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山田方谷の改革を企業経営として見る(まとめ)

9.まとめ

 知的資産経営とは、財務諸表(決算書)には掲載されない、目に見えにくい経営要素について考えますので、話が抽象的になったり、あるいは知的資産経営報告書をいかに書くかという固定的な考え方になったりしがちであると思われます。

ですから、ここでは筆者がお伝えしたい知的資産経営とはどういうことなのかを少しでも分かりやすくするため、具体的な事例として、この第1部では、幕末の備中松山藩で藩政改革を成し遂げた山田方谷の取り組みを現代の会社経営と合わせて考えながら話を進めてきました。

 筆者は、以前から彼の取り組みこそ、わが国の中小企業発展のために大きな指針となるものだと考えてきました。ここで記載したように、山田方谷は、当時の常識では考えられないような手法を取り入れています。

そこで、当時の諸藩で「普通に行われる手法による利益」と、「山田方谷の手法で得られる利益」を比較すると考えるならば、この両者の差が山田方谷の知的資産経営による差であると言えます。つまり山田方谷は、財務諸表には載らない経営要素によって大きな利益を生み出しており、この経営要素が、知的資産だと言えるのです。

 では、山田方谷の改革で何が知的資産だったのでしょうか。山田方谷は強みを活かす経営を行ったのでしょうか。山田方谷は特別な強みを持っていたのでしょうか。当時の備中松山藩は特別な強みをもっていたのでしょうか。

山田方谷は利益を生み出すための特別な工業技術を生み出したのでしょうか。あるいは重要な工業技術を持つ職人は当時の備中松山藩に住んでいたのでしょうか。

これらの質問の答えはいずれもノーです。藩内には、特別な強みも無く、独自の技術もありませんでした。けれど、逆に答えがノーだからこそ、一般に資本力もマンパワーも強いとは言えない現代の中小企業の経営にとって、役立つヒントがあると言えるのです。

 つまり、利益を生み出す知的資産について山田方谷の取り組みが私たちに教えてくれるのは、自社の強みを生かすというだけではなく、強みを探すことは大切だが、強みが見当たらないからといって、知的資産経営によって大きな利益を生み出すことができないという訳ではない、ということなのです。


■プチ用語説明(追記)

知的資産経営(ちてきしさんけいえい)
 財務諸表(決算書)には掲載されない、目に見えにくい経営要素について考える方法。
財務諸表(ざいむしょひょう)
会社の収支や資産をまとめた書類。
幕末の備中松山藩(ばくまつのびっちゅうまつやまはん)
日本の江戸時代後期(幕末)にあった岡山県の一部。
山田方谷(やまだほうこく)
江戸時代の終わりに備中松山藩で改革を行った人物。
資本力(しほんりょく)
会社が持っているお金や資源の力。
マンパワー
会社が持っている人材や労働力。
工業技術(こうぎょうぎじゅつ)
ものを作るための技術や方法。

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この記事は、「知的資産経営の実践」大学教育出版 2014年初版から抜粋・加筆して記載しています。データ等は当時のものです。

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