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武器と便座(ルーマニア)
ブカレスト北駅で目的地への切符を買った後、数時間の待ち時間ができた。そこで周辺で時間を潰せる場所を探したところ見つかったのが国立軍事博物館だった。
平日午前の館内は人もまばらで、先史時代から現代に至るまでの軍事に纏わる展示物をゆっくり眺めることができた。そこに並んでいたのは武器や防具だけではなく、様々な道具や衣装、建築に至るまで多岐にわたるものだった。そして、それらを眺めていると、まるで全ての物の進化は、直接的もしくは間接的に攻撃力か防御力を高めるために為されてきたような感覚を得てしまった。
人の創造力が、攻撃力や防御力を高める時にこそ特に強く発揮されるというわけではないだろう。ただ、何か新しいことを具現化する際、それが軍事的利益をもたらす場合に、資金やその他リソースの支援を受けやすいのかもしれない。それは軍事が集団における公共利益であり、また他の集団を敵や脅威とみなしていることを意味する。
そのことを認識すると、ダウンに身を包み、スマートフォンで行き先を調べたり写真を撮っている自分は、それらの技術の恩恵を受けることで、意識せず軍事行為を肯定しているような気がした。
博物館を出る前に座った冷たい便座の上で、ふと思い出したのは暖房便座と温水洗浄。あの温かく優しい道具のどこかにも、かつて軍事を目的として生み出された技術が活用されているのかもしれない。しかし、暖房便座や温水洗浄がもたらすものは攻撃でも防御でもなく至福の排泄モメント。全ての技術には何度でも生まれた意味を書き換えるチャンスが訪れるはず。
Bucharest, Romania, 2023