short story series『知らない』  person 09

作・草場あい子

西本 和真。20歳。
時給900円のピザの宅配のバイト。
18時半前。マルゲリータピザとコーラをご注文のマンションのエントランス。部屋番号を押す。応答がない。
居ないのか。それはないか。時間指定してある。
もう一度部屋番号を押す。応答はない。解錠もされない。
あれ。住所間違えた。いや。間違っていない。
じゃあなんで出ないんだ。
もしかして。なんか事件でもあったのか。
あ。テレビで見た事がある。DV夫から身を守る為にピザを注文するふりをして警察に助けを呼ぶやつ。
それなのか。それなら警察呼ばないと。けど、あれは警察に直接言ってたぞ。ほんとにピザ屋に電話したらただの注文だ。じゃあ違うのか。でもほんとだったら。
よし。もう一度押そう。出でくれ。

「はい」

出た。解錠された。
あれ。大丈夫みたいだ。

インターホンを押す。
ドアが開く。
「ごめんなさい。待ってる間に居眠りしちゃって。お待たせしました。」

僕の世界は思った以上に平和でした。


2018年11月1日

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