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1.冬の日の記憶

雪が降っていた寒い冬の日。
小学2年生の時だった。

思えば、この頃から母の様子がおかしかった。

私には3つ上の姉がいる。
この日の夜、私の部屋で姉弟喧嘩をしていた時の事。

父はまだ帰ってきてなかったようで、母と姉と私の3人だった。

私達の喧嘩を黙って聞いていた母が、急に人格が変わったように口を開いた。

「お前達...いつも喧嘩ばかりして...お母さんはもう嫌だ!!」

そう言って急に走り出し、外に出て行ってしまった。

私と姉は驚いて
「お母さぁ〜ん!!!」
そう叫びながら必死に追いかけた。

外は雪が降っていた。

母は車でどこかへ行こうとしたらしく、車庫へと向かっているようだった。

車庫へと続く道路の角を曲がると、母は転んでしまったようでうずくまっていた。

「お母さん!大丈夫?」

転んで大丈夫かなという気持ちと、どこかへ行ってしまわないようにという気持ちで、すぐに駆け寄って声を掛けた。

「痛い...」

母は小声で辛そうな声を出した。

私と姉は母に寄り添おうとしたが、振り払われた。

家の中に入り、私の部屋に入ると、母は床に座り込み、うつむいていた。

そんな母に私は

「お母さん、ゴメン、ゴメン...」

と泣きながら謝っていた。

姉も一緒になって謝っていた。
どうしたらいいのかわからず、時々顔を見合わせながら謝り続けた。

何十分経っただろう。

母は、もう大丈夫と言っているかのように、小さく頷き、そっと立ち上がった。

この日の記憶はここまでで、この後どうなったのかは覚えていない。

私はこの時、自分が姉と喧嘩をしているせいで母を困らせてしまったという罪悪感と、母がどこかへ行ってしまうところだったという不安でいっぱいだったと思う。

でも、母は私達の喧嘩が原因であのような行動をとったのではないと思う。

恐らく、辛い状況にいる自分を、子供である私と姉にわかってほしくて気を引く為に取った行動だったのだろう。

だが、ただ気を引く為だけの行動とは思えない勢いだったような気もする。

本当に出て行くつもりだったのかもしれない。

私達を置いて行くつもりだったのかもしれない。

あの時、母を追いかけなかったら。
母が転ばなかったら。
追いつけなかったら。

どんな展開になっていただろう。

そんなことを考えながら、今この文章を打っている。

あの時から20数年。
毎年、雪が降る寒い夜に思い出す、幼い頃の冬の日の記憶の話。

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