アドバイザー」という肩書を持つ弘兼氏が漫画のストーリーに忍ばせて良いテーマではなかった。

物事を高いところから見下ろすばかりでは、真実が雲やノイズでおおわれ、社会を見つめる目は、少しずつ曇っていく。取材活動やゴルフ、酒席や財界とのつきあいによって見えるものは限られているのかもしれない。


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