Soya

ドイツのデュッセルドルフ近郊のクレーフェルトという町に住んでいます。2009年からドイツ在住、デュッセルドルフの美術アカデミーを卒業し、フルタイムのサラリーマンをしながら作家生活をしていた5年を経て、今はフリーランスの職業作家をしています。

Soya

ドイツのデュッセルドルフ近郊のクレーフェルトという町に住んでいます。2009年からドイツ在住、デュッセルドルフの美術アカデミーを卒業し、フルタイムのサラリーマンをしながら作家生活をしていた5年を経て、今はフリーランスの職業作家をしています。

最近の記事

小説「アップバオー美術探訪のピラテゥスドラゴン」 第8話

結論から言えば、わたしたちがドラゴンだと気が付いておばあさんは殴ったわけではなかった。おばあさんは、単にべろべろに酔っぱらっていたのだ。この界隈では、よっぱらって暴れる人として有名だったらしい。ただ、わたしは、わたしの落ち度がこの自体を招いたと間違って瞬発的に察してしまった。 鼻先はドラゴンのままだ。おばあさんはそれを見て、わざと驚いている演技でもしているかのように目を大きく見開き、口を大きくあげて叫んだ。 「ああああああああああああぁぁぁぁああああああ」 店の中は、まずおば

    • 小説「アップバオー美術探訪のピラテゥスドラゴン」 第7話

      分厚い色ガラスのついた重そうな扉を開けると、そこには美しいほほえみを顔にまとったおばあさんがいた。しわが増え、髪が白くなると人間は、成体でも歳をとったものだと認識されると学んだ。ただ、わたしはそのほほえみの美しさに、たらふくご飯を食べたあとの幸せな気持ちを重ね合わせ、わたしの中で再現されうる幸せの感情と、彼女の持つ幸せの感情を同じものだと考えることにした。これが、おそらくわたしの中で人間の感情についてかんがえた最初の出来事であると思う。 その自分の幸せな感情を自分でも驚くほ

      • 小説「アップバオー美術探訪のピラテゥスドラゴン」 第6話

        わたしはある程度優秀な生徒だったが、経験があきらかにたりなかった。しかしその不安を凌駕する未知への興味があった。  「明日街へ出るぞ」 とジャンは言った。 それは言われたタイミングとしては突然であったが、街にでるのには至極自然なタイミングだった。  夜に、ジャンから明日の準備をしておけと言われたが、準備といっても何をしていいかわからず、なんとなく身づくろいをしてみた。変身をしたら別にうろこの並びなど関係ないのだが、そのぐらいのことしか思いつかなかった。結局、何かものを準備する

        • 小説「アップバオー美術探訪のピラテゥスドラゴン」 第5話

          兄の名前はジャンというらしい。 言葉でしゃべり始め、唸り声で理解し合うのをやめてみたら、自分に名前がないことがわかった。はじめのうちは、問題がなかったので、気付かなかったが、人間界に出る練習をすることになり、そのことがわかった。個体を別々に認識する必要のある文化を持たなかったために、正直自分で自発的に名前をつけるのは、想像がつかず、難しかった。 「ねえ、ジャン。わたしの名前はわたしです、ではダメなの?」  とわたしは、ジャンに困った質問をしてしまった。わたしはわたしを、わた

        • 小説「アップバオー美術探訪のピラテゥスドラゴン」 第8話

        • 小説「アップバオー美術探訪のピラテゥスドラゴン」 第7話

        • 小説「アップバオー美術探訪のピラテゥスドラゴン」 第6話

        • 小説「アップバオー美術探訪のピラテゥスドラゴン」 第5話

          小説「アップバオー美術探訪のピラテゥスドラゴン」 第4話

           わたしは、毎日寝るように、そして毎日起きるように、当たり前のように叫ぶようになっていた。そう毎日叫んでいると、わたしなりの興を見つけ出していた。    低音を出すようにしてみたり、高音を出すようにしてみたり、はたまた歯の裏に音を当てるようにしてみたり、一緒に舌をふるわせてみたり、鼻から音を出そうとしてみたり。それらの音の試行錯誤がその当時のわたしにとっての自我ということだったのだ。  ある日、洞窟の外から急にドスンと鈍い音がした。  わたしは、何かの影響で日々の生活に通

          小説「アップバオー美術探訪のピラテゥスドラゴン」 第4話

          小説「アップバオー美術探訪のピラテゥスドラゴン」 第3話

           洞窟での生活も、正確に数えられていわたけではないが、二度の冬を経験した記憶がある。おそらく1年と少しが経った頃には、自分が生まれた場所の周辺から離れたことがないのに疑問を持ち始めた。結局のところ、半径50メートル以内の範囲で殆どのことが事足り、そこから離れる必要性は無いと言ってもよい状態ではあった。しかし、わたしの脳みそが重くなるにつれ、周囲にある謎が、わたしを外に引っ張り出そうとしている気がした。  洞窟内には自然物以外のもの、簡単に言えば、人の手によって造られた物があ

          小説「アップバオー美術探訪のピラテゥスドラゴン」 第3話

          小説「アップバオー美術探訪のピラテゥスドラゴン」 第2話

          生まれた時から、洞窟の中では生存競争のトップに君臨していた。生まれてきた卵の殻の中には栄養袋のようなものがあり、はじめのうちはそれと管でつながっていた。その管がぽろりと剥がれ落ちるころには、頭は冴えわたり、遊びがてら狩りをするようになっていた。少し不器用ながらも、ほとんどの場合、一瞬でカタがついた。  わたしの生まれた洞窟は、人間がくるのにはかなり苦労する場所にあり、そのおかげで人間を避ける動物たちがたどり着き、隠れ家になっていた。それを美味しく頂いているわたしには好都合だ

          小説「アップバオー美術探訪のピラテゥスドラゴン」 第2話

          Abbau - Pilatus Drache der Kunstforschung #1 ドイツ語翻訳版

          Als ich aus der Tür meines Zimmers trete, das ich zwischen uns miete, sehe ich einen Brief im Briefkasten. In letzter Zeit bin ich jedes Mal unruhig, wenn ich beim Ausgehen am Briefkasten vorbeikomme, aber vielleicht ist der Brief, auf den

          Abbau - Pilatus Drache der Kunstforschung #1 ドイツ語翻訳版

          小説「アップバオー美術探訪のピラテゥスドラゴン」 第1話

          間借りしている自室の扉から出ると、郵便受けに手紙が入っているのが見えた。最近は外出時、郵便受けの前を通るたびに、そわそわとしていたが、待ちわびた手紙がやっと来たのかもしれない。住所であり道の名前であるアムハッケンブルフという文字の上にはわたしの名前が記してあり、鉛筆でグルグルと描いたようなロゴがその封筒にはついていた。ほんとうは自室に帰ってゆっくりと見たいところだが、それを手早くポケットへねじりこみ、近くの路面電車の駅へと急いだ。  昨日ロサンゼルスから到着しているはずのわ

          小説「アップバオー美術探訪のピラテゥスドラゴン」 第1話

          デュッセルドルフのアートフェア/Art Düsseldorf訪問記

          知り合いからArt Düsseldorfのチケットを頂き、行ってみることにした。ケルンの方のアートフェア(Art Cologne 1967からあるらしい)はずいぶん前からあるが、デュッセルドルフの方は2017年に始まったばかりで、一番最初の時に行ったときは何かとてつもない居心地の悪さを感じて、そのあとは一度も訪れてはいなかった。 今回は縁があってということで、行ってみることにした。 結論からいうと、自分の考え方が少し変わったり、またArt Düsseldorfのありかたも

          デュッセルドルフのアートフェア/Art Düsseldorf訪問記

          フルタイムで働きながら作家活動をするということの長所。

          2017年1月から、2022年2月まで、僕は小さなファッションブランドでフルタイムで働きながら作家活動をしていた。他のアーティストにはなんでそんなに働くんだと言われたりしていたが、僕は僕なりに考えをもってその状態でいた。 僕はドイツの大学で卒業までの期間がはっきりと決められていない中で、同期のなかでは一番早く卒業した。なので、2015年に卒業して今に至るまでの時間のなかでいろいろな状態を経験した。今はまた違う状態になってはいる。 今、僕らのアーティストの友人たちが、大学を卒

          フルタイムで働きながら作家活動をするということの長所。

          4月からの大麻合法化について

          去年の8月中旬に閣議決定されていた大麻合法化について、僕が知ったのはつい最近のことであった。もしかしたら、どこかで見たり聞いたりしていたのかもしれないが、あまりにも興味が無かったし、8月ごろは丁度ドイツにはいない時期でもあったので、記憶には残っていなかった。その話を改めて聞いたのは、友人宅で飲んでいた時だった。 今後はこの使用について、イリーガルというフィルターがなくなるということを念頭に置いたうえで、それが個人の考えにゆだねられることになる。その上で個人の考えとして言うと

          4月からの大麻合法化について

          ドイツで2年の完全フリーランス(アーティスト)を経て、また一部バイトをしなくてはならない状況になりました。

          2022年の3月から、完全にフリーランスになった。ミュンスターの街からの奨学金を得て生活する恵まれた期間を一年過ごし、それからもスイスのアートインスティテュートで仕事をしたり、少し通訳の仕事をしたりと、フリーランスとしていままで生活をしてきた。しかしながら、12月初めからの1か月半の日本滞在にて、スイスでの稼ぎの殆どを使ってしまい、これからはバイトもしながらという生活になりそうだ。 日本からドイツに帰って来てから、様々なところからありがたいことに展覧会や作品の依頼などが立て

          ドイツで2年の完全フリーランス(アーティスト)を経て、また一部バイトをしなくてはならない状況になりました。

          焼き物という言葉について

          父が陶芸家であるので、私は陶芸について話すことがあります。また、自身のパフォーマンスや展示作品においても焼き物と関連していることがあります。 私自身は高校の途中で焼き物の修行をやめてしまったのですが、その後は彫刻へと進みました。それからはある程度意識的に焼き物から遠ざかり、ドイツに来てからまた改めて現代美術を学ぶということになってから、自分の中にある感覚に焼き物からの影響を認めざるをえなくなりました。 私は陶芸家ではないが、焼き物に関しての作品も作る作家であるという自己認

          焼き物という言葉について

          自己紹介と書いていきたい事

          私は、2009年にドイツに渡ってきてから、こちらで美術アカデミーを卒業し、5年間ドイツでサラリーマンをしながら作家活動をしたのち、フリーランスの作家として今は生活をしています。 実際の現代美術の作家像は、美術の業界にいない人からしたら、新鮮にうつることも多いと思うので、自分も含め作家が実際どういう生活をしているかなどを主軸にして、書いていけたらと思っています。 また自分の従事している分野がパフォーマンスアートや、インスタレーションなので、さまざまな場所に行くことも多く、その土

          自己紹介と書いていきたい事