哀を呑む
あ、と思う間もなくつるりと呑み込んだ。彼にとって、それが毒であるか薬であるか、はたまた何物にもならぬのか、私には分からなかった。
彼は暫く目を閉じて、後味をじっくり噛み締めていたようだった。楽しんでいるようにも苦しんでいるようにも、どちらともとれる表情で、そこから判別することは叶わなかった。
「愛とは不可思議なものだ」
地を揺るがすように低い声が、ぽつり、呟かれる。
「おまえにはわかるか」
「いいえ」
私は首を振った。愛というものは確かに胸の内にある。私は彼を愛している。けれども理解できているかと問われれば否と答えるより他ない。
形ないものを真に理解するなど不可能だ。たとえ神にだって出来ようはずもない。
「やはり私には不要なものだな」
口端を吊り上げて、嘲るような眼差しが愛を騙った者へ向けられる。
数瞬の後には既に興味は失われ、彼の視線は代わらぬ空をなぞった。
『愛』は彼にとって毒にも薬にも、何物にもならなかった。私はそう悟り、そっと想いを飲み下した。
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