映画を見るという、小さな私たちの小さな営み【BEST MOVIES OF 2024】
2024年もたくさん映画を見ました。劇場公開の新作だけだと70本くらい、リバイバル上映とか配信作品を合わせると100本は超えるかも。
ベストを決めるのはむずかしいけど、好きだった映画を記録に残しておきたいので、<映画好きの友人>に紹介する気持ちで10本を選びました。
タイトルに入れた「小さな私たちの小さな営み」は、昨日放送されていた『スロウトレイン』(野木亜紀子)から。とてもいいフレーズ。
🐮『ファースト・カウ』
もしも、「ファーストカットからラストカットまでの間合いがすばらしいで賞」があるならば、堂々の金賞をおくりたい。「距離」という、長さよりも感覚的な視点において、この映画はパーフェクトでした。すべての流れに意味があり、どこを引いても成立しない絶妙なバランス。
監督の過去作『オールド・ジョイ』も大好きで(U-NEXTで見られます)、そのなかに「悲しみは使い古された喜び」というセリフがある。
今作でもまた「喜び」が描かれていた。
公開は2023年だけど、年が明けてから見たので!
🏙️『異人たち』
胸が締めつけられる。とてもとても。
アダムが出会う不思議な青年ハリーを演じるのは、『aftersun/アフターサン』でどこか情緒不安定な父親役を演じた俳優ポール・メスカル。うき沈みのある儚げな感情を巧みに表現する彼は、今回も唯一無二のすばらしい演技を見せていた。(グラディエーター2でも超よかった……!)
「人と人のケミストリーは対話や性的な交感から生まれてくる」
ひとりになること(孤独でいること)は、言葉や思考を生み出すうえでとても大切なことだと思う。だけど、監督がいうように(この映画で示してくれているように)、孤独からケミストリーは生まれない。たぶん、静かすぎる孤独は、感情を凍りつけてしまうから。
「記憶は残り続ける。だからわたしたちは、自分に対しても他者に対しても心を広く持てればいい」
このイメージを忘れずにいたい。
👻『ゴースト・トロピック』
上映開始3分で「ああこの映画もまた人生の1本だ」と確信した。
「長回し」が特徴的な本作。ふだんは取りこぼしてしまう、<ささやかな感情の機微>を、じっくりとあわてずに捉えている。
夜行性に生きる人々(コンビニの深夜バイト、デパートの警備員、夜に遊ぶ若者たち)の、やわらかな連帯感に包まれた世界をただよって、真夜中の冒険から帰還するオカン。決してハートフルではなく、終始ドライでリアルなのがよかった。
静と動、明と暗、存在と不在を操る80分の魔法のような映画。たまには電車を乗り過ごして、点描の輝きで煌めく都市を歩いてみたい。
バス・ドゥヴォス監督は、今年出会えて本当によかった監督のひとりなので、ぜひ覚えて帰ってください。
🌿『Here』
ヒーリング、そしてメディテーション。
移民労働者のシュテファンは、どうやら帰郷に消極的。植物学者のシュシュは苔を熱心に研究しているけど、特に詳しい説明はない。
そういった説明よりむしろ、夜に虫が奏でる音や葉をつたう雨粒、静かに揺れる森をカメラは捉え、物語を詩的に運んでいく。
「ボーイミーツガール」だけど、仕上げに甘いスパイスは使われない。彼らが交わした時間も、過ごした時間も、とても短いものだから、それがお互いにどれだけ影響を与えたのかもわからない。
だけどすこしの、ほのかな「予感」だけを残して、映画は終わる。
そのとき僕たちは「ああ...完璧だ......」と思うしかないのだ。
🎾『チャレンジャーズ』
刺激が強すぎる! かなり好きだった。
極上の“音”にドンズバのカット。
美しいビジュアルと官能的なリズムに、アドレナリンがどんどん溢れ出る。
間違いなく2024年のベストスポ魂ムービー!
ルカ・グァダニーノ監督は筋肉と汗しか信じていないのかもしれない。
そう信じて疑わないほど、この映画を支配しているのは「身体」だった。
🎄『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』
人は誰しも「ここまで来るのに色々あった」わけで、それをオブラートに包まないジョーク(笑える)とささやかな愛でもって教えてくれる。
「歴史を学ぶことは、過去についてだけじゃなく、今を語ることができる」
みたいな台詞があって、たしかにそうだと思った。伝えたいことは別に今の時間軸に乗っける必要は必ずしもなくて、ベストな場や方法を選ぶために歴史(これまでのこと)を学ぶ必要があるんだろう。
副題は「置いてけぼりのホリディ」。寄宿学校に通う生徒たちは親が金持ちで、ろくに子供に向き合う時間を取りやしない。教師もここの卒業生で、あらゆる思いを抱えながら学校にしがみついている。
そんな痛みを持った3人が「クリスマスなんだから」と無愛想で不器用に、だけど慈しみを持って関わり合うことで、気持ちがそっと前を向いていく。
あたたかく、やさしい映画だった。
🦌『悪は存在しない』
鑑賞した翌週。同僚と話していて、ある感想が心に残った。
「強さって、鈍感さなのかもしれない」
痛みも、悲しみも、気づかなければ影響はない。
たとえいくら深い傷だったとしても。
上流で放たれた悪が、下流に流れ込んでいく。
強いひとたちは鈍いから、それに気づかない。考えも及ばない。
では、下流にいるひとはどうなるのか?
心が壊れてしまうものも、ひたむきになろうとするものもいる。
そこから逸脱しない限りは、流れに乗るしか無いのかもしれないが、「抜けること」こそむずかしい。強さだけでなく勇気が必要だし、知らず知らずのうちに、暴力を振りかざしてしまうかもしれない。
「悪」はどこに存在するんだろう?
🎬『フォールガイ』
これ、見ました? 劇場に足を運んでいると、ごくたまに「すべてがハマる」映画に出会うことがあるんだけど、まさにそれ!
アクションとロマンを愛するすべての映画ファンに観てほしい。
最高のサマームービー。大好きです!
🌊『SUPER HAPPY FOREVER』
永遠にめっちゃずっと幸せ。
このアホみたいに思える文言は、劇中のとあるシーンにかかっていて、永遠ってふつうは「死がふたりを分かつまで」のイメージだけど、この映画ではもっと、なんか、インスタントな瞬間に幸福を感じるような、その一瞬にすがって生きていく(いける)ような、そんなイメージだった。
たとえ忘れてしまっても、失ってしまっても。そこに「あったこと」に変わりなくって、リレーとか循環とか、そういうことも多く感じた。
2023年の12月に最愛の犬が天国に旅立っちゃって。ああどうすればいいだろうと悲しみの底にいたけれど、だれかに「思い出すたびに、亡くなった人の上に花びらが降る」と聞いてから、すごい楽になった。
あの一瞬を、ともに過ごした幸福を、何度も何度も思い出しては、天国の犬の上に花びらをたくさん降らしてやろう。桜が大好きだったし。
あと、喜びには寂しさもつきもので、ここでも「悲しみは使い古された喜び」というフレーズを思い出した。
たとえば、隣で寝ていた大切な人が突然いなくなったとして、そこに残るベッドのわずかな沈みに“いたこと”を感じるような、寂しさ。
劇中つねにただよう「死」の香りと、「永遠」を象徴するうつくしい海岸線が印象的。ヴァカンス行きたいな。
🤖『ロボット・ドリームズ』
2024年はこれでしょう。オールタイムベスト!
ひとはよろこびをひとり占めするのではなく、“分かち合う”ことで幸せを感じる。まだまだ短い人生だけど、これはなかなか真理だろうと思ってて、セリフが何もないこの102分のアニメーションにそのすべてが詰まってた。
これは想像だけど、ロボットはラスカルと一緒に「September」を聴いたんじゃないかな。「これが僕のお気に入りなんだ」って。
繋ぐ手の力をやさしくするように、ビーチでオイルを塗ってあげるように。
過去の時間が地層となって、その上を私たちは歩いている。
あの輝く9月の日々を忘れない。ロボットの愛とやさしさに大涙。
以上、2024年に好きだった10本の映画です。
こう振り返ってみると、有名どころばかりでおもしろみに欠けるかもしれない。だけどどれもいい映画なので、参考になればうれしいです。