short story series『知らない』 person 14
作・橋谷一滴
木曜3,4限目体育。17歳。男。
体育館の天井を眺めている。
高いなあ。バスケットボールのゴールが落ちてきたらどうしようかと考えながら目を瞑る。
体育の準備体操も終盤。僕の周りには36人の同級生が同じように寝っ転がっているけれど天井を眺めているから全く見えない。
深呼吸をすると、僕は本当に一人なのかもしれない。
と思った。
体操服のポケットを握る。
クラスのどのくらいが気付いているだろうか。
僕が制服でも体操服でも普段着でもポケットに本を入れておかないと生きていけないこと。
いつでも読めるからとかいう話ではないこと。
昨日。
クラスの、佐々木ちゃんと付き合ってる男子が本屋で万引きをしているのを見かけた。
佐々木ちゃん、本当にあいつと付き合ってるんかな。
って思った。
僕の方が良いんやないかって。
僕は佐々木ちゃんが好きだ。
彼のポケットには確かに本が入っていた。
僕のポケットに毎日入っているあの本が。
佐々木ちゃん、本当にあいつと付き合ってるんかな。
ともう一回思った。
佐々木ちゃん、どうなん?
体操服のポケットを握る。
クラスのどのくらいが気付いているだろうか。
僕が佐々木ちゃんのことが好きなこと。
僕を守っていたポケットの中身が一瞬にして汚れてしまったこと。
僕は今、佐々木ちゃんとその彼氏と同じ天井を眺めている。
僕がひとりぼっちのこの間にいっそのことバスケットゴール落ちてこないかとグシャグシャになった本をなぞりながらずっとずっと考えている。
2018年11月9日