サラダを型ぬく。
ゼラチンがサラダをやさしく固める
サラダをゼラチンで丸い型に寄せて抜いてみた。キラキラとしたゼリーで包まれた緑の野菜はみずみずしさの表現が変わり、同じ具材のサラダも印象が違う。プルンとした食感と口溶けのよいおいしさも加わり、これはおいしい食事のはじまりを告げるサラダだ。
文・撮影/長尾謙一
料理/横田渉
リーフゼラチン シルバー
(素材のちから第43号より)
ゼラチンで、サラダの新たなスタイルを探してみる。
ゼラチンはいつも料理を支える名脇役
ゼラチンはブイヨンを固めたり、ムースの泡を保ったり、飾りや艶出しに使われ、料理という舞台では見事に脇役をこなす。
冷製の料理などは、ゼラチンがなくてはできない料理が数多い。それほどまでに活躍するゼラチンだが、料理の主役をつとめることは極めて少ない。
しかし、スイーツメニューを探してみると、コーヒーゼリーやフルーツゼリーがすぐに思い当たる。苦みと甘みをプルンとしたゼリーに閉じ込めたコーヒーゼリーは、昭和の時代から人気の主役だ。これはフランスやアメリカから伝わったものではなく、日本で生まれたデザートと聞く。
フレッシュな果汁を固めたキラキラと輝くフルーツゼリーもデザートの定番である。どちらも目新しさはなくなったものの、ベテラン俳優のいぶし銀のような魅力を持っている。
そう考えてみると、ゼラチンを使った料理メニューに主役がなかなか見当たらない。このキラキラしたゼリー感をもっと料理に取り入れられないものだろうか?
ゼリー感が主役の〝サラダゼリー〟
外食店ではテリーヌ型で野菜を寄せて固めた〝野菜のテリーヌ〟が、コースメニューの前菜で提供されることがあるが、色とりどりの野菜とキラキラと輝くゼリーの組み合わせはフレッシュでとても魅力的だ。特に女性には人気が高く、素材の組み合わせを変えればバリエーションを広げることができる。
しかし、〝野菜のテリーヌ〟をメニューとして提供するためには手間がかかる。何よりも、上手にカットしなくてはならず結構難しい。作業性をよくするために硬く固めれば口溶けは悪くなりゼリーがおいしくない。
それならば、サラダに使う細かくカットした野菜を一人前の大きさの型に入れてゼリーで寄せてはどうだろう? 型から外してそのまま提供できる。フルーツゼリーの野菜版のようなものだ。これに無理矢理ネーミングするならば〝サラダゼリー〟というところだろうか。
今回は「リーフゼラチン シルバー」を使って、この〝サラダゼリー〟に挑戦してみることにする。
崩して食べるサラダゼリーはいかがだろうか
今回は、固める素材の表情がよく分かるように、固めるゼリー液にはすべて透明な昆布出汁を使った。チキンブイヨンなどを使えばアレンジはますます広がるだろう。それでは、試作してみよう。
まずは〝根菜のミックスサラダゼリー〟からだ。蕪、ラディッシュ、みょうがは薄くスライスして軽く湯通しし、ニンジンは太めに切ってやわらかくなるまでボイルする。アクセントになるように細かく切った赤パプリカ、セルフィーユと一緒に型に詰め、ゼラチンを溶かした昆布出汁をシリコンの型に注ぎ冷やし固めた。
〝グリーンサラダゼリー〟は、湯通ししたアスパラ、ブロッコリー、スナップエンドウ、ほうれん草とカットしたアボカドを型に詰め、こちらもゼラチンを溶かした昆布出汁を注ぎ冷やし固めた。
根菜にも、グリーンの野菜と同様に下茹でしただけで味付けをしなかったので、盛り付ける時にまわりにビネグレットなど添えれば、崩して絡めて一緒に食べるとおいしいだろう。
あらかじめ味が強めの出汁に浸しておいてから寄せるのもいいだろう。野菜の大きさが違うから食感に凄くバラエティー感がある。ゼリーの口溶けがよく、野菜がみずみずしく感じられ舌触りもいい。
次は〝きのこのサラダゼリー〟だ。きのこは昆布出汁で炒め煮してピクルス液でマリネしておく。きのこ独特のプリプリした食感とゼリーのプリプリした食感がおもしろい。崩した時に皿に広がるきのことパプリカたちが美しい。
〝キャロットラペのサラダゼリー〟は、普通のキャロットラペを固めただけだ。細く切ったニンジンにはゼラチン液が入りやすく絡むためよく固まる。食べる時に崩すとキラキラと輝き美しく食べやすい。酸を含んだ素材も難なく固まった。
固める素材は自由自在
今度は海老を固めてみた。海老の曲がりを上手く使ってリング状に仕上げる。生のセロリは海老を甘く感じさせ、ボイルした海老のパサパサ感がなくてしっとりと味わえる。ゼリーの食感があることで海老の歯ごたえが心地いい。
さて次は、〝チキンとトマトのサラダゼリー〟だ。あらかじめ蒸した鶏肉にナンプラーを絡めてアジアっぽい風味にした。むね肉はしっとりとしていてパサパサ感がない。トマトの酸味と甘みを組み合わせることでフレッシュ感が増す。
次に、生ハムとケール、オリーブの実を固めてみた。ゼリー液の温度は50℃程度なので、生ハムにもケールにも熱の影響はなくフレッシュ感が残る。さっぱりとしたゼリーと絡まった生ハムは凄くしっとりしていてとてもおいしい。これは生ハムの新しい楽しみ方かもしれない。ゼリーの中に浮かぶ生ハムは視覚的にもおもしろい。
最後はそうめん、柚子、三つ葉を昆布出汁のゼリーで固めた。ここでもゼリー液の温度は50℃程度なので三つ葉がしんなりとしていない。そうめんがゼリーと一緒に口の中でほぐれていく感覚が新鮮だ。ゼリーを崩すと三つ葉と柚子が香る。
さて、思いつくままに素材を固めてみた。固めにくいものもあったが、もう少し試作すれば、〝サラダゼリー〟のスタイルができるように思うがいかがだろうか。
(2021年12月28日発行「素材のちから」第43号掲載記事)