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【小説】#2:宿野よる『ルビンの壺が割れた』

タイトル:ルビンの壺が割れた
著者:宿野よる
読了日:2022/11/24

あらすじ

「結城美帆子様」
突然のメッセージで驚かれたことと思います。失礼をお許しください。

本書より

という書き出しで、30年前に当時大学の演劇部の部長を務めていた水谷という男と、当時大学一年生で後にその男の恋人となる美帆子という女のやりとりが始まる。
男は大学では演劇部の部長として舞台に打ち込み、女性からの人気もあり順風満帆な日々を過ごしていたが、卒業後は輝かしくない生活をしていたことが窺える。
また、水谷は現在癌を患っておりもう長くないらしい。
お互いに過去の思い出を懐かしみながら語り合っていく。
しかし、物語が進み男と女の過去を知るにつれて少しずつ謎の「気持ち悪さ」を感じずにはいられない。
そして、最後の最後に待ち受ける大どんでん返し!
読む前後でこれまでのやり取りの解釈が一変する衝撃短編ミステリー


感想

読み終えた後の第一声は「ん〜なるほどねぇ〜」と、図らずも黄猿口調にならざるを得ない作品。
160ページ強しかない短い作品なので、作中での二人のやり取りをよく覚えています。
結末を迎える前はなんの気無しに読んでいた部分の解釈が、読み終えた後では一変しました。
とは言っても、この本を読み始めたあたりからなんとも形容し難い「気持ち悪さ」を感じます。この本は分類上ミステリ作品ではなのですが、各所にこの「気持ち悪さ」を紐解くヒントのようなものが散りばめられています。
また、この小説では男女がFacebook上のいわゆるDMのやり取りだけで進みます。(対話体小説というのかな?)
このような形式の小説は他にもあると思うのですが、SNSを利用しているあたり現代的と言えるのではないでしょうか。

ところで、この本のタイトルになっている「ルビンの壺」というのはおそらくみなさん一度は見たことがあるのでしょう。この画像のようなものですね。

ルビンの壺(例)

向き合った二人の顔にも見えるし、壺にも見えるというものです。要は、一方を図として認識するともう一方は地としてしか知覚されないという、人間の近くシステムを利用した興味深い図形です。
何か本文と関係があるのでしょうか???
気になる方は是非ともこの本を手に取って読んでみてください!


余談(ネタバレあり)

少し間を設けるので、ネタバレ嫌な方はここで閉じてください!








衝撃の結末を迎えてから一番最初に考えたことなんですが、これよく美帆子さん返信しましたよね。
いくら元婚約者とはいえ、幼女殺人犯として実刑判決を受けた人ですよ。
文面から改心したと判断したのでしょうか、また癌を患いもう長くはない(水谷が嘘をついていない場合)と知り同情したのか。
いずれにしても、普通無視するかブロックしますよね。
また、しれっと現住所を聞き出そうとしてますし、僕だったら怖くてまともに返信できないですね。😭
とはいえ、対話体小説としてSNSを利用しているのは面白いなと感じました。50代の男女とはいえ現代においてはなにかしらのSNSはやっているだろうし、Facebookを利用しているあたり年代的にも違和感はなさそうですね。
SNSがどーたらこうたら書いてて思いましたが、最近のミステリ作家さんは大変ですよね。
舞台が1900年代以前とかならまだ問題ないでしょうが、現代には「スマホ」とかいう最強の武器を持ち合わせてますからね。読者的には「おいおい、ケータイ使えよ」って突っ込みたくなっちゃうもんですしね。
とりあえず山奥連れてって圏外にしときます?笑
不慮の事故でケータイぶっ壊すでもいいですね。
とりあえず携帯を使わないようなにかしら細工をするか、携帯を使えないような条件を設けるか、はたまたあえて携帯は使ってOKにするか。
絶対最後のパターンはトリックが大変になるか、逆に現代において普及しすぎているために生じたステレオタイプやバイアスをうまいこと利用するかとかになりそうですね。
さて、余談でもお話ししようと思っていた「ルビンの壺」についてです。今回はそのルビンの壺が割れてますね。見方によっては大きな壺に見えるし、向き合った二人の顔に見える。その壺が割れたんです。壊れてしまった以上もう壺は見えませんね。残るは二人の顔のみです。水谷と美帆子でしょうか。
恐らく美帆子の顔は怒りに満ち溢れているでしょう。しかし、水谷もまた怒りに満ちているはずです。
現に水谷の許嫁だった優子は間違いなく同じ手口で連絡を取り合った水谷によって殺されています。つまり、水谷がこんなことをしている理由は復讐ですね。
そういった意味では両者とも同じような顔をしているのかもしれませんね。(流石に美帆子は恐怖の方が強いかな...?笑)

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