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「日本は外国人嫌い」発言について:移民政策は実際何をやっているかより「何をやっているように見えるか?」が重要という話

バイデン大統領が、選挙関連のイベントでの演説の中で日本を、インド、中国、ロシアと並べ'Xenophobic'(外国人嫌い)と評したことが今話題となっています。

この出来事の背景を説明すると、バイデン大統領が「移民の積極的受入れによって米国の国力がより強化される」という主張を行うにあたり、移民の受け入れに消極的な国は国力がおちているという論拠をのべたところ、そんな残念な国の例の一つとして日本が挙げられたというものです。

米国の同盟国である日本に対して、「外国人嫌い」呼ばわりするとは何事だという反応がSNS上で多く見られるのですが、それはさておきこの出来事から学ぶべきこともあるのではないかと考えます。

ちなみに、「移民」という言葉はかなり曖昧で、使われる状況によって大きく意味や範囲が異なりますが、バイデン大統領の発言の文脈において、日本は一時的な労働者を含む外国人の受け入れを積極的に行っていない国であるというイメージを持っていることがよく分かります。また演説で強い印象を残すために'Xenophobic'というかなり強い表現が使われ、それが物議を醸しているようです。

実は日本の移民政策は今相当な「千客万来」状態であるという事実

それでは実際にはどうなのか?

日本における外国人労働者は昨年10月時点で204万人となり、初めて200万人を超え、伸び率は前年の2倍以上の12.4%を記録しました。10年前の2014年時点の外国人労働者数は約79万人であり、ここ10年以上で軽く2倍以上になっています。

また、日本の就労ビザは他国に比べて非常に簡単に取得できます。労働市場テスト(外国人労働者雇用にあたり、自国労働者保護のためにまず自国労働者を募集した結果、応募がなかったことを示す手続き)や、受け入れ企業がスポンサーとして事前に入管当局に登録を行う手続きも不要です。各ビザの年間受け入れ上限数すら設定されていません(特定技能に上限設定があるものの、現時点で上限に達したために入国が阻まれたことはありません)。
いわゆるホワイトカラーの人が日本で働く場合に取得する、日本の主要な労働ビザである「技術・人文知識・国際業務」は、原則として日本の企業と契約を結び、本人が大学卒業以上の学歴を持っていれば取得することができます。例えばアメリカのH-1Bビザと比べてもかなりのハードルの低さです。

ブルーカラー労働者受け入れにおいても、門戸はどんどん開かれています。政府は特定技能の24年度から5年間外国人の受け入れ上限を、これまでの5年間の2倍以上である82万人に設定しました。入管政策意外にも、外国人が日本で仕事をするための資格試験にも緩和策が講じられています。例えば二種免許試験は、外国人運転手用に今後20か国語で展開される予定です。プロ運転手用の免許試験が20か国語で受験できる国って他にどこかあるのでしょうか・・・
つまり、実際には相当な勢いで「千客万来」状態なわけです。

「やってますよ感」を出していくことの重要性

では、事実確認もせずに発言したバイデン大統領はけしからんのでしょうか? 確かに残念なことではあるものの、むしろここは冷静に受け止めるべきだと筆者は考えます。

そもそも政治家とうものは、国民の共通認識や潜在意識に訴えかけ、どんな人にもわかりやすく話をするプロです。バイデン氏が、移民受け入れに消極的な国の代表例として日本を選んだのは、それが納得感のある分かりやすい例だったからだと言えます。つまり、一般的に米国の人々の共通認識として、日本は外国人を積極的に受け入れる国ではないという認識があるとういことです。

この問題で露呈したのは、バイデン大統領の認識不足ではなく、日本側の「やってる感」の演出不足かもしれません。過去10年間、日本は様々な外国人労働者受け入れ策を講じてきました。しかしながら、日本のこの姿勢が、それこそ同盟国である米国に全く伝わっていないのはどうかと思います。

皆さんの職場でも、能力があり、勤勉であるにも関わらず会社からの評価が不相応な残念な人はいませんか。その一方で、仕事ぶりはまあまあなのに「やってる感」を出すセンスに優れており、どんどん昇進していく人もいませんか。日本は前者のタイプかもしれません(涙)

移民政策は単なる制度ではなく、その国が今どの方向に向かおうとしているのかを伝える政治的なメッセージツールでもあります。だからこそ移民の受け入れ数を絞ることは「国民の皆さんの仕事と生活を守ります」という政治的メッセージとなるのです。逆に、日本のように、海外からの優秀な人材を獲得したい場合は、その政策を世界中に広める必要があります。人手不足で外国人の力を借りないと大変な状況なのに、よその国から「あいつ外国人嫌いやでー」とお門違いにディスられてしまっている場合ではないのです。

このニュースから私たちが冷静に学ぶべきことは、(もちろん中身も大事ではありますが!)日本が官民一体となってさらに「やってる感」を出していくことなのかなと思います。

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