ユーザベース筒井智子さんに学ぶ!オウンドメディアを活用した HRマーケティング術
採用に力を注いでいる企業は多いと思いますが、入社後の満足度まで考えて採用を行っている企業はどれくらいあるでしょうか?
入社後にその人が企業内で活躍することができるか、また企業風土に合っているかどうかまで考えて採用を行うことを「HRマーケティング」という言葉で広めようとしているのが、株式会社ユーザベースの筒井智子さんです。
今回は、そんな筒井さんが実際に手がけられているHRマーケティングの取り組みについてお話を伺いました。
企業がオウンドメディアの運営に苦戦する中、どうして『UB Journal』は成果を出し続けられるのか。また、成果を出すためにどんな努力をしてこられたのか。人事に携わる方は必見です。
■筒井智子/つつい・ともこ
1980年、東京生まれ。新卒でシステムのコンサルタントとして従事したのち、リクルートキャリア、Webマーケティング企業へと転職し、フリーランスを経て2019年6月にUZABASEのカルチャーエディターとして再び就職。コーポレートメディア「UB Journal」の運営を行っている。
入社後のことも考えた「HRマーケティング」という提案
株式会社ユーザベース(以下、ユーザベース)は、2008年創業の会社で、ビジネスパーソン向けのさまざまな事業を行っています。企業向けの経済情報プラットフォームを提供している以外にも、皆さんに身近なところだとNewsPicksというソーシャル経済メディアを運営しています。世界中に拠点がいくつかあるため、採用もグローバルです。
今、ウェブ上では「採用広報」や「採用マーケティング」という単語が飛び交っていますが、私は「HRマーケティング」という単語を広めたいと思っています。
「採用広報」というと、採用するまでの部分に力を入れている企業が多い印象で、昨年くらいにどこの企業もオウンドメディアを立ち上げていた気がします。
しかし今見てみると、企画が続かなかったり現場の協力が得られなかったり、社内のリソースが足りなかったりといった理由で、更新が止まっているか更新頻度が落ちてしまっているところ、けっこうありますよね。
ユーザベースは、採用のハードルが高いと言われています。それは採用時のバリューマッチを最重視していて、スキルが十分なレベルに達している人でも、カルチャーと合わなければ、たとえどんなに能力の高い人でも採用しないようにしているからです。
その高いハードルを乗り越えて入社してくれたメンバーに対して、入社後のケアでもっと改善できることがあるのではと感じていました。「もっと入った後のことも考えようよ」ということで、採用マーケティングというよりは「HRマーケティング」かなと考え、この言葉を広めたいと思っているんです。
「UB Journal」が目指すのはバズより採用率
私がユーザベースで担当しているのは、「UB Journal」のコンテンツ制作と、社内コミュニケーションの活性化、いわゆるインナーコミュニケーション、インナーブランディングです。
具体的には「UB Journal」のコンテンツ制作に加え、LinkedIn、Wantedlyに載せる採用コンテンツ制作、社内イベントの企画運営などをやっています。
「UB Journal」では以前、採用における候補者数をKPIとしていた時期がありました。しかしそれだと、ユーザベースのカルチャーは理解していても、スキルフィットしていない人からの応募も増えてしまい、結果的に人事の書類選考の手間を増やしてしまっていたんです。それでは意味がないな、と。
そこで、社内の各チームのやりがいや今後の挑戦などを「UB Journal」の記事にし、そのURLをスカウトメールにつけることにしました。記事を拡散することを目的にするのではなく、人事と密に話し合って今最もリソースが足りないチームの記事を書くなど、現場のニーズに合わせることを優先し、記事を出していったんです。
うちの場合、カメラマンも含め全て内製で作っているのでスピード感があります。採用はタイミングも大事なので、スピードを持って記事を出していくことで徐々に現場の信頼にも繋がっていきました。
採用チームと一丸となって、Job Descriptionの充実や記事URLの添付などを含めたスカウトメールの返信率改善に取り組んだ結果、返信率を5〜10ポイント改善することができました。業界平均が7〜8%と言われているなかで、高いものでは20%超の返信率をとれるものもありました。
そうするうちに、現場からコンテンツの成果も一定認めてもらえてきたので、嬉しいですね。
「UB Journal」のもうひとつの目的として、ある程度ユーザベースの事業を理解してもらったうえでカジュアル面談へ送り込むというものがあります。面談担当者が毎回30分ほど同じような話をしていると聞いて、その時間を何とかカットできないかなと考えました。
そこでSPEEDA事業のCOOが事業を紹介する1分半ほどの動画を作ったんです。これを見てから来てもらうと、面談の最初から深い話ができます。結果として面接時間が短縮したり、面談回数を減らしたりできるようになりました。
結果は出せた。残る課題は新入社員の認知度
「UB Journal」を使った採用に注力し始める前は、エージェント経由が採用チャネルの大部分を占めていました。そこから直接応募やメディア経由など、エージェント以外からの応募が増えたんです。SPEEDAの採用に関しては、エージェント経由での採用費を大幅に削減できました。
社内認知も少しずつ広がってきました。「UB Journalに出るのを目標にしてる」と言ってもらえたり、企画の相談があってもリソースの問題で断らざるを得ない状況が出てきたりするようになってきたんです。またグローバルでの採用強化にあたって、日本での知見をもとに力を貸してほしいということで、上海出張して現地メンバーと交流できたのも、個人的にはすごく嬉しかったですね。
インターン生に書いてもらった記事に、現場からSlackで嬉しいコメントが届くなど、徐々に社内認知が広がってきている感覚はあります。
課題としては、中途も含めた新入社員の認知率がまだそんなに高くないので、「UB Journal」の新入社員認知率を100%にしたいですね。今いる社員にも「うちの会社のUB Journalって、最近採用メディアになっているらしいぞ」という認知をもっと広げたいですね。
また、これまではコンテンツの拡散というよりは、スカウトメールにつけるという使い方だったんですが、来年は採用記事も作りつつ、組織カルチャーなど会社全体の記事も作っていき、拡散を狙っていこうと考えています。
現状、弊社はリファラル(紹介採用)があまり強くない、もしくは採用まで至るケースが少ないので、それも変えていきたいですね。社外広報を頑張ると社内にも効果が出る、という他社事例をよく聞きますし、来年はそこにも注力したいなと思っています。
自画自賛の記事は出さないのがルール
Q:「UB Journal」で1記事完成するまでの流れはどのような感じですか?
まず、各事業のカルチャー(人事)と連携し、どんな採用枠があるかを把握しています。その上で、実際に採用するチームリーダーも交えて複数回企画会議をして、誰にインタビューするか、どんなテーマで話してもらうかなどを決めています。
それが決まったら日程調整し、取材を終えてだいたい5営業日以内に記事を公開するのを目標にしています。
Q:コンテンツ制作チームのメンバーは何人いるんでしょう?
私と編集長と動画クリエイターの3人が中心です。記事中の写真は基本的にはこの3人の誰かが撮っています。編集会議は、私と編集長と現場の人事でやることが多いですね。
Q:出した記事は、どのような観点から振り返りを行なっていますか?
PV数、UU数、Facebookでの拡散、ツイッターの反応、NewsPicks
のPick数などをチェックしてはいますが、どちらかというと採用にどう効いたかを振り返っています。
具体的には、現場の人事から「そこから何人応募がきて、何人が一次面接以降に進んでるか」という情報を共有してもらっています。また、記事にカジュアル面談の応募フォームをつけているので、そのクリック数とそこからの応募率は見ています。
Q:スカウトメールの返信率に効果が高かった記事があれば教えてください。
事業戦略や、未来のビジョンを語るような記事は返信率が高かったですね。会社のカルチャーを伝える記事は、一部広告に出してから採用が決まった事例もあります。
Q:「UB Journal」のルールはありますか?
コンセプトが「挑戦する人を後押しするコーポレートメディア」なので、挑戦した結果失敗した話はOKでも、単に自画自賛するだけの記事はNGです。また、挑戦途中の話ではなく成功にせよ失敗にせよ、一定の結果が出たものだけ掲載するようにしています。
Q:オウンドメディアってだんだんネタが枯渇していく気がするのですが、どのようにネタ探しをされているんですか?
外部の人を対談相手として呼ぶと、コンテンツは無限に広がりますよ。あとは人事メンバーに企画会議に入ってもらっているので、同じ人への取材でも、私たちブランディングチームとは違う切り口が出てきたりするんです。そういう意味でも、採用のオウンドメディアを成功させるためには、社内の解像度を上げることが近道なのではと考えています。
地道な草の根活動で社内認知度アップを図る
Q:「UB Journal」による副次的効果はありましたか?
社外からの取材依頼が来たり、社内のコミュニケーションが生まれて勉強会に繋がったりといったことですかね。定量的に言えば、応募者人数の増加やエージェント費の削減、面接時間の削減などがあります。イベントへの登壇依頼が来るなど、ブランディング的な効果もありますね。
Q:社内への認知度アップや賞賛し合う文化の醸成には、どのような施策を行われたんでしょうか?
草の根活動です。インタビューで仲良くなったり、社内版NewsPicksにPickしてコメントを促したりといった地道な活動を続けました。記事に良いコメントがついたらすぐに返信するし、チーム内でも共有しています。
Q:筒井さんはユーザベースの社員になられてまだ1年未満ですが、社員との関係性がまだできていない時期にも認知度アップの活動をされていたんですか?
社内のいろんな飲み会に参加したり、社内イベントに顔を出して、「UB Journal」の話をするようにしました。最近では、新入社員から「UB Journalのあの記事を読んで入社した」という話もちらほら耳にするようになって、少しずつ認知度が上がっている感覚があります。とはいえ、前述の通りまだまだ認知度は低いんですけどね。
Q:小さい会社でこれから採用広報を立ち上げようとする場合、リソースが全然ない状態だと思うのですが、筒井さんならまず何から始めますか?
最近そのような相談をよく受けるんですが、手っ取り早いのはWantedly、PR Tableなどを使うことですね。オウンドメディアの鉄則は「人通りが多いところに自分の店を出せ」なので、手軽に始められるnoteでもいいと思います。
立ち上げ期であれば、広報や人事がインタビュアーになることも多いと思いますが、外部ライターなど第三者にインタビューしてもらうと客観性を保てるのではと思います。また、事前に記事の目的や仮タイトル、小見出し、流れなどを全て現場と擦り合わせておけば、現場との認識ずれや原稿の直しも少なくて済みます。
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