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sparrow tearsの読書

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2023年12月の記事一覧

日本人に刺さりまくる翻訳小説『トゥモロー・アンド・トゥモロー・アンド・トゥモロー』で喜怒哀楽が振り切れた【2023年ベスト小説】

今回ご紹介する小説『トゥモロー・アンド・トゥモロー・アンド・トゥモロー』の帯に書かれた日本語のキャッチコピーは「ゲーム制作に青春をかけた男女の友情の物語」。   はっきり言って、陳腐だと思った。が、読み終えたらそんな気持ちは霧消した。 だって、文化、エンタメ、友情、哲学、愛、性愛、成熟、マイノリティ、ビジネスのエッセンスを黄金比で調理したこの小説にベストなキャッチコピーなんてつけられない。 作家、ガブリエル・ゼヴィンのバランス感覚に恐れ入る。   私がこの本を手にとったき

テレビで求められる「コメンテーターの役割」を『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』から考える【読書感想文】

■『孤闘』とは? 先日、仕事の調べごとがあり図書館に出向いたら「本日、返却されました」コーナーで『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎)を見つけ、読了した。身銭を切っていないのだが、ここに感想を書きなぐっておく。   著者の西脇亨輔氏は、同著の執筆時はテレビ朝日局員(現在は退職)。   発端は2019年。西脇氏が公にしていなかった夫婦関係のプライベートなことを「国際政治学者」の三浦瑠麗氏が、当時のTwitter(現X)でつぶやいたことだ。   多数のフォロワーを持つ三浦

【読書感想文】韓国発『主婦である私がマルクスの「資本論」を読んだら』の最終章でクソ泣いた

少し前、日本の首相が「経済!経済!経済!」と連呼していた。 いわく「経済は一丁目一番地」だそうだ。   でも、ほとんどの国民はもう気づいている。 彼らのいう「経済」がひどく狭い意味であることを。   例えば、私の母が介護施設で利用者を楽しませるために自宅で寝る間を惜しんでレクリエーションのアイディアを練るプロセスは、彼らの考える経済に含まれていない。   家族を看病したり、吐しゃ物や排泄物を掃除したりして、感情をフル稼働する労力は経済にきっと含まれていない。   少子高齢化

【読書感想文】背筋凍る調査本『ぼっちな食卓』。「育児期の記憶の改ざん」が恐ろし過ぎた…

もっとラクしていいんだよ。 自由でいいんだよ。 こうあるべきなんてないし、嫌なことはやらなくていい。 個を尊重しようよ。個々が好きにすればいい。   そんな、耳当たりのいい優しい言葉があふれている。   だが、食卓の置かれた「家庭」という空間で、個々が自由に暮らす先に何があるのか?   そもそも「勝手」と「自由」の違いは?   「あなたが望んだから、それを選んだ」は、本当にその人のためになるのか?   その結末の一端は『ぼっちな食卓-限界家族と「個」の風景』(岩村暢子)の中に