short story series『知らない』  person 20

作・堀愛子

改札で見かけた、知らない女性について。

ーーーーーーーーーーーー

佐川春菜(さがわはるな)24歳。

朝は苦手である。

春からこっちに上京してきて、必死に生活をしてたらなんとなく冬がきてる。まだ秋なのにこんなに寒い。冷え症のわたしを悩ませる。

こっちは人の多さがおかしいと思う。

そんな事言ったってその一部にわたしはいるのだからそう思ったって仕方ないのだろう。

茶色から就活のために黒色に戻したパサパサの髪の毛が風になびいて、邪魔をする。

朝は苦手。でも夜が好きなわけでもない。

朝はなんとなくギュッとしている。

周りの顔を見る余裕もなくただたまった通知を返して冷たい風に頬を打たれて、足早にエスカレーターに乗る。止まらない放送と出発していく電車たち。暖房の効きすぎた車内に乗りこむ。周りの厚着のせいで余計に暑くなる。でも開放的になれるかってのとは訳が違う。

満員電車の中でギュッとしている。ギュッとなってだれか名前がわかる人と会話をするまでギュッとする。おはようの口を開けるまで、わたしも周りもギュッとしている。あ、

スーツのシワを見つけた。アイロンかけるのサボったから。

朝は苦手だ。

元彼に優しくされる夢を見た。

朝一番に元彼に会ってしまったら、どうするよ。むくんだ顔で気まづい表情のまま、おはようとか言えるわけない。

せめて、また春に会えたら、

春の朝ならまだいいかな。とか言って会えるわけでもないけれど、なんとなく思い出した元彼の顔でギュッとなった気持ちが緩む。

顔を上げて知らない人の顔を見る。

大丈夫だ、ここで生きていける。

ーーーーーーーーーーーー

都会のギュッとした感じも慣れれば感じなくなりますよね…不思議です。

2018年11月19日

いいなと思ったら応援しよう!