草蛇乃宮

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最近の記事

【小説】『消えたモノ』

「天谷先輩、これは何ですか?」 目の前の机にどさっとおかれた紙束を見ておれは訊いた。相手は二年の天谷みやこ先輩。うちの部活の部長だ。 「見ればわかるだろう。三条くん。文化祭の収支表企画説明図その他資料だよ。先日の文化祭で何をしたか記録するためのものだ」 「うちの部はもう全部提出したはずじゃ……」 「ああ、だがそれだけじゃ終わらないぞ。全クラス・部活の収支を計算して資料にまとめて会議に提出しないといけない」 何を当たり前のことを、と言わんばかりの表情だ。 「それは生徒会と文化

    • 【小説】陰者のジレンマ

       世界は不条理と妥協でできている。そんなことは、僕が生まれる前からの暗黙の了解。 「雲居くん、放課後よろしくね」  だから僕が風邪で休んでいる間に、文化祭のクラスの広報に選ばれていたとしても、そこに怒りや不満はない。ただ一吹きの溜息と諦念があるのみ。  顔を上げて確認すると、声をかけてきたのは作り笑いの張り付いたような女子。スクールカースト上位に属している……えっと、名前なんだったけな。ま、良いか。 その女子に把握の意味を込めて頷くと、僕は会話を打ち切るように再び昼寝のポーズ

      • 【小説】この雨が止むまでに

         迂闊だった……。出かける前に天気予報なんて確認してなかったし、僕が外に出たほんの20分の間に空が急変するとも思ってもみなかった。 「暑い……」 「そだね〜」  日本の夏の悪しき点はやはり湿度にあると思う。空気を汗が蒸発できない程の飽和水蒸気量にすべく、せっせと涙を流す夏空先輩は、同じく軽々しく涙を流すメンヘラ上司と被って実に不愉快。自分の都合で他者に迷惑かけんな。 「なんで?」  目の前の人間に、僕は主語と述語を欠いた疑問詞だけの問いを放る。省略された部分を補うと、

        • 【小説】聖夜、誕生と滅亡――23:59

          『初めまして。この世界を救いたいですか?』 ・・・・・・・・・  満天の星が厭に煌めいている。それはクリスマスイヴの夜のことだった。街中がイルミネーションに彩られる中、俺は一人Lのつくコンビニで買ったスパイシーチキンを食べていた。 「あのコンビニはもう行けないな……」  別に俺がもうすぐ引っ越すわけでもなければ、あのLO-損が経営難で潰れるわけでもない、単純に、「ファミチキください」って言ったせいで店員にすごい目で睨まれたからだ。  令和元年、19歳の冬。今年もクリスマスは一

          【小説】水性花火 ~雨が降ったら~

          序章:積雨『別れる男に、花の名を1つ教えておきなさい。花は毎年必ず咲きます』  村上春樹だったか川端康成だったかの小説に出てきた言葉。この一節をあのヒトに、本でこれこれこんなことを読んだよ、みたいなノリでそれとなく伝えたことがあった。別段僕は当時あのヒトと別れるつもりなんてなかったし、あのヒトだって別れる前提で僕と付き合っていたということはなかったように思う。でも僕がその一節を漏らしたとき、あのヒトは屈託ない笑顔で躊躇いもせずこう言った。 『花かぁ!じゃあ花火!花火を見たら私

          【小説】水性花火 ~雨が降ったら~