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《イタリア情報》 あなたは生パスタ派? それとも乾燥パスタ派?
イタリアでは生パスタと乾燥パスタは全く別の食べ物。本場イタリアの生パスタの作り方を伝授。
文・撮影/市川路美
生パスタと乾燥パスタの違い
世界各国で食されるようになったイタリアの国民食パスタ。過去15年間で、世界のパスタ年間生産量は56%増加し、1000トン以上パスタを生産している国も27か国から47か国に増えました。
世界100か国以上を旅していますが、パスタを食べない国を見つけることの方が難しい。それだけでなく、世界各国の家庭料理がパスタ中心になりつつあります。その理由は伝統的な郷土料理を作るより、パスタの方が簡単で美味しいから。
かつてローマ帝国は、地中海沿岸の全ての地域を支配下に置きました。そして現在、イタリアのパスタはローマ帝国時代よりも圧倒的な影響力で世界を征服しつつあります。
イタリアには、生タイプと乾燥タイプの2種類のパスタがあります。日本の方たちは、パスタを蕎麦やうどんのようにとらえ、手打ちの生タイプの方が高級で美味しいと考えがちです。しかしパスタの本場イタリアでは、生パスタと乾燥パスタは全く別の食べ物とみなされています。
それでは生パスタと乾燥パスタの違いとは何なのでしょうか? ちなみに生パスタを乾燥させれば乾麺になるわけではありません。食材や製法が異なるからです。
イタリアの乾燥パスタは粗挽きにした硬質小麦に水を加えて作ります。一方生パスタは薄力粉などの軟質小麦を使い、水ではなく卵を加えます。
生パスタは乾燥パスタのように、成形後に高温で一気に乾燥させる訳ではないので小麦の風味が強く残ります。食感も全く異なり、生パスタは水分を多く含んでいるので柔らかくてモチモチ。一方で乾燥パスタは麺のコシが断然強く大きな魅力となっています。また、乾燥パスタは長期保存もききます。
どちらのタイプのパスタもイタリア全土で食すことが出来ますが、一般的に北部では生パスタ、南部では乾燥パスタが好まれています。北イタリアでは軟質小麦が、ナポリを中心とした南イタリアでは硬質小麦が栽培されています。地元の食材を使った料理が定着し愛されるのは当たり前。そのため、イタリア北部では生パスタ、南部では乾燥パスタを中心に食すようになりました。
イタリア人にとって乾燥パスタは購入するもの、生パスタは手作りするものです。ただし全くの手作りではなく、機械を使います。レストランはもちろん、一般家庭でもパスタマシーンを持っている家庭がイタリアでは多いのです。
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イタリアのラツィオ州にある紀元前4世紀の古代エトルリア人が築いた都市、チェルヴェーテリの遺跡からは、現在のものとほとんど同じ形態のパスタを作る道具が出土しています。
今回はそんな古くからイタリアに伝わる、パスタマシーンを使った生パスタの作り方を紹介したいと思います。
生パスタの作り方
●生パスタの材料
イタリア産の軟質小麦粉 500g
卵 5個
塩 小さじ1
打ち粉
1 基本的に小麦粉100gに対して卵1個の割合です。まずはボウルに軟質小麦粉をふるいにかけて入れ、卵と塩を加えて混ぜます。
卵と小麦粉が混ざって、バラバラの小さな粒状態になるまでは泡立て器を使うのが効率的なのだそう。ボウルに入れたそのままの状態で5分ほど休ませます。
2 打ち粉をふった台の上に生地を移し、今度は手を使って捏ねていきます。水分がかなり少ないので捏ねるのが大変かと思います。だからといって水分を足してしまうとコシのないパスタになってしまうので注意が必要。ただし小麦粉の種類や季節によって吸水率が異なるので、状況を判断しながら水を加えて調節します。
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美味しい生パスタを作るには、苦しまなければなりません。捏ねやすいと感じたらアウト。直ぐに小麦粉を足しましょう。
表面がなめらかになり、耳たぶくらいの柔らかさになるまで頑張って捏ねましょう。生パスタが大量に必要となるレストランでは、この段階も機械に任せてしまうのだそう。
3 生地を一つに丸めラップに包んで休ませます。時間がない時でも最低1時間は休ませましょう。理想は一晩。しっかり生地を休ませることで、しっとりとした伸ばしやすい生地になります。
4 休ませた生地を打ち粉をふった台の上に置き、スケッパーなどで適量に小分けします。小分けした塊の一つをとり、まずは麺棒でパスタマシーンに通せるくらいの薄さ、1cmくらいの厚さに伸ばします。
5 パスタマシーンには厚みを調節する目盛りがついているので、最初は一番厚い目盛りで生地を伸ばします。
パスタマシーンの厚みを調整する目盛りを1段階ごとに変えて、少しずつ生地を薄くしていくことが大切です。
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いきなり薄くしてしまうのはご法度。生地を伸ばしたら二つ折りにして再びマシーンにかけて伸ばす。これを繰り返すことで麺になめらかさとコシが生まれます。
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6 また一気に薄くしてしまうと、生地が破れやすくなります。何回も根気よく、マシーンに生地を入れて伸ばす→二つ折りにする→再びマシーンで伸ばす、を繰り返せば、どんなに薄い生地でも破けません。
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7 好みの薄さに伸ばしたら打ち粉をふった台の上に置き、生地の上にも打ち粉をふります。かなりたっぷりめに打ち粉をふらないと、後でパスタをカットするマシーンにかけた時にくっついて一大事となってしまいます。
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8 コピー紙ほどの大きさに生地をカットします。
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9 生地は若干膨張するので、理想とする太さよりやや細めの目盛りでカットします。
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10 カットした後のパスタ同士がくっつかないように再び打ち粉をしっかりまぶします。
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11 生パスタは出来立ての柔らかい状態ではなく、少し時間をおいて乾かした方がコシのある麺となります。
生パスタでも乾燥させることはとても重要で、乾燥させることによって麺のコシだけでなく、パスタの中のデンプン質が旨味や甘味に変化します。生パスタの場合は少し表面が乾燥するくらい、最低でも1時間は乾燥させます。
12 乾燥した気候のイタリアでは、カットした生パスタの1人前を丸めて置いておくだけできちんと乾燥します。
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湿気の多い日本で生パスタを作る場合は、パスタハンガーなどに吊るして乾燥させた方が良いです。目安として、ハンガーに吊るした部分が少し固まって形づくまで乾かすのがベスト。乾燥させた後は冷蔵庫で2〜3日寝かせます。
生パスタは出来立てを直ぐに食べることもご法度。ただし生なので保存はききません。最長でも賞味期間は10日間程度です。
それぞれの麺の特徴を生かす
生パスタは乾燥パスタとは異なり茹で時間がとても短いのも大きな特徴。パスタの厚みによって異なりますが、だいたい1〜2分ほどで茹で上がります。
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沸騰したお湯に水量の1%の塩を入れてから茹でます。お湯にオリーブオイルなどのオイルを入れて茹でる人も多いのですが、イタリア人的には邪道なのだそう。そして、生パスタはのびやすいので、茹でた後は時間をおかずに直ぐに食べましょう。
生パスタはこってりしたクリーム系のソースとの相性が抜群です。肉類にクリーム、チーズ、バターなどをたっぷり使用した濃厚なソースと一緒に食べます。反対に乾燥パスタはペペロンチーノなどのオイル系のソース、魚介類などを使用したあっさりめのソースを合わせます。
生パスタと乾燥パスタ。どちらにも異なった魅力があり優劣をつけるのは不可能なのです。
(2023年6月30日発行「素材のちから」第49号掲載記事)