プノンペンのローコスト住宅のいま
9月初旬、カンボジアの首都プノンペンへ。
これまでずっと、ミャンマー出張しかしたことがなかった自分にとっては、カンボジアの都市で目に入るあらゆるものが新鮮で、リフレッシュ出張のような貴重な経験になりました。
プノンペンの町の紹介もしたいのですが、これは別の機会にとっておいて、今回は、私自身とても勉強になったプノンペンのローコスト住宅(英語では一般的にaffordable housing)について少し紹介したいと思います。
1. カンボジアの経済成長と最低賃金
カンボジアは東南アジアに位置している、ASEAN10か国のうちのひとつです。GDPは約270億USドル、ASEANでは8番目の規模。
その他の国のGDPと比較すると、最も高いのはインドネシア1兆USドル、次にタイ5100億USドル、3番目マレーシア3,700億USドルというように、人口や面積が大きい国が上位を占めており、カンボジアはGDP上位の国と大きな差があることが分かります。ちなみに、7番目はミャンマーの660億USドルで、カンボジアとは390億USドルの差があります。(IFM 2019)
一方、興味深いのは発展途上段階であるものの、最低賃金が他国に比べて高い設定となっていること。特に2013年以降からは引き上げ率が毎年5%を上回っており、2019年には月額182USドル(約19,400円)に引き上げられたことで大きなニュースになったようです。
出典:独立行政法人 労働政策研究・研修機構
https://www.jil.go.jp/foreign/jihou/2019/01/cambodia_01.html
ちなみにタイでは月額約200USドル、ミャンマーでは月額約100USドル程度のため、比べるとカンボジアはGDPに対して最低賃金が比較的高いことが分かります。
最低賃金を確保することは内需振興のために必要不可欠。一方、低賃金労働者が国の産業を支える発展途上国にとっては、国際競争力の低下も懸念されるようです。(参考までに)
経済動向を見ると、カンボジアでは市民の生活水準が向上している印象を受けるのですが、賃金が上がればより良質の住宅を得ることができるのでしょうか。次の章からはプノンペンの低所得者向けの住宅政策がどのように展開されてるか見てみます。
2. 低所得者向け住宅政策
カンボジア政府は、2018年に低コスト住宅プロジェクトに対する税制優遇措置を発表しました。
経済財政省が定めた低所得者向け(中所得者も含む)の住宅は価格帯が1万5,000~3万USドル程度。該当する住宅建設を行うデベロッパーに対する税制優遇や建設許可証、事業許可証等の手続きの円滑化を行うとのこと。
出典:カンボジア政府 低コスト住宅プロジェクトに税制優遇[経済]http://business-partners.asia/cambodia/keizai-20180622-tax/
供給側のインセンティブを与える仕組みが整い始めている模様。では次に具体的な事例を紹介。
3. ローコスト住宅
例えばWorldbridge Home社は、プノンペン近郊のカンダル県(Kandal province)で3万USドルで購入できる住宅を郊外で多数建設しているようです。
プロジェクトの紹介ニュース。
出典:BBC World News
写真:Worldbridge Home社ホームページ
https://www.worldbridgehomes.com.kh/happy-home-a-worldbridge-homes/
近代的な設えで寝食分離も整っています。
(私がこれまで見てきた東南アジアのローコスト住宅には、壁がなく自分で間仕切りを加えるタイプもあり、改修の仕方によっては精神衛生面的にあまり良くない住宅もありました。それに比べると、やや値段は張るのでしょうが環境がよさそうです。)
実際、Worldbridge Home社のプロジェクトについてはローコスト住宅といっても比較的所得が高い人が対象となっているという指摘もあるようですが(見るからにグレードが高そう…)、一般的な民間企業の職員であれば購入できる金額のようなので、住宅購入の機会は増えそうです。
その他、現地視察ではローコスト住宅の建設、販売を行う日系企業も複数あることが分かり、低所得者向け住宅のマーケットを垣間見ることができました。
写真:Arakawa Residenceが展開するローコスト住宅。右上のUnit studioは3万USドル(著者撮影)
今回紹介したローコスト住宅はいずれも建設中なので、実際にどれくらいの人が購入したか、需要と供給がうまく合致しているかは分かりませんでした。政府は低所得者向け住宅の建設を促しているので、今後も注目してみるとおもしろそうです。
おわり
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