「ノアとチキュウの遊び方」終わりと始まりの3日間。
演技未経験の俳優たちが挑むミュージカル。
会場は約500人のキャパ、光が丘IMAホール。
2日間ともほとんど満席。
「本当の自分を生きる演劇プロジェクト」
彼らと一緒に船に乗り、一緒に旅をした最後の3日間。
キャスト、講師紹介
小澤綾子(アコヤ) 青木優佳(ノア)
沖村彩花(リミサ/演出助手)
國廣美幸(サリエル/トゥーイ)
にいやまゆう (サリエル/トゥーイ)
下野万里子(アマンダ/還ってきた魂)
新堀奏子(ベラ/歌講師)
ゆうこ(踊り手/ゲスト)
兼子百泉 (踊り手/生まれゆく魂)
岸本有紀子(踊り手/ダンス助手)
秋枝明日香(ハーリーティー/演出助手)
下釜慶子(時の番人/歌講師)
松田里子(守人アイオーン)
山崎愛実(守人アストライアー/演出助手)
南郷友紀(エルピス)
齋藤忠行(先生/侵略者)
神馬 彩(振付/ダンス講師)
金澤 萌恵(脚本・演出)
11/11(金) ゲネプロ
キャストの緊張と嬉しさを想像し、劇場へ向かう。
キャパ約500人の光が丘IMAホール。
この円陣の直後にエンディングで使用される曲が流れる。音響さんの粋な計らいにキャストから歓喜と拍手が生まれる。
ゲネプロの前に男性陣の楽屋へ。高橋克周さんは演出部でもあるマキさん(ウズキ役)の従者、ハヤテ役を演じる。
演技経験者と芝居をするプレッシャーはなく、むしろ丁寧にサポートしていただいて嬉しいと温かい声で語っていただいた。
初めて照明が入っての芝居にセリフが忘れることはなかったかと訊ねると、ウリエル役の本間勝也さんは「むしろ助けられました」と安堵の表情。
ゲネプロを観て不思議な景色が見えた。
稽古場では気づかなかったがタトゥラ、マチュラ姉妹がアンサンブルのときと身長が違って見えたこと。
高さのある靴を履かないので目の錯覚のはずなのだが、場所や照明の影響か?
身体の動きが関係しているのかもしれない。
笑顔ばかりがある平和を目指すわけではない。
苦しみ、悲しみ、償えない罪や理不尽があるのは前提にあると知ったうえの決意。
どんなに辛くても、
どこかに小さな光があるはずと求め続けたい。
馬鹿にされても、できないと言われても思わずにはいられない。
このままで終わるはずがない。
諦めるわけにはいかない。
過去の自分もそうだった。
今もどこかでそう思っている。
誰か、も。
11/12(土)、13(日) 本番
楽屋から最終調整を観る。舞台上の照明の動きがよくわかる。音楽は微かに流れている音まで聞こえてきた。
舞台周辺を見ていたらキャストに出会う。
踊り手、もなみさんにお会いしたので、気になっていたダンス経験について尋ねてみた。
ダンスは大学時代にサークルでやっていただけとのこと。てっきり演出部だと思っていたので面食らってしまった。
踊り手として一人で踊るシーンもあり、それは並々ならぬプレッシャーだったはず。
命が生まれるシーンを表した振り付けで右手を掲げる時に震えているのが好きなんです、と伝えると気づいてくれたことが嬉しいと言わんばかりに「叫びを表すように、とオーダーがあったんです!」と話してくれた。
開演15分前。キャストの緊張と興奮が伝わる。
夢が、始まる。
-ノアが旅する軌跡-
(写真:佐々木昌美)
①オープニング
明るい曲調が徐々に不安定になり、荘厳さを保ち幕が上がる。時の番人と守人が観客を一気に引き摺り込む。
理由はまだ語られない、ノアとリミサの別れ。互いに手を伸ばすも届かない。
アコヤの車いすが思わぬ効果。
かぐや姫を連れ去る天女たちのように、留まっていたい体を無理やり天へ連れていくかのような魅せ方。
近くて遠いその距離の疑問が残され、エンヴァレムが打ち消すかのように舞台上を彩る。
ここで殆どのキャストが初めて客席を見る。お客様の前で演じる喜びが身体から溢れ、声に現れる。
初めて会った気がしない、とノアは言う。チキュウを案内するため、アコヤは内なる風に聞く。
前列の方に届いたか定かではないけれど、あの風を初めて衣装付きで観た時の衝撃は忘れない。
②哀しみの街
人魚族の生き残りが住む場所。リリミア役の水野陽子さんは12日にハプニングが。後で尋ねると、焦りはなく「そのまま演じ続けよう」と冷静な感情だったそう。
ユルミラ役の久保田晶子さんは実際に泣いているのが遠目でもよくわかり、それが周りのキャストにも伝わっていた。
涙の花たちがより悲しく、切ない。最初は舞台上には見えないが確かにいたのかもしれない。
人魚の鱗のような光が、アコヤのいる上手からリリミアがいる下手に移る。
ゲネプロではわからなかった。本番を遠目で観たからこそ気づいた一瞬だった。
妹のリリミアを悼み、どこにもぶつけられない怒りを絞り出すユルミラ。
許せないのは他の誰でもない。私だ。
私自身が一番、私を許せないのだ。
その痛みを知りながらも、
ウズキは訊ねる。
なぜ、あなただけが幸せになってはいけないのか。
「だけ」によってユルミラの自責が強調される。
偶然、恩人から似た言葉をいただいていた出来事を思い出す。
そんなウズキに惚れたのだろう。従者のハヤテ役、高橋克周さんは慕う想いが増し、千穐楽では声に深みが増していた。高橋さんは無意識だったと言っていたが、自然と身体は影響されていたのだろう。
③日の沈まない街
2幕の始まり。
照明・音楽も一気に華やかになり会場が引き戻されていく。
僕は美しいものが好き、と歌うシャイニー。稽古で初めて聞いた瞬間、後半にキーワードになると直感。
ウリエル役の本間さんに、劇中で平気な様子だがシャイニーのことをどう思っているか訊ねる。
占い師に言われて仕方なくシャイニーはウリエルを側に置き、雑用係をさせている。
実はその占い師にウリエルは会っていて、「シャイニーのところへ行けば人生が変わる」と言われた裏設定があると教えてくれた。
そして、シャイニーガールズの一人、美幸さんは本業が占い師。リンクしているのでは?とワクワクしてしまう。
特にお気に入りのシーン。
照明と音楽がシンプルになり、舞台の上にいるキャスト全員の表情で作るこの一瞬は見どころの一つと言っても過言ではない。
しかし、苦しくもある。観ていいのだろうか?と疑問すら生まれる人もいるだろう。
役が不安定なほど、観客は惹きつけられる。
ノアはウリエルに美しい人、シャイニーに繊細な人と言葉をかける。
萌恵さんの愛が細かいところにまで宿っていた。
④はじまりの街
ノアとリミサが最後に訪れた場所。
ハーリーティの低音が響き渡る。
とても気持ち悪い動きのシーンがあった。進撃の巨人に出てくる奇行種のような動きに見えたとサリエル&トゥーイを演じた、にいやまさんに伝える。
「YouTube観て研究したんですよ!!」よくぞ聞いてくれたと言わんばかりの勢いで笑う。歌唱指導の新堀さんも「全員やってみて、気持ち悪さベスト3の選抜だからね」と懐かしむ。オーディションで選ばれし3人だったと知った。
ゆうこさんは踊っていないと死んでしまうのかもしれない、と思うほど。稽古場でも何度も練習していた回転の着地は、スケートのトリプルアクセルが決まった瞬間のような安堵が心を満たす。
こわいよ、と言う兼子さんは、生まれるのを怖がっている子どものようだった。
怖いまま、進めばいい。
今度の旅に、あなたは何を望む?
もし誰かも、私も何かを望んで来たのだとしたら?
この3日間で初めて泣いたシーンだった。稽古場でボンヤリしていた絵がハッキリ見えた。
命が生まれる瞬間を表した場面。地の底から湧き上がるマグマのような音楽が身体に響く。
命をかける必要はない。
何かを犠牲にしてでも信念を
曲げることはできない。
互いの思いはすれ違ったまま、重なることはない。初めて道を違える日だったのかもしれない。
エルピスはきっと、何度も止めたはずだ。最後まで信じていた。
大切な人の叫びを背に彼は行く。
もらった言葉を胸に彼女は走り出す。
⑥別れと気づき
真っ暗な中、ノアは一人で歩いてくる。観客全員と一緒に作り上げる場面は、本番でしか観れない景色だった。
袖のモニター越しに観ていたキャストも思わず拍手。
千穐楽は客席で最後まで観劇、一番後ろから観たあの輝きは忘れないだろう。
切なさと、暖かさが残るラスト。千秋楽はスタンディングオベーション。
キャストが24人、そのうち16人が演技未経験の方々。
演劇をやるだけでも大変ななのにダンスと歌もこなさなければらない重圧は予想以上だったはず。
希望する役になれた方ばかりではない。それでも、だんだん役と自分の重なりに気づき最終的には皆、役を愛していた。
それぞれの個性に合う配役だった。舞台から降りてもどこかに役の面影があった。
記念写真
お客様が入ると緊張が入るかもしれないと思っていたが、アマンダ役の下野万里子さんは「お客様がいると安心する」とにこやかだった。
Wキャストのサリエル&トゥーイを二日間見ることができたのはとても嬉しかった。劇中では出てこない裏設定をこっそりと聞くことができました。
シャイニーから冷たくされるウリエル、演じた本間勝也さんは「また言ってるなー、くらいにしか捉えてないですよ」とシャイニーの過去を知っているゆえの辛さがない心境を笑いながら教えてくれた。
劇中には出てこない想いを観客は知ることはないのかもしれない。
でも、その細かい設定の積み重ねが作品の完成に繋がっている。
衣装や美術、小道具や照明もきっと見えない想いがある。
書ききれないくらい気づきと発見が見るたびにありました。
全員が良いものにしよう、とその瞬間を生きていたからこそ、何度観ても新鮮でした。
少しの寂しさ。これは通過点。
いつ終わるかもわからない人生の途中。
これまで身体に染みついた感情と記憶たち。
簡単には忘れない。
ふとした時に、きっと助けてくれるとして。
私の中に、お客様やスタッフの中にもある。
最後の帰りの会
約2時間半に及んだ。一人一人が思いを語り、講師に色紙が手渡された。
一人ずつ、今日までの想いを語る。
名残惜しい時間は過ぎてゆく。
ダンス、演技、歌と無謀とも思えた挑戦をやり遂げた24名。
全員が支え合いながら完成させた作品。
私を、私たちを見て!という作品ではないです。
主演の小澤綾子さんから聞いた言葉を思い出す。
確かに、私の物語でもあった。人間が持っている感情について考えさせられ、観終わった後には大きな問いが残る。
余韻を楽しみたい方へ
まだまだこの旅は続きます。
楽しみたい方はぜひ、アフタートークでキャストの話を聞いて質問や感想を直接伝えてください!
🎫各回¥2000 通し¥3000🎫
①哀しみの街11月21日(月)
②日の沈まない街11月23日(祝・水)
③はじまりの街12月1日(木)
⑤アーカイブ配信 11月13日(日)
📝公式サイト
🎥YouTube
🎤インタビュー記事
①主演:小澤 綾子さん
②主宰:青木 優佳さん
③演出・脚本:金澤 萌恵さん
あとがき
今回、小澤綾子さんのインタビューの最中に「出演したかったです!」と伝えたところ、ワンシーン参加という1曲だけキャストの皆様と歌う出演の機会をいただきました。
稽古期間でキャストと作品を観る時間が増えたおかげでここまで書き上げることができました。
ここに記した事実は見えた部分だけ。見えなかった景色は予想以上にあります。10月下旬からの取材期間にも関わらず、温かく迎え入れてくれたカンパニーの皆様に感謝を申し上げます。
そして関わってくれたスタッフ、この作品を作り上げてくれたお客様にも。
思わぬ再会とご縁がある現場でした。
依頼をしようと決めた金澤萌恵さん、その提案を賛成してくれた青木優佳さんと小澤綾子さんにも心からのお礼を申し上げます。
何かに問われている。
答えはもうすでに知っている。
また人生が交わる時、どんな場所にいるのか?
また聞かせていただけると嬉しいです。
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