実は既に始まっていた。「海外金融人材」への優遇措置まとめ

今年の9月、ニューヨークにて岸田首相は、日本の資産運用を促進するための新しい取り組みとして、資産運用特区の設立を発表しました。この特区は、東京、福岡、大阪、札幌の4都市に設置される予定です。この計画の背景には、日本国内で個人や企業が持つ資産の効率的な管理と増加を図る意図があります。

では、具体的に一体何をどう変えるのか?という点において、岸田首相は前述のNYのスピーチで以下のように説明しています。
「日本独自のビジネス慣行や参入障壁を是正し、新規参入者への支援プログラムを整備する。あわせて、バックオフィス業務のアウトソーシングを可能とする規制緩和を実施する。また、海外からの参入を促進するため、資産運用特区を創設し、英語のみで行政対応が完結するよう規制改革し、ビジネス環境や生活環境の整備を重点的に進める。世界の投資家のニーズに沿った改革を進めるため、皆さんにも参加いただいて、日米を基軸に、資産運用フォーラムを立ち上げたい」

あの話って、その後どうなったんだろう?とふと思い出して不思議に思っていた方もいるのではないでしょうか。
今後具体的にどのような政策に落とし込まれてくかは未だ不明ですが、これまでの歩みを振り返ることで、今後の動きを多少予想することができるのではないかと考え、以下の通りまとめてみました。
実は海外金融人材を呼び込むための優遇措置はすでに数年前から段階的に進められてきています。

このプロジェクトの始まりは、2020年12月に閣議決定された経済対策「世界に開かれた国際金融センターの実現」でした。この計画では、税制、金融規制、在留資格、生活支援、情報発信といった多岐にわたる分野で、各省庁や関連機関が協力して、総合的な施策パッケージを提案しています。

その後2023年6月に「経済財政運営と改革の基本方針2023」が閣議決定されました。この文書には、日本を「資産運用立国」として発展させることを目指す方針が明記されています。
これらの取り組みは日本の資産運用市場を活性化させ、国内外の投資家に新たな機会を提供することを目的としています。
以下にそれぞれの政策について解説します。


金融庁の英語対応拠点設置(金融規制)
2021年1月、日本の金融庁は、海外の資産運用会社が日本市場に新規参入する際のサポートを強化するため、「拠点開設サポートオフィス」を設置しました。このオフィスの主な役割は、海外ファンドが日本での事業を開始する際の登録手続きから監督・検査に至るまでのプロセスを、全て英語で行うサポートを提供することです。
以前は、海外の資産運用会社が日本で金融商品取引業の登録を行う際には、登録申請書や関連書類を日本語で作成し、管轄の財務局に提出する必要がありました。また、登録後の金融庁や財務局による監督も日本語で行われていました。しかし、新しい制度では、一定の条件を満たす事業者に対して、これらの手続きを英語で行うことが可能になりました。
<拠点開設サポートオフィス>
https://www.fsa.go.jp/internationalfinancialcenter/our-support/about-us/

創業・生活支援
上述の「拠点開設サポートオフィス」において、金融系外国人材、企業等を対象に日本での創業にあたって、会社設立、在留資格取得等の創業・生活に関するコンサルティングを提供しています。
東京・大阪・福岡で窓口が設置されています。

参考:金融庁ホームページ
https://www.fsa.go.jp/internationalfinancialcenter/our-support/our-partners/

金融人材の永住申請緩和
2021年7月から、日本で投資運用業に従事する外国人は、高度人材ポイント制度における特別加算ポイント(10点)の対象となりました。この高度人材ポイント制度は、学歴、年収、年齢などの項目に基づいてポイントが計算され、合計で70点以上を獲得すると、通常は10年の在留期間が必要な永住申請を最短1年で行うことが可能になります。

金融高度専門人材の家事使用人、雇用要件の緩和
上記の特別加算を利用し高度専門職の在留資格を取得した外国人について、通常家事使用人を雇用する際に必要とされる条件(例えば、入国前に1年以上その家事使用人を雇用していること、13歳未満の子どもがいることなど)が免除されています。さらに、世帯年収が3000万円以上の場合、この優遇措置を利用して最大2名の家事使用人を雇用することが可能となっています。

参考:法務省【高度専門職外国人の家事使用人(金融人材型)】 在留資格変更許可申請 資料
https://www.moj.go.jp/isa/content/001353294.pdf

「短期滞在」の在留資格に係る特例措置
通常、起業準備等のために短期滞在査証で来日した場合、長期の就労資格を取得する場合には、一旦日本を出国した上で現地の日本大使館・領事館で査証の発行を受け来日する必要があるところ、「短期滞在」で在留中に投資運用業等の登録を受けた場合は「短期滞在」 の在留資格から直接「高度専門職」や「経営・管理」等への変更が可能となっています。

参考:出入国在留管理局「世界に開かれた国際金融センターの実現に向けた高度人材ポ イント制における優遇措置の拡充について」資料
https://www.moj.go.jp/isa/content/001353340.pdf

岸田首相のスピーチの中で発表された、「英語のみで行政対応が完結するよう規制改革し、ビジネス環境や生活環境の整備を重点的に進める」取組は、既に「拠点開設サポートオフィス」によって実施されていることから、今後は既存設備の機能を強化拡充し、より幅広く利用されるよう周知・宣伝することになるのではないかと予想します。



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