中国ドラマの「産後クライシス」で現実が追いかけてきた
海外ドラマを見ていると、日本とちょっと似ていて、ちょっと違う「リアル」を疑似体験することがある。
今回は、中国の最新ドラマの『生活在别处的我』(英題: What If)を紹介する。
1話の時点では、女性主人公には、愛し愛されている恋人がいる。
恋人と2人で上海に転居してキャリアップを目指そうとするのだが、彼の父親が入院。そこから物語が2つに「分岐」していく。
1つの岐路を境に、2つのドラマが交互に表れる、ちょっと変わった構成のドラマだ。(日本の『ifもしも』みたいな感じ)
大都会の上海で仕事に励む物語にも、キャリアアップを断念して家庭の雑事に追われる物語にも、辛苦と幸せがあるのだが、特に「ドラマ1(結婚・出産・育児コース)」の「産後クライシス」の描写が日本と地続きだったので、ここで紹介したい。
「ドラマ1」では、長年ラブラブだった2人が子どもを授かる。
だが、男主はいつも激務。女主は、キャリアアップを目指していたのに、育児に追われ、義実家との関係の悩みも絶えない。ストレスが募る女主。そんな中で、こんな会話。
働きたい妻と忙しい夫がすれ違う。昔は、あんなにラブラブだったのに……。
妻は、働きたくても、0~1歳児の預け先はなく、ベビーシッターを探すのだが、なかなか信頼できるシッターに巡り合えず、さらにイライラが募る。
激務の夫は、妻の不機嫌の理由をなかなか理解できず、自分の母(妻にとっては義母)に育児を頼んで働けばいいじゃないか、と言い出す。
しぶる女主に「なんで、母さんの善意がわからないんだ」と責める。
日本にいる中国系家族の中にも、どちらかの親を呼び寄せ子どもの送迎や家事をまかせている家庭は少なくない。先日、同居していた義母が帰国したばかりの知人(中国人)が「家事・育児は大変になったけど、心はラクになった」とグチをこぼしていたが、どの国でもどの家族でもみんないろいろあるのだ。
このドラマの女主は、義実家と適度な距離を置きつつ、自分たちで子どもを育てたいと思っている。しかし、男主は「孫を見るのは、母の幸せ」と思っている節がある。
結局、家族第一の義母が面倒を見てくれることになり、女主は、就職活動を始めるのだが……
そして、採用面接にて。
ぐっ……!八方ふさがり。
恋愛中は、助手席に座っていた女主が、後部座席のチャイルドシートの隣に座るところもリアル。
子どもがインフルエンザにかかるシーンだ。
こういうやりとり、過去に私も愛する夫としたことがある。すごく愛してるのに。でも、極限の状態になると、互いへの思いやりが欠如することがあるのだ。
ものすごく疲れていると、相手が車を出してくれたとき、この一言が出てしまうのもわかる。
夫が飲み会の日の、にぎやかな場面と、家の中のシーンの対比も既視感がある。
「育児」は、労力と愛とお金のかかる一大プロジェクト。しかも、その役割は家族に集約されつつあり、かかる金も増大中だ。
中国では、日本と同様に、いや現時点のスピードは日本以上に急速に少子化が進んでおり、2023年の上海の合計特殊出生率が0.6と報じられた。
そりゃあ、こんな感じなら少子化も進む。日本でも中国でも。
ちなみに、上海でキャリアアップを目指した「ドラマ2」の女主(ドラマ1と同じ人が演じている)は、ファッションもメイクもバッチリ。激務の日々を送り、アドレナリン・ドリブンの金持ち社長に愛される。
金とキャリアが強い社会において、子どもを持つのが怖い気持ち、わかる。たくさんの幸せを運んできてくれるけれど。
2つのドラマを交互に流した制作の意図はよくわからない。英語のレビューでは、賛否両論だ。しかし、育児に疲れた母親も、大都会でキャリアにもがく様子も演じ分けた女主の演技力は、本当にすばらしい。
『生活在别处的我』は、動画配信プラットフォーム『We TV』で配信中。
※ 女主はこの記事で紹介している钟楚曦
※ 男主1(長年の恋人)はこの記事で紹介してる劉学義
※ 男主2(上海の経営者)は、この記事で紹介している林雨申