わかれの記憶〜三月、おだやかな子羊のように去る。
昔の彼の夢を見た。最初に会った頃の、そのひとの姿。
大学一年から長い間、一緒にいた。少なくとも彼は、結婚するつもりだったと思う。私も結婚は意識していたけれど、私が東京で彼が福岡に就職した時から、だんだんと道がわかれて行っていることが目に見えていた。どうしていいかわからなかった。
いつか、私の兄に言われたことを思い出す。「お前と、彼とは、生き様が違う。」
ある時、掃除機をかけていたら、「あ、いつか別れるんだ」と急に分かってしまって大泣きした。
その何年かあと、やっぱり道が分かれてしまった。
「別れよう」なんていう、言葉で、意識的な力で別れたのではなくて、気づいたら、もうどうしようもないくらい離れていた。だから、「別れる」というよりも、「分かれる」だったのだろう。
それからさらに何年か経って、本当に辛くて仕方なかった時に、泣きながら電話したことがあった。番号はまだ使えるのかわからなかったけれど、繋がった。何を言って欲しかったのか、思い出せない。ただ、覚えているのは、一生懸命、慰めてくれたこと。
そして、彼が驚きながら言った。
「オレ、明日結婚するんよ。」
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今、彼がどこにいるのか知らない。連絡先もわからない。何度か、googleで彼の名前を検索したことがある。随分前だけど、ドバイで働いている時があったようだ。大学の友人を辿ればわかるだろうけど、やったことがない。
そんな昔の人が、本当にたまに、夢に出てくる。
懐かしかった。
起きると、窓の外は、ゆっくりゆっくり、雪が降っている。三月。先週のライオンのような荒天からの、子羊のような穏やかな小雪。
先日の元夫といい、昔の彼といい、総パレード。
今は、そこから見ると、なんだか遠くに来たなあ。全くの異次元のようだ。
今の旦那くんと一緒にゆっくりここまで歩いて来た。そして、息子と、猫二匹、鳥一匹と、だんだんメンバーが増えて。