一週遅れの映画評:『劇場版 ポールプリンセス!!』そこにあるのは反逆か、未来か。
なるべく毎週火曜日に映画を観て、一週間寝かして配信で喋る。
その内容をテキスト化する再利用式note、「一週遅れの映画評」。
今回は『劇場版 ポールプリンセス!!』です。
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私はね、割りと普通の(?)ダンスを踊る方なんですよ。
とはいえ見様見真似の素人ですから何かすごいことができるわけでは無いですけど、例えば毎年プリキュアのEDは前半後半ともに一通り体が覚えるまでは練習してたりするんです。
というのも作品を批評するにあたって、じっくり考えてわかることが、実際に体を動かしてみると「そういうことか!」と一発でひらめいたりする。つまりこうやって作品評をするのにめちゃくちゃ有利なんですね。
そもそもの話をするなら私がダンスを見はじめたのは25年以上前に『少年チャンプル』って深夜番組がありまして、そこでダンスバトルの企画があったんですね。で、たまたまそこに出場していた「ひとりでできるもん」ってダンサーに度肝を抜かれたことが発端。動画を見てもらえれば伝わるかなぁ? なんかこの「うぉお!? これって人体の動きなの??」って衝撃が。
これ、いわゆる「アニメーションダンス」ってカテゴリーで。ロボットダンスってあるじゃない、あれをもうちょっと派手にして筋肉によって弾くような動きを取り入れたのが「ポップダンス」と言って、そこからより非人間的な動作を行うようになったのがアニメーションダンス……って思ってもらえれば大体あってる。いや、真面目な定義をしていくと怒られそうな説明だけどw
そうね例えばマイケル・ジャクソンの「Smooth Criminal」で、こうグーっと足首を支点に前へ体を倒して、そこからまた直立に戻る動きとか。あとはパフュームのダンスなんかにアニメーションダンスの技法がふんだんに使われていたり。アニメーションダンスとショーの関係でいうなら「パントマイム」をアニメーションダンスの一形態に分類する場合もあったりする。
こうやって説明すると「アニメーションダンス」ってものがどういう感じのものか、ってなんとなくイメージできるでしょ? 人間がやると異常性を感じるような、どこか物理法則を無視してるように錯覚させる動き。
このアニメーションダンスって呼称は1980年代中盤に生まれたポップダンスブームから生まれてきてるのね。で、まぁ80年代のアニメーションって一部のハイクオリティなものを除けば(いや、ここで「初期のアニメーションはロトスコープで」とか「ディズニーの」とか色々あって、詳しい人からはこっち方面でも怒られそうだなぁw)、まぁ推して知るべしみたいな動きの作品が世間の大勢だったわけよ。
だから「人間はこんな動きしねぇよw」ってアニメーションの動きを、現実にやってみせる異様な(そして面白い)ダンスが「アニメーション」の名を冠するようになったわけよね。
これっていまのアイドルアニメのダンスとか、それこそ最初に言ったプリキュアのエンディングで行われるダンスに繋がる話だと思うんだけど。要はアニメーションで人体の動きを描く技術がガンガン進歩していく中で、「人が実際にやる動き」「ちゃんと実際の物理に則った動き」を表現しようとしていく流れは当然にあったわけですよ。
つまりアイドルアニメのダンスを実際にやってみたり、プリキュアエンディングのダンスを幼女が真似できるようになっていく。こう言ってしまうとアレだけど「変なアニメーションの動き」をとんでもない練習とトレーニングでやってみせる「アニメーションダンス」って関係性から、「リアリズムをまとったアニメーション”の”ダンス」に変わっていくことでカジュアルに子供でも「ダンスできる」という関係性に移行していった……という側面があるのね。
いやここで言いたいことめちゃくちゃあんだけどさぁ!w 絶対まとまんないから割愛だ割愛、キャッツアイ! あのレオタードエクササイズも真似したよね!
で、そういった視点を持ってみる『ポールプリンセス!!』のダンスって、その次を思わせるんですよ。
それでいったいどうやって体重支えてんの!? とか、なんかポールに一切接触してないように見えるけど宙に浮いてない?? みたいに思うシーンがいっぱいあるんですけど、ここで現実のポールダンスを見てみると「絶対いま空中に浮いてましたよねぇ!?」みたいな動きが連発されるの。
だから「非現実的なアニメーションの動きを思わせるアニメーションダンス」から、「実際に踊れるリアリズムを得たアニメーション”の”ダンス」ときて、ここでは「実際に行われているダンスを描いたら、なんかすげぇもんになちゃった」っていう変化が訪れている。その過渡期がここにいまあるわけです。
そしてその変化しつつあることが、ポールダンスの歴史そのものを表していると思うんですよね。
というもの2020年から2021年の間で連載されていた『シルバーポールフラワーズ』っていう、ポールダンスを題材にした漫画がありまして。短命に終わってしまったんですけど、かなり面白い漫画だったのでぜひ読んでほしいのですが、この作品はポールダンスの別側面にしっかり言及している。
つまり、「ポールダンス」ってストリップだったり、女性をセクシャルに鑑賞するステージで行われてきた、って部分は絶対にあるわけですよ。日本で初のポールダンス国際大会が行われたのって2015年とかで、やっぱまだまだ競技としてのポールダンスは知名度が低い。実際「ポールダンス」って言われて頭にまず浮かぶのは洋画で見た「薄暗い店内でセクシーな肢体を晒して踊るダイナマイトボディのおねぇちゃん」とか、あとは『スペース☆ダンディ』とかじゃないッスか。
やっぱそういった風俗としてのポールダンスというのは間違いなくある。それをどこまで容認していくか、どこまで競技としての面を打ち出していくか? っていう変化の途上に、ポールダンス自体があるんですよね。「これまでのポールダンス」と「これからのポールダンス」のせめぎ合いが事実としてある。
そしてその対比が作中のダンスでもあらわされている、というのが素晴らしいところで。この作品では大会を4連覇中のエルダンジュってチームと、今回初参加の主人公チームであるギャラクシープリンセスっていう2チームが中心に描かれている。
で、このエルダンジュチームのダンスが全体を通して「抵抗と反逆」のイメージを強く押し出しているんですよね。一番わかりやすいのがデュオでの演技なんですけど、ロミオとジュリエット的な「許されない恋」を喚起させる曲やステージ演出、あるいは衣装がまずある。その上でダンサーは両方とも女性だからLGBTのようなマイノリティへのエンパワメントも当然にかかってくる。
このダンスで私が一番感動したのが、ひとりがポールに掴まってることでできるポールと体の隙間、そこをすり抜けるように降りてくる……ってムーブなんですけど。ここって「恋に落ちる」「あなたに抱かれたいのに零れ落ちてしまう」っていうメッセージを伝えながら、同時に「重力への抗えなさ」を切なく表現している。
ポールダンスって上下に動き回るダンスである限り「重力」ってものへ如何に抵抗するか、ポールを昇ることでどこまで重力に反逆していくか? ってことが問われる。これと「ポールダンス」ってものが持ってる世間的イメージの重力に、競技ダンスとして立ち向かって行く! という決意が仮託されているわけです。
いっぽうでギャラクシープリンセスチーム、こっちはソロダンスの方ですけど。ひとりはマーメイドをイメージした舞台と衣装、つまり水中で。もうひとりは「宇宙」つまり無重力を思わせるダンスと演出を行っている。つまりここでは「重力の枷から解き放たれた世界」を表現しよとしている。ポールダンスの持つ未来、いままでの歴史から自由になった競技の、あるいは健全なショーとしての「ポールダンス」への志向が見て取れるわけですよ。
そしてさっきも言ったように、私たちはまだまだ「ポールダンス」というものにセクシャルな/性的な意味を強く持ってしまう。もちろんそれはポールダンスのもつ表現の一側面として素晴らしいし、否定されるようなものではない! と声を大にして言っておきます。
だけどそこから離れた「競技としてのポールダンス」は確実に育ちつつある。
でもまだ、まだそのふたつの側面が同じ強度にはなっていない。どうしても”今は”過去から築いてきたイメージに「抵抗と反逆」をしなければいけない段階である。
だから今回のジャパンカップで優勝するのは「抵抗と反逆」を強く打ち出したエルダンジュになる。それでも「これから先の未来」を見せたギャラクシープリンセスに、今後にポールダンスの未来を期待できる。そういったとても希望の持てる作品になっていたのではないでしょうか。
ただ、ただひとつ問題がある。あるのです。
踊ってみたくても、家にはポールがねぇんだよ! いや、もしあったとしてもあんなの訓練せずに真似したら、死ぬ!
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次回は『怪物の木こり』評を予定しております。
この話をした配信はこちらの13分ぐらいからです。
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