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花盛りの蝶は売りものです
危うい下心たちをくぐり抜けて、今夜もお客様に酒をつぎ、幸福感で潤し1時間1万円分、シャンパン1本3万円分、ただ隣に座っただけで満足させる。
わたしの掌の上で軽快に弾むトークがお酒を勧める。次々に変わる表情で相手を離さない。
相手の頭脳を惑わし、相手の心につけ入る。
下界ではコンプラがかかるようなやり取りがここでは赦される。
どこか満たされない心の隅っこを読み解き、それを癒して金を獲る。
わたしはキャバ嬢だ。
モテる為には何でもした。
モテる女の子の特徴、いろんなタイプの男性の習性、会話力につながるもの、ありとあらゆるモテる為の勉強。
服装も好きなファッションと仕事用モテ系ファッションと分けているし、髪色は明るくてアッシュベージュ。仕草や話し方までキャバクラ使用に変換。
もちろんキャバクラに関する本は大体チェックするし、ニュース、今流行りの芸人さん、自身はあまり興味のないスポーツなどもチェックしている。
時には大変な思いもするし決して楽をして今の給料を稼げているわけではない。
辞めたくなる時も毎日のようにあるが、わたしには夜蝶が天職かもしれないとも思う。
人と話すのは好きではないし、根は男性嫌いなのでベタベタ触りたいとも思わないのだが、モテるのが得意なのだ。わたしはわたしが唯一出来る"意思疎通"をみがいて、極めて、モテるを研究し、活かしている。
モテてさえいれば女のわたしが力では到底勝てないような男性を押さえ込んだり言う事をきかせたり出来るし、マインドコントロールは合法的必勝法だ。
普段出逢う機会がないようなお客様ともLINEを交換したりするし、親密な関係になれば有名企業の中身が少し知れたりもするので面白い。
もちろん全員にモテる訳ではないので、太客にフラれて家で寝る前に悔し泣きする日もあるし売れる為には努力と運も必要だ。
あと正直、アラームに起こされるのが苦痛で仕方ないわたしにとって18時出勤は助かるし夜の方が冴えているのでパフォーマンスがいいのもわたしがこの仕事を天職かもしれないと思う重大要因だ。
今の世の中、夜行性の人間への配慮が足りず朝は働け夜は寝ろというエゴイストな職場ばかりで夜型宇宙人のわたしは朝型人間と朝から張り合わなくて済む職場が有難くてしょうがないのだ。
キャバクラという職業がわたしの人生の大半を支えてくれたと思う。
この職業がなかったら今のわたしはいない。
花びらが散ってしまうまで続けたい。
カチッシュボッ左手をそっと添えた右手でお客様の煙草に火を灯したら、伏せていた視線を煙草から上にふわっと向けて少し恥ずかしそうにはにかむ。魔法にかかった相手は隙を見せる。それを見逃さないわたしはヒラリヒラリと近寄ったり、離れたり安定性のない距離感で笑顔を振る舞う。
女は蝶のように舞い、蜂のように刺す。
今夜も諭吉が日本の繁華街を旅してる。
あなたの諭吉もいつか、わたしの元へ旅をして巡ってくるかもしれない。
それを楽しみに今夜も出勤する。