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【心理的安全性への道♯1】しなやかで強い組織づくりの秘訣は“個人が輝くこと”

スペースキーの小野(@tsugumi_o_camp)です。スペースキーの心理的安全性を高めるための取り組みをシリーズでお伝えします。第1回目は、その概念を学ぶべく、日本における心理的安全性の第一人者である石井遼介さんにインタビューしました。なぜ今、心理的安全性が必要なのか。石井さんの想いと共にお読みください。


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石井 遼介さん(@ryouen)
株式会社ZENTech 取締役 チーフ・サイエンティスト、日本認知科学研究所 理事。
東京大学工学部卒、シンガポール国立大経営学修士(MBA)、慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究所研究員。共著に認知行動療法ACTについての入門書となる『悩みにふりまわされて しんどいあなたへ』(Amazonランキング「ストレス・心の病気」1位)、2020年9月には組織・チームづくりの理論と実践について書かれた『心理的安全性のつくりかた』(Amazonランキング「企業革新」「マネジメント・人材管理」1位)が絶賛発売中。


「心理的安全性」とは


-本日はよろしくお願いいたします。まずは「心理的安全性」の一般的な概念について、おしえてください。

「チームの心理的安全性」とは、ハーバード大学教授のエイミー・C・エドモンドソンが1999年に提唱した概念で、私なりに言い換えると心理的安全性とは、「メンバー同士が健全に意見を戦わせ、生産的でよい仕事をすることに力を注げるチーム・職場」と定義しています。

心理的安全性が低いチームは、チームのための行動が不安やリスクによって阻害され機会損失を生む一方で、心理的安全性が高いチームは健全に意見を戦わせ、生産的でよい仕事をすることに力を注げる職場という特徴があります。

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(出典:株式会社ZENTech 心理的安全性 認定マネジメント講座)

新型コロナウイルスにより、働き方を含めた組織のあり方への見直しを余儀なくされています。誰もが経験したことのない、正解がないこの状況下では、個々がしなやかな思考をもち「学習し成長するチーム」を目指さなくてはいけません。心理的安全性はパフォーマンスと創造性を向上し、学習し成長するチームに近づくだけでなく、チームへの満足度やエンゲージメントの向上へも寄与することがわかっています。まさにこれからの時代に必要な概念だと言えるでしょう。(詳しくは『心理的安全性のつくりかた』を読んでみてください!)


『心理的安全性のつくりかた』の著者、石井さんについて


-心理的安全性についてはなんとなくイメージできました。そもそも、石井さんはなぜ、心理的安全性を研究しようと思ったのですか?

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“個人”にフォーカスしたテーマはもともと持っていました。どうしたら各々がもつ情熱を燃やせるのかとか、個人の才能を開花させ輝かせるにはどうしたらいいかとか。大学院在籍中に起業した時のテーマもそうでした。その後、一般社団法人 日本認知科学研究所や、慶應義塾大学との共同研究として、認知行動療法のACT(Acceptance and commitment therapy)を用いて、思考や言動のブレーキを外すためのワークを作って開催したり、価値づけされた行動(個人が、みかえりが無くても取り続けたい行動)を習得する方法をレクチャーしたりしてきました。悩みをもっていた受講生たちがワークを通じて悩むことから開放されることで、ようやく階段の第1ステップを登れる状態になります。

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でも、そこで学んだのは、個人の心理状態や、個人の心のタフネスも大事ですが、働く「職場」や「チーム」がひどい環境だと、その効果も薄れてしまうということ。実際に、ワークを通じて自信を取り戻した受講生が、パワハラ上司の元ではまた病んでしまう実例を目の当たりにしました。心理的柔軟性の可能性は十分に見出すことができましたが、それだけでは不十分という課題も感じたのです。

では、どういう働く環境、どういうチームなら、個人が才能を発揮でき、輝けるのか……。そう考えていくうちに、心理的安全性にたどり着いたという流れですね。最初の出会いは、心理的安全性が世の中に知れ渡るきっかけとなったGoogleの「プロジェクト・アリストテレス」の発表です。あれを読んでとてもおもしろいなと興味をもち、調べてみるようになりました。

エドモンドソン氏の著書を読み進めていくと、もともと私が研究してきた心理的柔軟性を活かせるのではないかという確信が持ててきました。早速クイックにデータを集めて検証したところ、リーダーの心理的柔軟性と、チームの心理的安全性に相関が認められました。方向として間違っていないと思えたので、大手企業の管理職向けの心理的安全性に関する講座を立ち上げ、受講生に実際にノウハウを社内に持ち帰って検証してもらい、併行しながら数千名のデータで心理的安全性について検証を……ということを繰り返し、今に至ります。

-現在進行形でまさに今、体系化しているところなんですね。

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「体系」の大筋は、書籍『心理的安全性のつくりかた』で提示できたかなと思っています。けれども、「体系」と「現実」、「理論」と「現場」をつなぐためには、まだまだ多くの事例が必要です。

組織って、“個人”としての人はもちろん、関係性などいろいろな要素が絡み合って構成されていますよね。だからこそ、組織・チームを良くしていく「具体的な方法」は無限にあると思っていて、持てるカードすべて使ってどうやったらうまくいくかというのを、現場にいるみなさんと共に行動しながら成功事例を集めています。

対個人では、状況に応じて「答えは相手の中にある」コーチングが機能するかもしれないし、別の状況では「答えを丁寧に、ステップ・バイ・ステップで教える」ティーチングが、あるいは気づきの力を養うマインドフルネスへの取り組み……など、いろいろな方法が考えられます。いずれにせよ、心理的安全なチームを指針に、心理的柔軟なリーダーシップをガイドに、持てるカードをすべて使ってどうやったら個人が輝く組織をつくれるか。正解がないこれからの時代の組織課題を模索し解決したいと思っています。

-そもそものきっかけとして、石井さんはどうして“個人”に興味を持ったのでしょうか。

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ぶっちゃけて言えば、もともと人に興味は持っていなかったと思います(笑)。 学生時代教育関連のベンチャーをやっていたときも、その人個人の能力を上げるのではなく、やり方を教えるということをやっていました。プロセスに則ってやり方を変えるだけで成果が変わる。その変化を見るのがおもしろいし、根本にアプローチするという考えが元来好きなんだと思います。理系は理系でも、理学部ではなく工学部に進んだのも、そういったところがあったんでしょう。

そこからなぜ “個人” にフォーカスしていったかと言うと、2社目のベンチャーをやっていた時のことなんですが、メンバーにアパレル出身の人がいました。彼と一緒に街を歩いていた時に「今すれ違った人、すごいオシャレでしたね!」という話題になったのですが、私は人とすれ違ったことにすら、気がついていませんでした。彼はその人のファッションを見ている。では私はどこを見ているんだろう。どこだろう?どこかな……、あれ。そもそも、人そのものを見ていないのでは?と気づいてしまったんです。

-おお!気づけたこともすごい。

結構衝撃でしたね、パンドラの箱を開けてしまったような。自分としては見ているつもりだったのに、全く見ていなかった。でもその一件から、ちゃんと見てみようと思うようになりました。人との向き合い方が変わった、重要な出来事だったなと。

-ターニングポイントですね。

その当時は、まだ頭の中の世界で生きていたんだと思います。徐々に「思考」の世界から「現実」の世界にシフトしていくことで、新たな気づきも多く得ました。「こういった気づきを意図的に起こせないか」という考えから生まれた、他者の視点を体験するエクササイズなども開発しました。

-それもいいですね。思い込みを防ぐには効果がありそうです。

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大事なのは、自分の視点では見えない部分(=思い込み)に気づくことです。思い込みに気づくことで、前に進むことができる。こうした認知にアプローチしプロセスを踏んでいくことが心理的柔軟性や心理的安全性につながっていきます。プロセスはまだ現在進行形でつくっている最中ですが、さまざまな事例を通じて確保していきたいと考えています。

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※前作の『悩みにふりまわされてしんどいあなたへ』では、視点を変えるワークなどを盛り込んだメンタルトレーニングについてまとめています。(残念ながら現在は出版社が出版事業を停止したため絶版。)


心理的安全性に関するQ&A


-今後、日本における心理的安全性はどうなっていったらいいと思いますか?

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「心理的安全性」という言葉は、比較的広まってきたと思っています。今後は一つひとつの組織が心理的安全な組織・チームを実践・実装し、心理的安全なチームがどんどん増えることが大事だと考えています。また「心理的安全性が高い組織=ぬるい組織」という誤解がまだあるのも事実。徐々に成果も出始めてきているので、実績を重ねて「心理的安全性が高い組織=成果が上がる組織」として実証されることが必要だと感じています。

一方、日本の労働環境の課題として、外国人労働者の問題があります。現在の日本は新奇歓迎(※過去の常識に捉われない、多様な観点から社会・業界の変化を捉えて対応できるよう、多様な個性の発揮を歓迎すること。)の意識が低く、このままでは活躍するために、海外から来てくれる労働者を確保するのは難しいでしょう。

実際、国内の会社で「多様性」を謳っていても、ほとんどが日本人、そして日本人・男性管理職となってしまっているはずです。日本の組織は本当の意味でグローバルカンパニーに変化していかなくてはいけない。多様な人種・信条を持った人々が集まる組織の中でも、個人が輝けるように。多くの組織で心理的安全性という考えを導入し、成果を上げていってほしいと願っています。

-ようやく、目指すべき状態への階段の第1ステップに上がれたというところでしょうか?

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そうですね、ステップとしては長いですが第1ステップを踏み出せたことは大いに意味があると感じています。『心理的安全性のつくりかた』の中では理論と実践を凝縮してお伝えしていますが、実際には組織・チームの状態に合わせた導入が必要です。この先、導入する組織が増えケーススタディが溜まってくると、その導入パターンが見えてくると踏んでいます。そうすればパターンに応じた対策も立てやすくなり、成果も上がりやすくなると。まずは各チーム・組織で導入したときに、ちゃんと変革ができるかどうか。今はまさにこの段階であり、多くのチームと伴走しながら、メソッドを見出していきたいです。

-中長期的になりそうですね。経営者の中には、すぐに変化が現れないことで諦めてしまいいそうですが。

それも考え方次第かと思います。もちろん、経営者としては目の前の課題に取り組むことも大事ですが、経営者の課題の本質って中長期であることが多いかと。例えば、人材育成、跡継ぎ問題とかはまさにそうですよね。組織の学習・人材の成長に関する課題は、経営者の問題意識ともかみ合うところがあると思うので、中長期先の会社をつくり上げるつもりで捉えていただくのがいいのかと。

-とはいえ、納得してもらうのがなかなか難しそうです。そのような短期的思考の組織の場合、どのようなところから進めていけばいいでしょうか。

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伝えてはいるものの、なかなか理解されないというパターンですね。そのような場合は、まずは経営者や上級管理職であれば、心理的安全性を導入しようという私たちも、「売上を向上させたい」「余計なトラブルを未然に防ぎたい」「優秀な人材の離職を防ぎたい」という向いている方向は同じですよ、心理的安全性は現在を犠牲にするという話ではないですよ、という話をしています。むしろ心理的安全性は、未来の業績・パフォーマンスの先行指標となる、とお伝えしています。

また、そこから組織全体に広めるには、やはり制度や評価も含めて徐々に変えていくことが重要でしょう。目の前の売上だけではなく、心理的安全性の高いチーム作りへの貢献、例えば隣のメンバーを助けたかとか、チームとしての成果がどうだったかとか、土壌作りに対してもきちんと評価する。結果は必ずついてきますし、離職率の低下など、他にも様々な副産物が生まれるはずです。

-コロナウイルスによって弊社もリモートワーク推奨になったのですが、ちょっとしたコミュニケーションが取りにくくなりました。コミュニケーションのコツはありますか?

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コミュニケーションに課題を感じている企業は今、本当に多いですね。コロナウイルスによりリモートワークになり、コミュニケーションが減ったため、1on1が増えた。(ここまではコロナあるある。)ただ、ある企業ではちょっとした工夫でうまくいったそうです。

「今月どう?」という報告型1on1から「在宅になってどう?不安はない?」という、その人のことを聞く場にしようという変化が生まれたそうです。今まで雑談していたら気づけたことを話せるようにするために、雰囲気づくりなど話しやすい場にしようという意識も生まれたとのこと。ちゃんと人に向き合えば、見えるものが見えてきます。リモートだからこそ、やり方を変えられるチャンスでもある。この機会を逆手に、うまく活かす方法を1on1を通じて一緒に考えてみるのもいいですね。

-心理的安全性を高めたいと思っても、1人だと進めるのが難しそうです。仲間を巻き込むのによい方法はあったりしますか?

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心理的安全性が高いチームとは、繰り返しになりますが「生産性が高く、学習し成長するチーム」です。多くの受講生を通じて、心理的安全性を導入して一番初めに見え始める変化は「チームの学習が進むこと」のように感じます。1人の学びがチームの学びに変わり、チームの学びがチームのパフォーマンスへと変わる。それによって自信と活気に満ち溢れていった受講生を見てきました。まずは今できることを探して、チームに働きかけるのもひとつだと思います。「私の考えるチームの学習は〇〇だと思う。みんなはどう思う?」と呼びかけてみて、小さな組織で回してみる。そこで成果が上がれば自然と横展開もするのではないでしょうか。

組織の構造や環境は、すぐに変えられるものではありません。だからといって、すぐに諦めては変革はおきません。そこは認識しつつも、できるところからやっていくのが大事かと思います。


石井さんが伝えたい想い


-最後に、『心理的安全性のつくりかた』を出版したことによって伝えたいことはありますか?

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大事なことは全部詰め込んだので、ぜひ本書をお読みいただければと思います!敢えて言わせてもらうならば、チームのための心理的安全性ではありますが、最終的にはやはり“個人”が輝くことが大事。この想いは一貫しています。誰もが有意義で豊かな人生を送るために、すべての仕事に携わるみなさんが輝ける世の中にしたい。

行動すること、貢献することの中にこそ、楽しさがあると私は思っています。それを一人ひとりができる社会をつくりたい。個人が輝くことで、組織が、社会が強く豊かになる。チームの話ですが、個人がいきいきと輝けるような社会をつくることが、私が一番大事にしている想いです。

-本当にステキな考えで、勇気をもらえる想いです。私たちもその1人として、心理的柔軟性を身につけ、心理的安全性の高い組織を目指したいと思います。本日はありがとうございました!


■ お知らせ ■

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Amazonランキング「企業革新」「マネジメント・人材管理」2カテゴリで1位を獲得!組織・チームづくりの理論と実践について書かれた『心理的安全性のつくりかた』。働くすべての人が、いきいきと輝けるように。本書を参考に、チームのあり方について考えてもらえると嬉しいです!


■ 編集後記 ■

日本における心理的安全性の第一人者である石井さん。笑顔を絶やさず冗談も交えながらのインタビューは、心理的安全性を構成する要素の1つ「話しやすさ」が満ち溢れていて、とても楽しく盛り上がったインタビューとなりました。元々は個人に対して興味がなかったというエピソードもかなり意外で、そこをきっかけとし研究対象としてここまで追求し続ける熱量に、素直に感心させられました。

個人が輝くことで、組織が学び成長できる。個人が輝くための研究を長年されてきた石井さんだからこそ、チームとしての心理的安全性を高めるアプローチに納得感を得ました。また、“個人がいきいきと輝けるような社会をつくりたい”という石井さんの想いに共感するとともに、その一人としてまずは自分たちが輝き、いきいきと能力を発揮することが大事なんだと実感。組織を成長させたいなら、まずは自分から。己にじっくり目を向けてみる大切さを学んだ貴重な機会となりました。(小野)