公益通報の通報者保護の意味
(※本記事は、2024年11月6日配信のスパークル法律事務所ニュースvol.20の内容です。)
兵庫県知事選挙が告示され、日々紙面を賑わせていますが、何より注目を浴びているのが「公益通報」の話題です。先日、兵庫県前知事のパワハラ疑惑等に関して外部の報道機関等に告発文書が送付されたことに対し、県が告発者を特定するための調査を行い、告発者を特定した上で、懲戒処分としたことが大きな波紋を呼んでいます。
その後、県議会において真偽の調査のために百条委員会(地方自治法100条に基づく特別委員会の一つ)が設置されるとともに、前知事の不信任決議が行われ、これを受けて前知事は失職に至っています。一方、告発者は自ら命を絶ったとも報道されており、公益通報制度の在り方について、深刻な問題を提起しています。
【1】公益通報とは
公益通報者保護法は、公益通報をしたことを理由とする不利益な取扱いを禁止しています(法5条)。
この「公益通報」の語感からすると、(主観的であれ)公益的な目的でなされた通報がおよそ保護の対象になると理解されそうです。しかし、法律上は、あくまで法律の罰則(刑罰・過料)の対象となり得る重大な不正行為が通報事実である場合に限定されています。
パワハラやセクハラの通報が公益通報に該当するかという相談がよくありますが、刑法犯に該当するような極端な場合を除き、対象外であることが多いと言えます。ここが公益通報者保護法の盲点です。
しかし、だからといって、これらの行為を通報した通報者を保護しなくて良いということではありません。通報者の保護を図るのは、通報制度の実効性を担保するうえで非常に重要なポイントであり、内部通報制度を整備している会社では、その制度に関する規程において公益通報者保護法よりも幅広い範囲の通報を対象として、通報者を保護しているはずです(消費者庁「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する 民間事業者向けガイドライン」8頁等)。
【2】内部通報の実際
内部通報の現場にいると、人事評価への不満や職場の人間関係に関する相談、個人的な悩みや、会社の方針に対する意見など、多岐にわたる通報が寄せられます。しかし、そのような通報の中に、法令違反を示唆するものや、不正行為の兆候を示唆するコンプライアンス上重要なものが含まれていることがあります。
100件中1件であっても、そのような重要な事象を拾い上げ、深刻化する前に未然に防止することができたならば、内部統制システムの一部として制度が十分に機能していると評価できるでしょう。
【3】「告発者探し」の問題
これも内部通報の現場でよく起こることですが、匿名通報に対して「告発者探し」をしたいという声が出ることがあります。会社側の立場からは、会社に対する誹謗中傷と受け止められることもあり、そのような反応は人間の当然の心理でもあるといえるでしょう。
しかし、告発者探しが行われるのであれば、通報者は自らが特定されるリスクを避けるため、通報をためらうようになり、通報制度が機能しなくなります。また、従業員に不信感を与え、組織に対する忠誠心を低下させるとともに、そのような組織カルチャーは、不正行為を隠蔽し、組織全体の腐敗を招くことにもなりかねません。
内部通報制度は、単に法令遵守のためだけでなく、組織文化の改善や従業員エンゲージメントの向上にも役立ちます。企業は、内部通報制度を積極的に活用することで、より健全で活力のある組織を目指していく必要があります。
【4】ブログ記事のご紹介
公益通報制度の概要についてよく知りたい方は、川島龍明弁護士の法律記事をぜひご覧ください。また、内部通報制度に関わる制度設計や問題事象対応について、不明な点がございましたら、遠慮なく弊所までお問い合わせください。