来てもらわなくても良いお客様は、もはや客ではない!出禁帳の持つ意味!
出禁帳を持つ経営者の覚悟
ある地方の温浴施設では、なんと「出禁帳」が大学ノート3冊分もある。その中身を見せてもらう機会があったのだが、そこには日付ごとのやり取りと、なぜそのお客様が出禁になったのかが細かく書かれていた。
出禁の対象になるのは、ルールを守らない人や、スタッフに暴言を吐くような人たち。人口のそれほど多くない、一見のどかな地方なのに、そんなにトラブルメーカーが多いのか?と驚くばかりだ。
大阪のような言葉自体が荒ぽく聞こえる街で商売をしていた私が驚くほど、こんなに出禁にして大丈夫なのかと心配したほどだ!
顧客を選ぶという経営の覚悟
出禁帳に名前を記すという決断は、経営者しかできないことだ。つまり、この施設ではクレーム対応からトラブル解決まで、すべてを経営者が自ら引き受けているということ。「社長を出せ!」と威圧される前に、社長自らが先に出て行って事を収める覚悟がある。
自分の施設に来るお客様は、自分で選ぶという強い意志がなければできないことだ。
しかし、この方針は時に諸刃の剣でもある。気をつけないと、まるで気難しい大将が切り盛りする寿司屋のように、居心地の悪いお店になってしまうかもしれない。そうなれば、媚びたお客様ばかりが集まり、なんだか妙な雰囲気の店になる危険性もある。
でも、この施設を実際に訪れてみると、そんな心配は無用だった。お客様たちはみな穏やかで、平日のお昼にもかかわらず活気がある。
そんなお客様に対して、この経営者は驕ることなく、お客様の目線に立ちながらも自信を持って経営しているのが、よくわかる。
しっかりとした経営をすれば、お客様も安心して施設を利用できるという証だろう。
摩擦を避けず、しっかり向き合う
出禁帳に書かれているのは、まさに顧客との「摩擦の記録」だ。普通なら面倒だからと目をそらしたくなるようなことでも、この経営者は一つひとつきちんと向き合っている。正直、エネルギーが要ることだし、誰にでもできることではない。
でも、それをうやむやにせずに処理していくからこそ、信頼される施設になっているのだろう。
ここでの考え方は、「お客様は神様ではない」。提供する側と受け取る側は、対等な関係にあるべきだという信念を持っている。
実は私も、社会に出たばかりのころ、この教えを受けたことがある。それ以来、ずっと心に刻んできた大切な考え方だ。
顧客との対等な関係が作る良いサービス
私がかつて働いていた業界は高額な宝飾品を扱うことが多く、神様のように扱われないと満足しないお客様も珍しくなかった。
でも、そんな時に大事なのは、卑屈にならないこと。そして、逆に安い商品を買うお客様を見下すこともないようにすることだ。
残念ながら、同業者の中には顧客に対して下僕のように振る舞うところもあった。特にデパートの外商部などでは、常連客にはへつらい、一見さんには冷たい態度を取るところもあった。その態度は出入りをする私に対しても当てはまり、残念な商売をするところだと感じていたものだ。
そんな経験を経て、私はスーパー銭湯の運営に携わるようになったが、お客様から「選ばれる施設でありたい」、そして「こちらもお客様を選ぶ」という自負を持ち続けていた。
さすがに出禁帳を作ることはなかった。故に、この経営者の徹底した態度には本当に勉強になった。
温浴施設は譲り合いの場所
温浴施設は、見知らぬ人同士が裸で集まる場所だ。ここでは、威張ったり、肩肘を張るような行動は場違いだし、何より他の人に迷惑だ。
お互いに譲り合い、思いやりを持てるお客様にこそ、リラックスして楽しんでもらいたい。結局のところ、良い経営とは、経営者とお客様が信頼し合える関係を築くことなのだと、つくづく感じる。
温浴施設のサポーターとして、この考えを広めて行きたい。