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理財論

5.理財論

 山田方谷と言えば、有名なのはその改革であり、その改革の根本思想を表すものとして最も注目されるのが「理財論」です。

ここでは、その「理財論」のエッセンスだけをご紹介します。言葉は短いもののそれに含まれる思想は非常に示唆に富んでいます。この「理財論」は、方谷が32歳の時、佐藤一斉塾で書いた論文であり、方谷の行動の原点なのです。

「それ善く天下の事を制する者は、事の外に立ちて事の内に屈せず」

(訳)
「だいたい、天下のことを上手に処理する人というのは、事の外に立っていて、事の内に屈しないものです。ところが、今日の理財の担当者は、ことごとく財の内に屈してしまっています」


 これをもっと具体的に言うとどういうことなのでしょう。

これは財政問題を抱えているからと言って、それだけを問題にしていたのでは本当の解決にはならないということを指しています。

見かけの数字上の解決を急ぐあまり、その他のことを考慮しない対策を行えば、一瞬解決したような問題が、すぐさらに大きな問題として現れてきます。


「理財論」の中から、もう一つご紹介します。

「人心は日に邪にして正すこと能はず。
 風俗は日に薄くして敦くすること能はず。
 官吏は日にまみれ、民物は日に敝れて検すること能はず。
 文教は日に廃たれ、武備は日に弛んで、之を興し之を張ること能はず。
 挙げて問ふ者あれば、乃ち財用足らず、なんぞ此に及ぶに暇あらんやと曰ふ」

(訳)
「人心が日に日に邪悪になっても正そうとはせず、
 風俗が軽薄になってきても処置はせず、
 役人が汚職に手を染め、庶民の生活が日々悪くなっても、引き締めることができない。
 文教は日に荒廃し、武芸は日に弛緩しても、これを振興することができない。
 そのことを当事者に指摘すると、「財源がないので、そこまで手が及ばない」と応える」
『財政の巨人幕末の陽明学者・山田方谷』林田明大著より引用


 これを見れば、山田方谷の研究者の多くが、なぜ現代のわが国にも当てはまると指摘しているのかが分かります。


  
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この記事は、「知的資産経営の実践」大学教育出版 2014年初版から抜粋・追記して記載しています。データ等は当時のものです。

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