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≪intermission⑧≫ Mr.Mのこと

                2002.11.15記録 2023.12.08加筆

これまで生きてきた人生の長さよりも、残っているだろう時間の長さの方が短くなると、自分がやってきたこと全てははたしてどうだったのだろうか、間違っていなかったかなと悔やんだり反省したりと忙しい。
あの時こうしていればと選択ミス・決断ミスを認めたり、でもああやっておいてよかったと満足したりもするのです。
 
「勉強」においては、もちろん悔やむことばかりです。
あのころもっと勉強を真面目にしていれば、全く違った人生を歩んでいるかもしれないなと考えることもしばしばです。
 
今回ご紹介する恩師は、ほとんど進歩せずに終わってしまった短大時代の英会話の担当だったアメリカ人教師です。
彼からは、教授という教えることが本分の立場ではありながらも、それ以上に体感で教えてもらっていたように思います。
 
※ここにあげる曲、ピーター・フランプトンの『Show Me the Way』ですが、歌詞の内容は恋愛っぽいけど、そうではなくて人生において誰かまだ若かった私が取るべきだった行動を強く教えてほしい、いや、ほしかった…と思ってしまいます。
(若い時はその時々が精いっぱいで、外部の声やアドバイスを全部聞き入れる器が備わっていなかったのでしょうけどね…)


学生時代、英会話クラスで担当されたアメリカ出身の先生だったM先生は、私が初めて目の前で接した外国人でした。
最初の授業で自己紹介をする時、必ず好きなものを言わなければなりませんでしたが、好きだった「スパゲティ」のアクセントが違っていたらしく丁寧に直されてしまいました。他の一緒に学ぶ初対面のクラスメイトの前ですごく恥ずかしかったのですが、ダメなものはダメで、最初に間違いを指摘されたので今でも記憶にしっかり残り正しい発音を忘れていません。
 
他の講義形式の先生方と違い、十数人のアットホームな授業をされるやりかたを初めて経験した私は、「ああ、これがアメリカ式なんだなあ」と思ったものです。
 
先生は当時(尋ねたこともなかったのでよくわからないのですが)30歳代位だったと思うのですけど、遠いアメリカからやってきて自分が住む日本の一般的な暮らしぶりや庶民文化を積極的に学ぼうと各地へと出向き、田舎の方へもよく自分の足で見て回ったりされていたようです。
 
ある時の授業内で日本人である私たちが知らないような、田舎で出会った風習を一生懸命説明されたのですが(もちろん英語で)、私たちは情けなくもきょとんとしていました。
当時ももちろん感じましたが、地元の文化や風習を全く知らないでいたのが今でも恥ずかしく思います。
 
その逆に、夏休みにご自身が旅行されたグランドキャニオンやその他のアメリカの有名観光地を、スライド写真を使って紹介してくださいました。
おそらく先生自身としても初めての現地観光だったのでしょう、ちょっぴり自慢げに見えました。
有名な場所の写真が映し出されると、「おお~~!」という感嘆の声を上げる学生の私たちを見てご満悦の様子でした。
 
また別の日は授業がはじまるやいなや、
「今日は近くの映画館へいきます」との言葉にクラス全員が驚きました。
 
クラスメイトみんなが「なに、なに?」と、戸惑いながらもいっしょにぞろぞろと映画館まで歩いていったのです。
 
その映画館は、どちらかというと名画や利益をあまり意識しないような映画ばかりを上映するところで(現在はもうすでに無くなっています)、その日にやっていたのも今となっては題名も覚えてないような映画でした。
 
おそらくアメリカ映画で、私たちと同じような大学生が登場するものでした。
内容もただ坦々と流れていき、さほどおもしろみもないようなものでどういうストーリーだったかも忘れてしまいました。(先生、本当にごめんなさい)何かしら急展開があるわけでもありません。
 
しかしそのように希薄な内容なのにしっかりと頭にこびりついているのは、映画の中の学生たちがめちゃくちゃ勉強をしていたことです。
放課後ももちろん図書館に通い、分厚い本を何冊もわきに置きノートにカリカリとペンを走らせるのです。
試験前だけでなく、日常的にとにかく勉強している姿が目に焼きついています。
 
たぶんですけど私の勝手な憶測ではありますが、先生は当時から日本の学生がせっかく大変な思いをして入学したのに、それまでの勉強した日々を忘れたかのように遊び呆けているのを憂いておられたのに違いないのだとおもいます。
 
だから海外の学生が必死に勉強する姿を見せて、どういう風に感じそしてぜひとも真剣に考えて欲しかったのだと思います。
 
見終わった後、特に何もコメントはされなかったと思います。これもあまり記憶にはないのですが、一応私たちの感想はひとりずつ聞かれたように思います。
たぶん勉強する学生たちの印象的な姿について、私は意見を述べたと思いますが、如何せん私の学生時代なんて遠くの彼方にあるような大昔なので細かい記憶が残っていないのです。
 
今はどこでどのように暮らしていらっしゃるかは全くわかりませんが、興味を持ってまたいろんな国や地域を飛び回っていらっしゃるのでしょうか。
基本的にとても優しく楽しくて学生にあまい先生でした。
 
このように大切なことを必死に教えてくれようとしていた人たちを今更ながら思い出すのは、若い頃の自分に足りないものがあまりにも多すぎたからでしょうね。
でも学びはいつになってもやる気さえあればできますよね。
生涯学習が私なりにこれからも生活の一部になっていきますように…。

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