short story series『知らない』 person 32

作・木庭美生

前野大悟。46歳。男。会社員。

失敗した。

仕事のミス。書類の記入漏れ。

幸い大きなミスではなかったし、早い段階で気づけたから上司に軽く怒られた程度。

それでもやっぱり落ち込んでしまって、見かねた上司が飲みに連れて行ってくれた。

あまり飲みは好きじゃないからそれで嬉しいことは全然ないけど行くしか選択肢はなかったので飲みに行った。時計の針は 11を少しすぎたところと8を指している。つまり11時40分ごろ。この時間から家に帰るのもすこし億劫だが、家に帰らないと休めないし帰る。

この時間だ、きっと妻も寝ているだろう。最近はもう私のことなど気にせずに1人で先に眠っている。きっと今日もだらしなくおなかを出して寝ているのだろう。

だらしがないと思うし、女性らしい品もないと思う。でも、嫌悪感というかそれが原因で機嫌が悪くなるなんてことは無い。なぜか、とも思うがそれはきっと彼女が私の妻だから。

これが愛なのか。と1人で思うが恥ずかしいので直ぐに考えるのをやめる。

仕事のミスで落ち込んでいたのにいつの間にか落ち込んだことも忘れる。

たぶんこれが幸せ。今度は見落とさないように気をつけて。

おなかを出した妻と、妻の作った冷めたご飯の待つ家に帰ろうか。

2018年12月5日

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