【小説】#12:米澤穂信『ボトルネック』
著者:ボトルネック
タイトル:米澤穂信
読了日:2023/3/31
あらすじ
亡くなった恋人を追悼するため、東尋坊を訪れていた主人公、嵯峨野リョウは何かに誘われるように断崖から墜落した...はずだった。
ところが気がつくと見慣れた金沢の街にいる。
不可解な思い出自宅へ戻ったリョウを迎えたのは、見知らぬ「姉」嵯峨野サキ。
もしやここでは、僕は「生まれなかった」人間なのか。世界の全てと折り合えず、自分に対して臆病。
そんな「若さ」の影を描き切る、青春ミステリの金字塔。
感想
以前から書店で見かけていたこの作品、「ボトルネック」という言葉を知っていたため、なおさら読んでみたいなと惹かれました。
まず驚いた点としては、この作品はミステリであるということです。タイトルを見ただけでは思いもよらなかったです。
ボトルネックという言葉をご存知でない方のために意味を載せておきますね。
です。
ボトルネックという英語をそのまま日本語に訳すなら「瓶の首」ですよね。瓶から水を注ぐとき、中の水が一気に飛び出さないのは瓶の首が狭まっていて、そこを通り抜けられる水の量が少なくなるからです。
この例で言えば瓶の首は水という全体があり、その流れ、つまり進行・発展の妨げになっているということですね。
この言葉はビジネスで多用されるイメージです。
全体の売り上げに対してどこが一番のボトルネックになっているのか?そのボトルネックを解決したらどれくらいの改善が見込めるのか?
といった具合でしょうか?
話が逸れましたが、この作品のあらすじにある通り、主人公が別の世界線に移ってしまいます。
本作品のように、少しSF気味のミステリ作品は読んだ経験があまりなかったのでとても新鮮な気持ちでした。
その世界では”自分(嵯峨野リョウ)”ではなく”姉(嵯峨野サキ)”が生まれており、家族をはじめ友人や地元の人たちにも元の世界にはなかった変化が見受けられました。
そして何より、その見受けられた変化が「良い変化」ばかりだったのです。
元の世界に戻る手立てを知らないリョウは、そんな別世界を目にしてどのように感じたか。
そして何が何のボトルネックだったのか。
最後には見事にタイトルの伏線回収があります。
感想(ネタバレあり)
読了後にはなんとも言い切れない辛さややるせなさが伝わってきました。
リョウ自身が別の世界線へ足を踏み入れ、そこで姉のサキがいたことによって良い方向へと変化した事例を目の当たりにしたのです。
例を挙げるなら
・リョウの世界では両親は最悪の仲だが、サキの世界では非常に仲が良い
・リョウの世界では好きだった諏訪ノゾミが自殺するが、サキの世界では元気に生きている
・リョウの世界では行きつけのお店が閉店しているが、サキの世界ではいまだに営業している
これら全てにおいて、偶然起こった出来事ではなく、リョウではなくサキが生まれていたから起こったことだったのです。
自分で自分が存在することの意味に対して疑義を抱かなければいけなかったのです。
また、リョウがこれから生きていく中で周囲に起こる不幸な出来事が'サキなら避け得たこと'だと感じざるを得ないのです。
それはとても辛いことだし、何より「反抗心」や「対抗心」などが芽生えるはずもなく、「諦め」や「絶望」しか感じられないでしょう。
そうしてたどり着いた結論が
”自分自身がボトルネックだ”
ということでした。
作中においてリョウも言っている通り、ボトルネックは排除しなければならない...
そうして生きることに対して微塵も希望を持てなくなってしまったところにサキからの電話があり、サキやノゾミの本当の思いを知ることができ、ほんのわずかながら生きることに希望を抱くことができたリョウ。
しかし、そんななか届いたメールには
これを見てリョウが少し笑う場面で物語は終わっている。
さて、リョウはこの後の人生をどのようにして生きていくのか、とても興味深いです。
おそらく、ノゾミの後を追って東尋坊から飛び降りたのではないでしょうか。
別の世界線で生きる、再び会えるかどうかもわからないサキの言葉に励まされて希望を持てたとしても、ほぼ毎日顔を合わせるであろう両親を見ると、自分の身の回りで引き起こる不幸な出来事も、全て"自分"が原因だと考えざるを得ないのです。
なんともやるせない物語でしたが、要所要所においてギャップが際立つ作品だったなと思いました。
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