自分の星の輝きを見失っていた少女の残酷な夢の続きを描いた映画『トラペジウム』を見た

きっかけは酷評から

アイドルゲームは好きだがリアルアイドルに興味はない。
友人のVtuber好きから星街すいせいが映画の主題歌をやる!とは聞いていたがそれだけで映画館に足を運ぶほどホロライブのファンでも無い。
そんな自分が映画館に足を運ぶ理由になったのは公開直後に酷評に近いPOSTがRTされてきたのが理由だった。
元アイドルが執筆した小説の主人公がそこまで露悪的ならばちゃんと自分の目で確かめないといけないと思った。

これは4人の少女がアイドルを目指すお話…ではなかった

とりあえず事前知識は何もない、映画館で予告も見ていない。
なので映画館に行く前に公式サイトを見た。

乃木坂46 1期生・高山一実は、2016年から雑誌『ダ・ヴィンチ』で長編小説の執筆に挑戦した。
小説のタイトルは『トラペジウム』。
現役アイドルとして生きる日々の中で高山が書き綴ったのは、「アイドルを目指す少女の青春物語」だった。
https://trapezium-movie.com/

「アイドルを目指す少女の青春物語」
メインキャラとして紹介される登場人物が4人居るのに「たち」の物語ではないのだ。
この映画は基本的に東ゆうという少女の主観的な視点で描かれる物語を客観的に見る事になる。

主人公である東ゆうは帰国子女だ。
カナダに居た頃にビデオで見た日本のアイドルに魅せられ、焦がれ、帰国した東ゆうはアイドルになる為に自分の計画をノートに書き、それを少しずつ実現していく。
「東」という名前に掛けて「南」「西」「北」にある地元の3つの高校から3人の少女と友達になり、4人組の仲良しグループを結成する。
自分がアイドル好きだという事は語るが彼女たちを自分がアイドルになる為のパーツとして利用している事は話さない。
可愛い女の子は全員アイドルになるべきだ、と信じて疑わないからだ。

4人組を結成するまでのファンタジー具合から一転してアイドルになるまでの道のりの計画はリアルでシビア。
アイドルになった後の事を考え、好感度の為にボランティアに参加する。
ネットで話題になりTVの取材が来そうな場所で働く。
TVの取材が来ても自分たちに注目が集まらないと分かればもうそこに足を運ぶ事もない。
ボランティアで知り合った車いすの少女が文化祭に来たせいで自身の計画が崩れそうになった時は明確に不機嫌な顔になる。
まごうことなきカスだ。
なのに憎めない。
計算高くて、他人の気持ちは考えなくて、なのに純粋で一所懸命でアイドルになりたいという気持ちだけは本物だと感じる。
それが東ゆうの欠点でもあり魅力でもある。

自分たちを記号として売り出そうとするプロデュース能力を持ち、他人を全て自分の目的達成の為の道具としか見ていない少女は西高のスカウトの時に知り合ったカメラマン志望の男子高校生に協力してもらう為、彼にだけは自身の計画を話す。
アイドルは恋愛をしてはいけないというルールを守る主人公なのでここで恋愛関係に転ばず彼がゆうのファン兼共犯者と描かれるのが良かった。

そしてTVの取材で知り合ったADの新企画の立ち上げから本格的に活動が始まる。
最初は地元の名物女子高生の体当たりレポートだったのが少しずつネットで話題になり、番組のEDテーマの製作の為に彼女たちのアイドルデビューが決まり、共犯者だったカメラマンにもう会えない事を告げる際に彼に聞かれた「なんでオーディションを受けずにこんな回りくどい事したの?」という言葉に返事を濁すゆう。
実際にはオーディションに全て落ちていたからだ。

ゆうは自分一人では輝けない事を知っていた。
だから仲間を集めた。
だからTV関係者の目にとまろうとした。
スカウトされる為に計画を立てた。
絶対にアイドルになりたかったから。

アイドルデビュー後、アイドルになりたかった訳では無い女の子たちを巻き込んだ事で徐々に開いていく4人の気持ち。
熱量の違いで生まれる軋轢。
夢を叶えて「こんなにうれしいことはない」と言った少女の夢が崩れて一気に転がり落ちていくドライブ感。

そして夢を失った少女に残された物はなんだったのか。
3人の少女はただ東ゆうに振り回された舞台装置でしか無かったのか。
夢に憑りつかれたせいで忘れていた、小学生の東ゆうが放っていた自身の星の輝きとは。

それは是非映画館で確かめて欲しいと思う。


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