オフトン
我が家に猫がきた。
名前はオフトン。オスネコである。
息子がまだ3歳か、4歳くらいの頃だったか、もらったお年玉で本を買うという。買ってきた本は、確か「人生ニャンとかなる」という猫の写真集だった。虫もさながら、生き物というものに極端に怯える子だったので、何故猫の写真集を‥? 聞くと、猫が大好きなんだという。私はといえば、小さな頃から猫と共に過ごした大の猫好きなので、それはそれはと喜び、野良猫なんかがいると、「ほら、寄ってきたからなでよう」なんて息子を呼ぶと、3メートルくらいさきの木陰からじっと見て出てこない。
大好きと恐怖心の混在。どちらにしろ、ドキドキしてやまないといったところだろうか。
ある日、泊まった友人宅に、とてもおっとりとしたやさしくなつっこい猫がいて、息子は初めて猫を撫でることができた。初めは恐る恐る、でもできたことを何度も確かめるように、何度も何度も撫で、最終的に一緒に丸くなって眠っていた。
それ以来、息子の猫熱は静かに青色燃焼し続ける。しかし、私も旦那も音楽家で、演奏旅行などでランダムに、そして時には長期家を空ける。あちらこちらと飛び回って、今思えば割と忙しかった。外猫にしたらどうかとも思ったが、家の前は夜中もトラックが走る通りで、おそらく一発で轢かれるだろう。息子は猫いいなあと時々ぽそっと呟いていたが、今は無理だなあと返すしかなかった。
今年に入って、世界の状況が一変し始める。私はひたすら家の掃除をした。ここから、始めろってことだろと思った。たくさんの予定にあちこちと頭を巡らせることなく、のんびりと時間の余白に妄想を馳せたりしながら過ごしているうちに、猫がきたらいいだろう、という気持ちがいつの間にかぽっかり浮かんでいた。息子と猫がほしいねえと話すようになる。すると束の間、野良の子猫を見つけたと友人がinstagramにあげた。まるでそこにストーリーがあったかのように、するすると事が運び、昨日オスネコがうちにきた。
名前はオフトン。
初めて会いに行った時、他の子猫たちがウジャウジャ動く中、この猫だけずっと寝こけていた。息子が「こいつオフトンだな」と言った。
オフトンは息子の猫。一人っ子の彼には弟みたいな存在か?相手をする姿が全くもって辿々しく、うまくいかない。
私の中では猫は誰かの守護動物なのだと思う節がある。私が幼少期から共に過ごした猫、メリーちゃんは、洋猫でぽんやりしていて、かなりマヌケでかわいかった。19年生きて、最後は眼も見えず、油を舐めるようになり、化け猫一歩手前だった。何もかも初めてのことを体験しているように見えた。守護と言うよりは自分の猫生を全うしたという感じがする。私が拾ってきたタケは母の猫、妹がもらってきたぴょん吉は妹の猫。もう一匹、私が拾ったテトという猫が1ヶ月くらいいたけど、あの猫は私の猫だったかもな。無茶苦茶可愛かったのだが、慣れてきたので外に出した途端、早速誰かについて行ったっぽい。あっさりいなくなった。だけど私も、あの可愛さならどこでもうまくやっていけるだろうと大して心配もしなかった。私もテトも、おそらくまだ旅の真っ最中だったからかなと思う。
さて、だいぶ家にも落ち着いていられるようになったし、そろそろ私の守護猫が来ても良いころと思っている。