鍋焼きハギハラと冷やしオギワラはいちいち訂正することに疲れていた
「ウメタさんって、言い間違いとか誤字脱字めっちゃ多いよね」
萩原久美はなかなか冷めない鍋焼きうどんをつつきながら、真冬に冷やし中華をすする荻原恵に言った。
ハギハラは自分が2年目のときに入社してきたオギワラとよく混同された。メールも郵便物も電話も、しょっちゅう入れ替わっていた。二人は顔のつくりも背恰好もよく似ていたから余計ややこしかった。お客さんに「姉妹ですか?」と聞かれたことも一度ではなかった。
社内の人は <ハギハギ> <オギメグ> というあだ名で呼ぶことで二人を区別した。しかしウメタさんは「いつもこんがらがっちゃうから、二人ともギラちゃんって呼ぶね」という謎の手法を編み出した。「私はウメタでもウメダでもどっちでもいいよ」と付け足した。
「私、誤字脱字が多い人って許せないんです」
冷やし中華を一気に食べ終わったオギメグが言った。「昔付き合っていた男が超誤字脱字野郎で。嘘つきまくるし、毎回遅刻するし、浮気もされたし。誤字脱字って、相手のことなんかどうでもいい、自己中心的でいい加減な人間だという証明なんだとおm」
ガラガララ らっしゃいませ〜
「おー、ギラちゃんギラちゃんお揃いで。鍋焼きか〜。たしかにありだね」などと呟きながら、ウメタさんは隣のテーブルに座った。「すいませーん、このウミテンうどんって、どんなのですか?」
またウメタさんが変なこと言ってるよ、マジで日本語力ないわーと思って、壁に貼られたメニューを見るとそこには本当に「海天うどん」と書いてあった。
「あっ!えび天うどんって書いたつもりだったんだけどなー。だから全然注文されなかったのかー。でもまぁ、えびも海からやってきてるから間違っちゃないよな、うん」「じゃあ、海天うどんくださいよ。えび、いか、きす、海のもの全部のせてくれてもいいですよ笑」「じゃあ特別にのせちゃう!わはははは!」
なんか二人ともめっちゃ楽しそうなんですけど、、、鍋焼きハギハラと冷やしオギワラは目を見合わせた後、静かに席を立った。