『海街チャチャチャ』完結直後のスキャンダル発覚で凹んでいるとき、偶然めぐりあった「ある真理」
「推しが燃えた。ファンを殴ったらしい。まだ詳細は何ひとつわかっていない」
これは、小説『推し、燃ゆ』(宇佐美りん著)の冒頭文。
「推し活」を生活の基軸としていた小説の主人公は、推しのスキャンダル後、生活が一変する。
私は今、その主人公の気持ちが少しわかる気がする。
ネットフリックスで韓国ドラマ『海街チャチャチャ』の最終回が配信され、「主役俳優のキム・ソンホ、めっちゃイイ!!」の気持ちが最高潮に達しているときに、大スキャンダルが勃発したのだ。
匿名で投稿された1件の書き込みがものすごいスピードで世界に拡散され、3日後、疑惑が真実だと発覚した。一昨は、空き時間にスマホで関連タグを検索し続けていた。なかなか重症である。
彼の今後の活動は白紙になった。運よく俳優に復帰することはできたとしても、これまでと同じ地位を取り戻すことは難しいかもしれない。
まるで予言の書…『海街チャチャチャ』の影響で購入した『エロティシズム』の一節
スキャンダルがあっても『海街チャチャチャ』は素晴らしいドラマだった。
劇中にはスポンサーがぶっこんでくる露骨な広告シーンもあったが、誰もが損得勘定に駆られてあわただしく暮らす現代社会に一石を投じる内容だったのは確かだ。
主人公は、誰にでも平等に接し、女性の“産前産後の痛み”も、老いのつらさも理解しようとつとめる、街の優しいヒーローだった。
私は、このドラマが大好きだったので、主人公の愛読書を一冊購入していた。
11話に登場する『エロティシズム』という本である。著者は、ジョルジュ・バタイユ。ところが、私は、通販サイトでF.アルベローニ著の『エロティシズム』を買ってしまった。しまった、間違えた。
「なんてこった!『エロティシズム』違いじゃねーか!」と、歯ぎしりした。
が、しかし。
偶然めぐりあった35年前に書かれた『エロティシズム』を読んでみたら、あまりにもタイムリーだったのでここに一部を記しておく。
内容は「多くのファンから愛される有名人」と「一般人」との恋愛で生じるいびつな関係について、だ。
作者によれば、真の恋愛とは、相手の卑小さも弱さも痛みも頼りなさもすべてひっくるめて愛すること。しかし、有名人との恋愛は違う。無意識のうちに「推し」に自分に都合のよい「ヒーロー像」を投影してしまう。
その一方で、「推される側(アイドルや俳優)」は等身大の自分を愛してもらっている実感をちっとも得ることができず、疑心暗鬼になりやすいというのだ。
この本は、根拠もないのに断定形の文章が多く「エビデンスは?」と突っ込みたくなる記述が多いが、「偶像」と「生身の人間」の恋愛について、かなりの字数が割かれている。
恋人のイメージと実像のギャップに幻滅しながらも彼に尽くし体にダメージを負って憎しみと被害者感情に胸を焼き尽くされた女性。成功の先の安寧を求めて損得勘定に突き動かされる俳優。その無味乾燥なすれ違いが見えてくるような気がする。
成功者は孤独だ。「上に行けば行くほど、空気が薄くなり、息がしづらくなる」と聞いたことがある。
現在、全ての仕事が白紙になった彼は、峰を転がり続ける恐怖や想像を絶するような心の痛みを味わっているかもしれない。
今はただ、このスキャンダルで傷ついた誰もが心身をいやすべく一日3回ご飯を食べて、身の回りをきれいに整えて、しっかり眠って、誰かと寄り添えていることをひたすら祈っている。
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