横浜市営92系統について思うこと
92系統というゲームが存在する。ルールはシンプルだ。上菅田町に住み横浜まで急行な甘美な響きのある種別で座って横浜駅西口に行くだけだ。どんなに赤字を垂れ流していたとしても渋滞に巻き込まれていたとしてもだ。勝者は市民の顰蹙を買うだけである。
横浜から乗る時、時間には余裕を持つとよい、座れそうにないなら次のバスに乗るのもいいだろう。 もうそんなことはできない(絶望)
今回のお気持ち表明シリーズは横浜市営バスの大減便により大きな話題になっている92系統についてです。
この報道によって多くの人が「24年問題によってバスの便が減った」「横浜でもバスが減るんだな」「バスの本数が減ったら住民が大変だな」等まあ色々なご意見が飛び込んで来ていますが、92系統は上菅田町住民の柱となる存在であることと24年問題以前に大きな問題を孕んでいたことを留意しなければなりません。バスの運行に対し余裕がなくなっている今の社会を受け入れなければならない思いと、それでも守らなければならない住民の足という西沢のお気持ちをお届けいたします。
上菅田町を作った92系統
時代は高度経済成長期至る所で農村は大規模開発をされ、住宅地が造成されゆく時の流れ、そんな時代に新治村の一つとして港北区に所属し、農村として時を過ごしていた上菅田村にも大規模住宅ができることとなりました。
笹山団地は県営住宅や公団住宅等から構成され1960年代に大規模な開発がおこなれてきました。しかし、鉄道空白地帯でもあり、相鉄線の西谷からは徒歩20分(坂道あり)、鴨居からは徒歩40分(山道)というような上菅田には
横浜西口ー三ッ沢(横浜新道)ー梅の木ー中山 の1系統(1時間に1本程度)
横浜西口ー和田町ー梅の木ー旭硝子ー三ッ沢グランドー横浜の旭硝子循環(83系統)くらいしか存在しておらず、バスの本数もあまりありませんでした。
そんな新たに住みゆく人々の足となるべく、1967年に
横浜西口ー和田町ー梅の木ー笹山団地 というルートで92系統の運行がスタートいたしました。
当時より、横浜から梅の木までは急行として主要なバス停のみ停車し、運行頻度は1時間に3~4本ある大幹線路線。そして1969年には区の再編により上菅田町は保土ケ谷区に編入されました。
現在緑区の中心となっている旧新治村に所属していた村の内、千丸台団地を抱え62系統が走り始めた新井町も保土ケ谷区に編入されたため、理由は定かではありませんが、バスルートで峰小学校(保土ケ谷区区役所最寄り)を通る92,62系統が走る上新地区(上菅田町と新井町をまとめて語る際の名称)は同タイミングで保土ケ谷区から分割された旭区に近いにも関わらず保土ケ谷区に編入されたのではないかとも考えることもできます。
今の区の構成を作ってきたのはバスの影響かもしれないと考えるだけでも交通とまちづくりは大きな関りがあるものと考えられますね。
そんな、92系統は上菅田町民の通勤通学、区役所におかいものと足として長きにわたり愛されてきました。
92系統が孕む問題
バスルート渋滞の常態化
バスや思い浮かべる時、あなたは何を思うのか、私は遅れにより時間が読めないが大きなウェイトを占めていると思います。92系統も同様に平日、休日共にどこかしらの渋滞により遅れが生じる路線です。
一番渋滞の名所となっているのは、国道16号の川島町から梅の木に向かう片側二車線から一車線になる箇所です。(今度西沢お気持ちシリーズでこのあたりの道の解説も入れていこうかと思います)
国道16号はそもそも交通量が多く、川島町周辺では環状2号線新横浜方面から合流する車渋滞します。
結果夕方時間では上星川から梅の木までひどいときには40分程度かかる場合もあり、バス利用者の中でも立っている方の負担や乗務員の拘束時間の増加につながっています。
横浜方面に至っては始発の笹山団地から出たバスに最初の難関があります。
上のグーグルマップを見ていただきますと、赤線はバスルートで南へ進み横浜駅へ向かっています。赤丸で囲った交差点が渋滞スポットです。鴨居から16号へ抜ける際に道が細く片道1車線となっている県道109号(青砥上星川線)くらいしかなく、3又のもう一つからの交通量も多いため信号時間が十分に確保されないためか渋滞が発生しています。
そして、先ほど説明した交差点を潜り抜けてきて集まった車が最後に到達する問題の交差点があります。
梅の木交差点です。
梅の木交差点は鴨居方面からやってきた車や、山下長津田線から回ってきた車を16号に送り出していますが、この信号で車が動けるのは1分で10秒程度しかありません。一回の信号で6~8台程度が限界となっています。また、鶴ヶ峰方面にも向かう車も多いのですが、交差点手前にカーブがあるため見通しが悪く、右折専用車線もカーブのところくらいまでなので、短くうまく車が動けない道となっています。ここを抜けるのに10分くらいかかることもあるので、渋滞の名所となっています。
他にも、横浜駅から洪福寺まで渋滞は当然のようにあるので、結果として、夕方の横浜駅から笹山団地までの所要時間は通常40分程度で行けるのですが、90分かかる場合もあり、乗務員に大きな負担がかかっています。また、92系統の利用者もその状態になることがわかっているため、横浜駅で何とか座ろうと早い段階から並び始め、横浜西口でのバス待ち行列は日常となっていました。
乗車効率の悪さと増えない収入
92系統は典型的な住民の輸送型バスとなっており、笹山、上菅田地区から乗った人は横浜まで乗り続け、途中で人の乗降はそこまでありません。また、横浜方面へ混んでいる朝ラッシュ時は笹山方面はガラガラ、夕方は逆と乗車効率はそこまでよくはありません。
また、40分程度のバス路線で距離は長いのですが、横浜市は市内一率料金となっており、どんだけ乗っても220円(現金・大人)
高齢者は敬老パスがあり、年金受給者であっても年間1万円程度でもバスが乗り放題のパスがあります。利用した際にいくらそのバスに収入として入ってくるかはわかりませんが、高齢化した団地に住まう笹山団地を走るバスの収入が、乗客が多く混んでいる割に良くないのは明白です。
市内最大の赤字路線、そして、悪夢の始まり
赤字路線常連と大義名分のない状況
横浜市営交通はバス路線別の収支を公表しており、こちらのURLで生きていれば閲覧できるのでご覧ください
https://www.city.yokohama.lg.jp/kotsu/kigyo/zaimu/rosensyuushi.html
(収支は千円単位▲はマイナスです。)
平成28年度 ▲ 72,971 (営業係数135.9)
平成29年度 ▲ 97,491 (営業係数149.3)
平成30年度 ▲ 98,063 (営業係数149.3)
令和元年 ▲ 102,197 (営業係数151.9)
となっており、毎年、9000万程度の赤字を垂れ流しており、赤字の常連に名前を連ねていました。一方で、利用客は毎日3000人以上が利用しており、バス待ちの行列も発生はしているため、赤字だけでは大義名分がない状態となっており1時間に3本体制はずっと続くと思われていました。
コロナ禍による変化
2020年3月ごろから日本を巻き込んだ大事件が起きました。
コロナ騒動です。コロナの発生により緊急事態宣言が発表され、外出の制限や、活動の制限を余儀なくされたのは周知のことかと思います。
外出制限の煽りにより、交通機関の利用は大きく減り、収益の悪化が起きたのは記憶に新しいと思います。
令和2年度 ▲ 135,476 (営業係数192.2)
乗客数も1日2600人となり、市営交通全体の収益の悪化も相まって、2021年の4月に運行本数の整理をすることとなり、92系統の減便と笹山団地の最寄りとなる西谷を経由し、千丸台団地へ向かう248系統と笹山団地の北部の最寄り駅である鴨居を循環する172系統、256系統を創設しました。
この際、92系統は1時間に3本あたりの運行から2本になり、代わりに1時間に1本の248系統と1日数本の鴨居行きが設定されることにより、笹山住民の足は確保されたと考えられたのです…
24年の大減便
そして、今回話題になっている保土ケ谷営業所の人員不足問題です。多くのメディアで笹山団地や横浜西口で困惑する客の姿が取り上げられ、92系統の減便による衝撃をこれでもかと報じられていますが、本当に92系統の減便は人手不足だけで減便をしたのでしょうか。
92系統は創設時期は緑営業所の所属でしたが、2007年前後の市営バス再編による民間事業者への譲渡による1系統(横浜~中山便)の神奈中譲渡のころに合わせて保土ケ谷営業所に移管され、2021年の4月に再び、緑営業所と保土ケ谷営業所の共同運航路線となっています。なので、やろうと思えば、緑営業所担当便の比率を多くすれば92系統の大減便は避けることもできたかもしれないですし、保土ケ谷営業所自体も今回の事案で他営業所から人員の補充はしているので、今回の事案だけにより、1時間2本のバスを1本に減便するのは住民の困惑を招いているといっても考えられます。
そもそも、今回の件は住民への説明もないので、ことさらなる混乱を招いていることは事実です。
バス運営の希望、埋まらない溝
個人的には21年の笹山地区のバス再編から3年間バスの利用状況をモニターしていたのはないかと考えられます。
本来住民利用型バスは最寄りの駅までのピストン輸送が基本であり、西谷駅への輸送が一番良いと考えられますが、92系統の性格として西谷の手前の梅の木交差点を右折するので西谷は通らない路線です。(実際笹山団地のアクセスは上星川から92系統に乗ってくれだのよくわからない案内があったレベルです)
上星川から梅の木までが一番渋滞するのにかかわらずにね。
ただ、西谷駅にはバスターミナルがありません、バスを長く停められるスペースもありません。その状況は今も変わりません。
片道1車線の狭くて、交通量の多い国道16号の片隅に少しの車寄せを整備しただけの雨ざらしのバス停に至るところへ向かう人たちが同じ列に並んでバスを待ちます。こんなの初見殺しです。
ヤバすぎです。やばすぎてバスになります(川島町停車 遅延30分)
それでも、西谷経由のバスを設定を始めたのは西谷駅が直通運転を開始し、JR方面・東急方面へのアクセスが容易になったこと、快速や特急の停車を開始したことにより利便性が上がり、乗り換え需要があると判断されたことでしょう。慢性的な渋滞により負担の大きい92系統を極力減らし、近距離で時間も読めて、多様な行先がある西谷ピストンを交通局は選択したのだと思います。
しかし、住民はそれは納得しません。
上菅田の住民は高齢化が進んでおり、いくら渋滞しようと92系統に乗ります。西谷乗り換えはただただお金がかかります。負担がかかります。
若い人は自宅から西谷まで歩きます。徒歩20分くらいですし。
交通局の思惑とは裏腹に248系統、172系統、256系統それぞれの利用客が伸び悩み、人手不足問題も絡みあって減便は待ったなしと判断され今回の騒動が発生したのかと思われます。
住民はバスの運転手が確保されれば92系統の本数は復活すると思っています。しかし、交通局はおそらく本数を戻そうとはしないでしょう。両者の溝は深まるばかりです。
92系統問題から考える、バス行政の未来
住民の生活の柱である92系統の減便は外の目から見れば赤字なんだから当然だよねって話と、今まで当然のように走ることができたのだからなんで減便なの? という住民の想いに意見のずれがあるとこが大きな問題としてのしかかってきています。
今の、社会状況からみるに減便・いよいよ迫りくる廃止という二文字の浮かんできている状況下で、住民としては92系統の運賃の値上げや西谷乗り継ぎの受け入れも視野に入れる時期に入りつつあります。また、笹山~西谷間乗車と西谷から相鉄線を利用した際の乗り換え割りや西谷駅のバスロータリーの整備など、痛みを受ける前に取引をしていくなど、住民が少しでも92系統の運行環境の悪化に対して対応できるような整備をしていく努力は行政側もしていく必要があると思います。今回の大減便を契機に深まった溝を埋めていくような施策をお願いしていきたい。
西沢の92系統のお気持ちは表明はこんなところで終わりにしたいと思います。とにかく西谷駅にバスターミナルを整備し、92系統に頼らなくても便利なバス路線網が一番理想かとは思いますが、実現は遠そうですね。
ここまでご覧いただきありがとうございました。またどこかで~~