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映画を見るという、小さな私たちの小さな営み【BEST MOVIES OF 2024】

2024年もたくさん映画を見ました。劇場公開の新作だけだと70本くらい、リバイバル上映とか配信作品を合わせると100本は超えるかも。

ベストを決めるのはむずかしいけど、好きだった映画を記録に残しておきたいので、<映画好きの友人>に紹介する気持ちで10本を選びました。

タイトルに入れた「小さな私たちの小さな営み」は、昨日放送されていた『スロウトレイン』(野木亜紀子)から。とてもいいフレーズ。



🐮『ファースト・カウ』

西武開拓時代のオレゴン州が舞台。料理人のクッキーが中国系移民のキング・ルーに出会い、やがてふたりは未開の地にやって来た牛からミルクを盗んで、ドーナツで儲けるという大胆な計画を立てるのだが……。

もしも、「ファーストカットからラストカットまでの間合いがすばらしいで賞」があるならば、堂々の金賞をおくりたい。「距離」という、長さよりも感覚的な視点において、この映画はパーフェクトでした。すべての流れに意味があり、どこを引いても成立しない絶妙なバランス。

監督の過去作『オールド・ジョイ』も大好きで(U-NEXTで見られます)、そのなかに「悲しみは使い古された喜び」というセリフがある。

ずっと犬がいるロードムービー

今作でもまた「喜び」が描かれていた。
公開は2023年だけど、年が明けてから見たので!

🏙️『異人たち』

ロンドンで暮らすアダムは、12歳のときに交通事故で両親を亡くした40代の脚本家。それ以来、孤独な人生を歩んできた彼が、幼少期を過ごした郊外の家を訪ねると、そこには30年前に他界した父と母が当時の姿のまま暮らしていた。アダムは足繁く実家に通う一方、同じマンションの住人である謎めいた青年ハリーと恋に落ちていく。

胸が締めつけられる。とてもとても。

アダムが出会う不思議な青年ハリーを演じるのは、『aftersun/アフターサン』でどこか情緒不安定な父親役を演じた俳優ポール・メスカル。うき沈みのある儚げな感情を巧みに表現する彼は、今回も唯一無二のすばらしい演技を見せていた。(グラディエーター2でも超よかった……!)

「人と人のケミストリーは対話や性的な交感から生まれてくる」

ひとりになること(孤独でいること)は、言葉や思考を生み出すうえでとても大切なことだと思う。だけど、監督がいうように(この映画で示してくれているように)、孤独からケミストリーは生まれない。たぶん、静かすぎる孤独は、感情を凍りつけてしまうから。

「記憶は残り続ける。だからわたしたちは、自分に対しても他者に対しても心を広く持てればいい」

このイメージを忘れずにいたい。

👻『ゴースト・トロピック』

長い一日の仕事を終えた掃除婦のカディジャは、最終電車で眠りに落ちてしまう。終点で目覚めた彼女は、家へ帰る方法を探すが、もはや歩いてしか帰れないことを知る。寒風吹きすさぶ真夜中のブリュッセルを彷徨い始めた彼女は、予期せぬ人々との出会いを経て、家に帰ろうとする……。

上映開始3分で「ああこの映画もまた人生の1本だ」と確信した。

「長回し」が特徴的な本作。ふだんは取りこぼしてしまう、<ささやかな感情の機微>を、じっくりとあわてずに捉えている。

夜行性に生きる人々(コンビニの深夜バイト、デパートの警備員、夜に遊ぶ若者たち)の、やわらかな連帯感に包まれた世界をただよって、真夜中の冒険から帰還するオカン。決してハートフルではなく、終始ドライでリアルなのがよかった。

静と動、明と暗、存在と不在を操る80分の魔法のような映画。たまには電車を乗り過ごして、点描の輝きで煌めく都市を歩いてみたい。

バス・ドゥヴォス監督は、今年出会えて本当によかった監督のひとりなので、ぜひ覚えて帰ってください。

🌿『Here』

夏季休暇を前に、故郷への帰郷に悩む移民労働者の青年シュテファン。彼は冷蔵庫を空にするためにスープをつくり、友人たちに「お別れの挨拶」として配り歩いている。一方、中華系移民で植物学者のシュシュは、おばさんの中華料理店で店番を(したりも)しながら、地球を覆う苔についての研究に励む日々を送っている。そんな二人が、いやシュテファンが、シュシュに出会う物語。

ヒーリング、そしてメディテーション。

移民労働者のシュテファンは、どうやら帰郷に消極的。植物学者のシュシュは苔を熱心に研究しているけど、特に詳しい説明はない。

そういった説明よりむしろ、夜に虫が奏でる音や葉をつたう雨粒、静かに揺れる森をカメラは捉え、物語を詩的に運んでいく。

「ボーイミーツガール」だけど、仕上げに甘いスパイスは使われない。彼らが交わした時間も、過ごした時間も、とても短いものだから、それがお互いにどれだけ影響を与えたのかもわからない。

だけどすこしの、ほのかな「予感」だけを残して、映画は終わる。
そのとき僕たちは「ああ...完璧だ......」と思うしかないのだ。

🎾『チャレンジャーズ』

人気と実力を兼ね備えたタシ(ゼンデイヤ)は、絶対的な存在としてテニス界で大きな注目を集めていた。しかし、試合中の大怪我で、突如、選手生命が断たれてしまう。選手としての未来を失ってしまったタシだったが、新たな生きがいを見出す。それは、彼女に惹かれ、虜となった親友同士の2人の男子テニスプレイヤーを愛すること。だが、その“愛”は、10年以上の長きに渡る彼女にとっての新たな<ゲーム>だった。はたして、彼女がたどり着く結末とは……。

刺激が強すぎる! かなり好きだった。

極上の“音”にドンズバのカット。
美しいビジュアルと官能的なリズムに、アドレナリンがどんどん溢れ出る。
間違いなく2024年のベストスポ魂ムービー!

ルカ・グァダニーノ監督は筋肉と汗しか信じていないのかもしれない。
そう信じて疑わないほど、この映画を支配しているのは「身体」だった。

🎄『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』

問題児の青年と嫌われ者の古代史教師、子供を亡くした料理長が、クリスマスを目前にした冬休みの寄宿学校に“取り残される”。

人は誰しも「ここまで来るのに色々あった」わけで、それをオブラートに包まないジョーク(笑える)とささやかな愛でもって教えてくれる。

「歴史を学ぶことは、過去についてだけじゃなく、今を語ることができる」

みたいな台詞があって、たしかにそうだと思った。伝えたいことは別に今の時間軸に乗っける必要は必ずしもなくて、ベストな場や方法を選ぶために歴史(これまでのこと)を学ぶ必要があるんだろう。

副題は「置いてけぼりのホリディ」。寄宿学校に通う生徒たちは親が金持ちで、ろくに子供に向き合う時間を取りやしない。教師もここの卒業生で、あらゆる思いを抱えながら学校にしがみついている。

そんな痛みを持った3人が「クリスマスなんだから」と無愛想で不器用に、だけど慈しみを持って関わり合うことで、気持ちがそっと前を向いていく。

あたたかく、やさしい映画だった。

🦌『悪は存在しない』

長野県、水挽町(みずびきちょう)。自然が豊かな高原に位置し、東京からも近く、移住者は増加傾向でごく緩やかに発展している。代々そこで暮らす巧とその娘・花の暮らしは、水を汲み、薪を割るような、自然に囲まれた慎ましいものだ。しかしある日、彼らの住む近くにグランピング場を作る計画が持ち上がる。コロナ禍のあおりを受けた芸能事務所が政府からの補助金を得て計画したものだったが、森の環境や町の水源を汚しかねないずさんな計画に町内は動揺し、その余波は巧たちの生活にも及んでいく。

鑑賞した翌週。同僚と話していて、ある感想が心に残った。

「強さって、鈍感さなのかもしれない」

痛みも、悲しみも、気づかなければ影響はない。
たとえいくら深い傷だったとしても。

上流で放たれた悪が、下流に流れ込んでいく。
強いひとたちは鈍いから、それに気づかない。考えも及ばない。

では、下流にいるひとはどうなるのか?
心が壊れてしまうものも、ひたむきになろうとするものもいる。

そこから逸脱しない限りは、流れに乗るしか無いのかもしれないが、「抜けること」こそむずかしい。強さだけでなく勇気が必要だし、知らず知らずのうちに、暴力を振りかざしてしまうかもしれない。

「悪」はどこに存在するんだろう?

🎬『フォールガイ』

ハリウッドのスタントマン・コルトは、怪我を負って一線から退いていた。復帰した現場で元恋人ジョディと再会するが、主演俳優のトムが突如失踪してしまう。ジョディの復縁とスタントマンとしての名誉挽回のためにトムの行方を追うが、事件が待ち受けていた。

これ、見ました? 劇場に足を運んでいると、ごくたまに「すべてがハマる」映画に出会うことがあるんだけど、まさにそれ!

アクションとロマンを愛するすべての映画ファンに観てほしい。
最高のサマームービー。大好きです!

🌊『SUPER HAPPY FOREVER』

ある朝、妻に突然先立たれた佐野は幼なじみの宮田と、5年ぶりに海辺のリゾート地を訪れる。彼らは、佐野の亡き妻・凪の影を追うように、町の中を巡っていく。ふたりは、同じくふたり組の女性たちに出会うのだが、佐野は妻を亡くした喪失感を拭えずにいて……。

永遠にめっちゃずっと幸せ。

このアホみたいに思える文言は、劇中のとあるシーンにかかっていて、永遠ってふつうは「死がふたりを分かつまで」のイメージだけど、この映画ではもっと、なんか、インスタントな瞬間に幸福を感じるような、その一瞬にすがって生きていく(いける)ような、そんなイメージだった。

たとえ忘れてしまっても、失ってしまっても。そこに「あったこと」に変わりなくって、リレーとか循環とか、そういうことも多く感じた。

2023年の12月に最愛の犬が天国に旅立っちゃって。ああどうすればいいだろうと悲しみの底にいたけれど、だれかに「思い出すたびに、亡くなった人の上に花びらが降る」と聞いてから、すごい楽になった。

あの一瞬を、ともに過ごした幸福を、何度も何度も思い出しては、天国の犬の上に花びらをたくさん降らしてやろう。桜が大好きだったし。

あと、喜びには寂しさもつきもので、ここでも「悲しみは使い古された喜び」というフレーズを思い出した。

たとえば、隣で寝ていた大切な人が突然いなくなったとして、そこに残るベッドのわずかな沈みに“いたこと”を感じるような、寂しさ。

劇中つねにただよう「死」の香りと、「永遠」を象徴するうつくしい海岸線が印象的。ヴァカンス行きたいな。

🤖『ロボット・ドリームズ』

1980年代のNY。ひとり暮らしで深い孤独を感じていたドッグは、通販番組である商品に心をひかれて注文する。後日、大きな箱で届いた部品を組み立てると、ロボットが完成する。徐々に友情を深めていくドッグとロボットは、夏を迎え海水浴へ出かけるだが……

2024年はこれでしょう。オールタイムベスト!

ひとはよろこびをひとり占めするのではなく、“分かち合う”ことで幸せを感じる。まだまだ短い人生だけど、これはなかなか真理だろうと思ってて、セリフが何もないこの102分のアニメーションにそのすべてが詰まってた。

これは想像だけど、ロボットはラスカルと一緒に「September」を聴いたんじゃないかな。「これが僕のお気に入りなんだ」って。

繋ぐ手の力をやさしくするように、ビーチでオイルを塗ってあげるように。

過去の時間が地層となって、その上を私たちは歩いている。
あの輝く9月の日々を忘れない。ロボットの愛とやさしさに大涙。


以上、2024年に好きだった10本の映画です。

こう振り返ってみると、有名どころばかりでおもしろみに欠けるかもしれない。だけどどれもいい映画なので、参考になればうれしいです。


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