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令和の恋愛ドラマと性的同意
今(2024年秋クール)やっている「私たちが恋する理由」というドラマを観ているのだけれど……
https://www.tv-asahi.co.jp/watakoi/
1話から、気になるシーンはあったものの、先週と今週(2024年11月9日,16日)に放送された5,6話を観ていて、
「それハラスメントじゃない?」
「性的同意取れてなくない?」
「性に関する偏見がありすぎる…」
と、倫理的に気になるシーンが多すぎて、さすがに楽しめなくなってきたので、わたしの気になった点と、その何が問題なのかを、少し長くなるがまとめてみようと思う。
はじめに
ちなみにわたしは生粋のテレビドラマオタクで、今までも数多くの恋愛ドラマを好んで観ていて、時代における恋愛ドラマの変遷を考えてきた。今は脚本の勉強もしていて、自分がシナリオを創作する立場でもある。
そして、主演の菊池風磨さんをはじめ、今回このドラマでは好きなアイドル・俳優の方々が出ていて期待していたからこそ、単に「叩く」だけじゃなく、丁寧に批判しておきたいと思い、
自分がそういう作品を書いてしまわないためにも、日本のテレビドラマの発展させたいという意味でも(背負いすぎ?w)、このnoteを書いていく。
性的同意のなさと、権力構造
ちなみに一応確認しておくと、
「性的同意」=セックスはもちろん、手をつなぐこと、そしてハグやキスなどすべての性的な行為の際に、お互いが積極的に望んでいるかを確認すること
ケース①
この「私たちが恋する理由」では、男女6人、3組のカップルの恋愛模様が描かれている。3組とも同じ会社の33歳と25歳の上司と部下のカップル(もしくはカップルになるかどうか?という男女)。
つまり、8個の年齢差でただでさえ年上の人が権力を持ちやすいうえに、上司と部下という立場上、上司の側が権力を持ちやすい二重構造。かつ、現代社会においては男性のほうが権力を持ちやすい・言動において優位に立ちやすいという構造の上に成り立っているという三重構造……
しかし、1話から「上司と部下の恋愛は難しいのか?」というテーマに触れているにもかかわらず、「仕事がやりにくくなる」「会社で気まずい」などの理由に触れるのみで、権力構造上の危険性には全く触れられていない。
そして案の定、第1話で、久間田琳加さん演じる森田(部下)が菊池風磨さん演じる黒澤(上司)の手握る。そして、黒澤が急に森田の手を引き寄せて見つめるシーンがある。
これは森田が急に手を握るのもどうなんだろう?と思うし、もちろん黒澤が急に腕を引き寄せるのも。そして、「酔っぱらっているのでOK」みたいに描かれているのも、たちが悪い(酔っぱらっていてもダメなものはダメ)。
ただ、手を握ることがアウトということではなく、関係性や同意の有無の問題。なので、仮にその前にふたりがお互いに気が合って、接触を望んでいると明らかにわかる描写があれば問題がなかったかもしれない。けれどそういう描写がないので、脚本上の問題があると思う。
そして仮に同意があるように見えたとしても、上司と部下という関係上逆らえなかったという可能性もあるので、そこの見極めは慎重にしなければいけないはずだ。
ケース②
第5話の最後、菊池風磨さん演じる黒澤(上司)と、久間田琳加さん演じる森田(部下)のベッドシーン。
黒澤の家で、黒澤と森田がご飯を食べたあと、片付けながらキスをして、ベッドシーンに切り替わる。ベッドで黒澤が服を脱ぎ、森田の服を脱がそうとしたとこで、森田が「ごめんなさい!」と言って急に帰ってしまう、というシーン。
この時点で、性的同意を取っていないという問題がある。
森田が帰った理由がなんであれ、先に確認しておけば森田が傷つくことも、黒澤が拒否されることも避けられたはずだ。
そして、付き合っているから性行為をしていいということにはならないし、もちろん家に来たからOKということにもならない。そして、性行為をしたことがあるカップルだとしても、毎回どちらかが望めばしていいなんてこともない。
関係性が深まって、その確認を過剰に行わないということは、両者の合意のうえであるかもしれないけれど、このドラマにおける黒澤と森田に関しては、今回が性行為をするかもしれない初めてのシチュエーション。
さらに、ケース①で触れた三重の権力(が生まれやすい)構造のうえにふたりの関係が成り立っているのだから余計に注意が必要なはずだ。
この5話だけでも十分問題といえるのに、わたしが幻滅してしまったのは6話。
この同意のなかった第5話を経て、黒澤が同意が取れていなかったことを反省する、みたいな展開だったらいいなと期待したが(5話までの倫理観のドラマに期待したのがよくなかったかもしれないが…)、
6話での黒澤の心情として描かれていたのは、「自分の体が魅力的じゃなかったからでは?」「加齢臭がしたのでは?」。さらには、「上司と恋愛したくなくなったのかも…」とか「自分のことが嫌いになったのかも…」ということのみ。
性的構造や権力構造についてはまったく触れていなかったのだ…
反省すべき点の「そこじゃない感」がありすぎて。もしかしたら現実でいえば避妊具の有無が不安だったのかもしれないし、生理だったかもしれないし…と、考えるべきところは他にもたくさんあるのに。
結局、森田が拒否して帰った理由は「下着の上下が揃っていなかったから」という理由だったのだが、それに対しても黒澤は「そんなこと気にしないのに…」という態度をとる。
森田にとっては重要なことだったのだし、理由が何であれ「性行為」という、プライベートゾーンをさらけ出し、肌に触れあうという、本当に信頼していないとできないことをする上で、「不安なことがあるのであればしない方がいい」に尽きるのに……
わたしはこのことで、完全にこのドラマへの信頼を失ってしまった……どんなに他にいいシーンがあっても、「モラル的にアウトな部分があるかも…」という不安感を持って観るのはしんどいものがある…
ケース③
そして、「接触」に関してでいうと、第6話でも山崎紘菜さん演じる市川(先輩)が、七五三掛龍也さん演じる坂元(後輩)の寝ぐせを直すというシーンがある。
それは別に「寝ぐせを指摘して本人が直せばよかったのでは?」に尽きるし、仮に触るにしても「触っていい?」の一言があればよかったのに…と思う。
「坂本が市川に触られてドキドキしてしまう」という描写のために無理やりそのシーンを入れているがゆえに起きているようにも思えて、脚本のこじつけ感も少し気になる……
そして、当たり前だけれど、女性から男性に、だったらセクハラにならないなんてことは決してないし、それも先輩・後輩という関係上より注意しなければいけないはずだ。
総じて、ドラマにおいては、視線や簡単な言葉でもいいから、性的同意がとられる瞬間が描かれているのが一番安心して見られる。
でも、明確な同意の場面が描かれていなくても、その登場人物のあいだで深い関係性が築けており、関係性のなかで肌と肌が触れることや性行為への正当性があれば、違和感なく見ることができる場合も多い。けれど、今回はそのどちらもが薄かったように思う。
性行為前提の恋愛観
ケース②で拒絶された黒澤が、同僚にに慰めてもらうシーンで、「どこまでいったの?」というセリフが出て来る。はじめは市川が「(旅行などで)どこまで行ったの?」という意味で黒澤に聞いたセリフだったが、
結果的に「(キスやセックスなどの意味で)どこまでいったの?」という質問に変わる。
これはわたしも、もっと若いころはそこまで違和感を持たなかったかもしれないが、今のわたしには違和感でしかなかった。
というのも、「どこまでいったの?」という質問は、手をつなぎ、キスをして、性行為をする。なんなら男性が射精をする、みたいなところまでの工程のなかでどこまで進展したのかを聞く質問だ。
もちろんそこまで考えている人はいないんだろうけれど、きっとこの質問では、付き合っていれば進展するほうがいいとか、交際していれば性行為をするはずだという考え(性愛)がある前提。
同性愛者への偏見
第5話で、杢代和人(もくだいかずと)さん演じる伊丹という若手社員が、上司である黒澤に思いを寄せていたことが明らかになる。
それを同僚男性に告げたあとに、お互いの恋愛がうまくいかないことを慰め合いながら、その同僚男性に抱きつき、周りにいた社員から白い目で見られるというシーンがあった。
異性愛者と同じように、「同性愛者が誰彼構わず好きになったり、接触したいと思っていたりするわけじゃない」ということは、現代において周知の事実だと思っていたので、かなり驚いた。
今までも、そうであるかのようにテレビドラマでも描かれることがあったが、それは違うだろ!時たまあるが、そんなことはない。
ただでさえ同性愛者が生きづらい社会なのだから、そこに偏見を持たせないように細心の注意を払わなければいけないし、
「同性愛者が誰彼構わず好きになったり、接触したいと思っていたりするわけじゃない」ということは、令和において周知の事実だと思っていたので、かなり驚いた。
そして、男性同士だからといってむやみに抱きついていいわけじゃないし、伊丹というキャラの恋愛対象者が男性なのだから(もしかしたらバイセクシャルの可能性もあるが)、そこはより注意しなければいけないはずだ。
なぜこれが放映されたのか
原作(漫画)をもとに脚本がつくられ、その過程にはプロデューサーがいて、演出がいて、演者(俳優)がいる。
一番不思議なのは、そこに関わる全ての人たちが、誰も疑問に思わなかったのか?ということ。もしくは誰かが疑問に思っても、無視されてしまったのか。
ここまで「脚本段階で…」というような表現をしてきたが、この作品は漫画が原作。なので、漫画の時点でこのような倫理的にどうなの?と思う表現があった可能性は大いにある(読めていないので何とも言えないけれど)。
ただ、同じ内容だったとしても、漫画としてある種のファンタジーのように描かれているものと、テレビドラマで生身の俳優(アイドル)が演じることはまた違った意味がある用にも思う。人が演じることで、これが現実で起きてもいいように錯覚してしまう可能性が高い。
さらに、恋愛や性愛的な文脈で消費されやすい立場にいるアイドルを、このドラマでは起用しているので、そこの危険性もあるように思う。(もちろん俳優だからいいわけではない。)
そして、誰も指摘せずに台本が完成してしまったことが一番問題だが、こういう場合に演者はそこに疑問を抱かないものなのかも気になる。台本通り演じているだけの人がいるとしたら、それも問題なのかなと。
しかし、本来台本を演じるのが仕事の演者、そして矢面に立って視聴者の言葉が届きやすい立場にいる演者がそこを一手に背負うべきではないのだけれど。でも、どんな風にこの台本を読んだのだろうということは気になるし、責任が全くないとは言い切れないのかなとも思う。
演者を守る意味でも、国民がこのモラルのない恋愛観を正当化してしまわないためにも、まずは倫理的に問題のある台本が減ってほしい。
そして、ここまで気になるとこが多いと、ラブシーンやヌードシーンの撮影をサポートする「インティマシー・コーディネーター」がいたのかどうかも怪しい。(これもドラマのスタッフ欄にはなかったが、定かではない。)アイドルや俳優のみなさんが安心して演技できる世界であってほしいと願う。
ドラマとしてのクオリティー
ここまではnoteのタイトル通り、性的同意に付随する部分に触れてきたが、単にドラマとしても気になるところは多い。
菊池風磨さん演じる黒澤のキャラが、クールなはずなのにユーモアがあったり大胆でもあったりしてキャラがぶれている(整合性がない)ように見えたり、恋愛感情の機微があまり見えなかったり。
恋愛ドラマとしての描き方について「軽いなぁ」と思ってしまう部分も多く、それについては「恋愛ドラマ3.0」というnoteで触れているので今回は省略するけれど…
このオシドラサタデーという枠が、「チープでもいいからただアイドルや若手俳優を起用するためだけの枠」のようになってしまっているのも、気になる。
たしかに(わたしも脚本を勉強する過程でちゃんと知ったけれど)テレビドラマは制作の過程上、演者が決まってスポンサーが決まって放映さえできればゴそれがゴールだ。映画のようにたくさんの人に見てもらって売り上げを上げる必要性は少ない。でも、だからといってクオリティーが低くてもOKとはなってほしくない。
そして、若手俳優や若手スタッフの活躍の場があってほしいとは思うけれど、クオリティーの低いドラマに起用されて評価が落ちる俳優さんもかわいそうだし、今回のように倫理的に問題がある場合はなおさらだ。
まとめ
時代の変化のなかで、日本での権利意識が強くなってきて、視聴者も含めて気にするようになり、倫理的に問題のある作品は確実に減っていると思う。
同じ、菊池風磨さん主演の、TBS「ウソ婚」(2023)というドラマでは、幼馴染という関係性を丁寧に描いており、ハラスメント的に気になる描写も少なく(あったとしても謝罪まで描かれたり、妄想のなかのシーンとして)、安心して見れる。
(俳優・菊池風磨さんが好きなのでそういう意味でも大声で伝えておきたい。そして、「ウソ婚」の脚本家である蛭田直美さんの作品も、倫理的な意味でもとても信頼できる。)
しかし、時にこのようにとても気になる作品も、残念ながらある。期待しているとガッカリしてしまうし、単純に予期せず倫理的に問題のあるシーンを目にしてしまって気持ちがいいわけがない。人によってはトラウマが蘇ってしまう可能性だってある。
わたし自身、創作をする身をして気を付けていきたいし、作り手が気をつけられることが一番だけれど、視聴者が適切に批判するなど、見る側が成長することでもこういう作品が減っていくこともあるはず…。
というわけで!今後も気になることは指摘しつつ、でも基本的には日々楽しく見れるテレビドラマをつくっていただいている制作者のみなさまには感謝しかありません。なので、今後も楽しませていただき、日本のテレビドラマの発展を祈るとともに、わたしもそこに貢献していけるようがんばります!
参考
平成(なんなら昭和?)から令和の、恋愛ドラマの変遷や、性的同意の描かれ方については、この「シェリーのお風呂場」の大島育宙さんがゲストの回で分かりやすく話してくださっているので、こちらもぜひ!
この連載は、テレビドラマオタクであり脚本家志望のそいが、様々な視点から日本のテレビドラマを分析し、テレビドラマの新たな見方や楽しみ方をお伝えするnoteシリーズです。(連載をさせていただける媒体を募集中!ご連絡はこちらまで naichi.0102@gmail.com)
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