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さらば調子乗り世代

2024年12月8日。浦和、いやJ リーグの歴史に残る大エース、興梠慎三と共にこの日を最後に現役を引退する選手がいた。宇賀神友弥
興梠と同じタイミングでのセレモニーと挨拶。人によっては嫌だと感じるかもしれない。しかし宇賀神は最後まで彼らしい姿を見せてくれた。

遡って2021年。ホーム最終戦後、このシーズンを最後にレッズ退団が決まっていた宇賀神は同じくセレモニーの舞台に立っていた。
そこに掲げられた一つの断幕。ゴール裏の上の方にわりとひっそりと出されたそれには「ウガ、俺達の夢ありがとうbyユース同期」と書かれていた。

宇賀神は1988年3月23日生まれ。生まれた年こそ武藤雄樹らと同じだけど、日本の学年というくくりでは1987年生まれの世代になる。
「調子乗り世代」なんて呼ばれたこの世代と浦和レッズ、そして宇賀神友弥について。


2006年
ユース、高卒の選手たちが加入

浦和レッズが初めてのリーグチャンピオンになるこの年、4人の1987年世代の選手が新加入した。

小池純輝(レッズユース)
1987年5月11日
「エーコ」と呼ばれた突破力が武器のFW。
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西澤代志也(レッズユース)
1987年6月13日
右サイドやボランチでプレーしたMF。
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堤俊輔(レッズユース)
1987年6月8日
ユース時代から期待されていたDF。
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坂本和哉(大津高)
1987年9月2日

左利きのDF。浦和での試合出場こそなかったものの、ファジアーノ岡山などで2020年まで選手としてプレー。小池らとは現在も親交があるようだ。

高卒で加入した4選手。
ユース組の3人はそれぞれ2,3年目にチャンスをもらうも怪我などもあり安定したレギュラーとはならず。やはり黄金期のメンバーや、毎年のように加入する実績のある選手たちの壁は高かった。


2009~2011年 
生え抜きの移籍と柏木、宇賀神の加入。


2006年に加入した選手たちは、2008年〜2011年途中には全員が他チームへ移ってしまった。


坂本和哉
公式戦出場0
2008年岡山へ完全移籍。

小池純輝
公式戦5試合出場
2009年草津へレンタル。
2010年水戸へ完全移籍。

堤俊輔
公式戦26試合出場
2010年途中熊本へレンタル。
2011年浦和へ復帰。
2011年途中栃木へ完全移籍。

西澤代志也
公式戦17試合出場1得点
2010年途中草津へレンタル。
2011年栃木へ完全移籍。

1番活躍したのは、プロ入り前に世代別代表にも選ばれていた堤俊輔。3年目序盤、不調の坪井慶介からポジションを奪いリーグ戦18試合に出場。夏以降は再び坪井にポジションを譲るが、大きな期待を集めていた。しかし同年終盤に大怪我を負い復帰まで丸々一年を費やす。その後も復調とはならなかった。

草津で50試合に出場しその後水戸へ引き抜かれた小池や、このメンバーでは唯一公式戦でゴールを決めている西澤もチーム事情や監督が違えばまた違った未来があったかもしれない(まぁそんなこと全選手に言えるけど…)。

2010年、2人の選手が浦和に加入する。


柏木陽介
1987年12月15日

サンフレッチェ広島から完全移籍で加入。
この世代を代表する1人。
アンダー代表で攻撃の中心だったようだ。
浦和でも加入当初から抜群のテクニックと創造性、そして豊富な運動量でチームを牽引した。


宇賀神友弥
1988年3月23日

浦和ユース出身。流通経済大学から加入。
前シーズンから特別指定選手としてトップチームに登録されていた。
ユースでは活躍が遅く昇格が見送られ、大学でもかなり下のクラスから4年生でようやくトップで試合に出られるようになった苦労人。
利き足とは逆の左サイドを主戦場に、新人ながら攻守に躍動した。
時たま見せるスーパーゴール、ゴールラインギリギリでの失点阻止など、記憶に残るプレーが多い。


その後長くチームを引っ張る2人が加入。
宇賀神からすると、ユースからそのままトップ昇格したメンバーとほぼ入れ替わる形になった。

2011年、青山 隼が加入。

青山 隼
1988年1月3日

世代別代表で不動のボランチとして活躍。
しかしJリーグではなかなか出場機会に恵まれず、名古屋→セレッソ→徳島と移籍を経験した。
徳島でレギュラーとして活躍をし完全移籍で浦和に加入。
しかしJ1の壁は厚く、リーグ戦1試合の出場(公式戦4試合)にとどまった。

2012年徳島へレンタル。
2013年徳島へ完全移籍。
2015年現役を引退。
2024年アイドル「SHOW-WA」メンバーとしてメジャーデビュー。

現役当時からカッコいいとは思っていた



2012年〜2020年
槙野智章の加入とACL制覇


2012年、槙野智章が加入

槙野智章 
1987年5月11日

ケルンよりレンタルで加入。
身体能力を活かした守備と、積極的な攻め上がりが持ち味の攻撃的なDF。広島時代の恩師であるペトロビッチ監督の就任に合わせ獲得。独特な「ミシャサッカー」のキーマンとして初年度から6ゴールを決めた。



柏木、宇賀神、槙野、この3人は約10年に渡り浦和で活躍した。
それぞれ300試合以上の出場を記録し、多くのゴールを決めた。
主要タイトルも
2015年1stステージ優勝
2016年2ndステージ優勝
2016年ルヴァンカップ
2017年AFCチャンピオンズリーグ
2018年天皇杯
を獲得している。

特に2017年のACL決勝には、ホーム&アウェイの2試合とも3人揃って先発出場。超難敵アル・ヒラル撃破、チーム2度目のACLチャンピオンに大きく貢献した。


2020年〜2024年
西の加入とそれぞれの別れ。そして。


2021年、西大伍が加入、柏木が岐阜へ移籍
シーズン末に槙野、宇賀神そして西が契約満了。


3月、柏木陽介の岐阜への完全移籍が発表された。
戦力として計算されていたが、「規律違反があった」として突然の移籍になった。


また、新戦力として西大伍が神戸より加入。

西 大伍
1987年8月28日

DF、MF。右サイドバックでのイメージが強いが、抜群のテクニックとサッカーセンスで、ボランチやサイドハーフなどどこで出ても活躍できる。

札幌、新潟、鹿島、神戸とチームを替え、浦和に完全移籍で加入。特筆すべきは8シーズンを過ごした鹿島を含め、ほぼ全てのクラブ、シーズンでレギュラーとして活躍している点だろう。
浦和でも背番号8を着け公式戦33試合に出場。
リーグ11節の大分戦では、タイミングよく中央のスペースへ駆け上がりダイレクトボレーで先制点を決めた。
1年間活躍したが、チームは契約を更新せず。
古巣である地元札幌へ移籍した。


槙野智章契約満了

浦和レッズは、11月の時点で槙野との来季の契約を結ばないと発表。
12月に行われた大分との決勝戦、その槙野はアディショナルタイムで決勝ゴールを決め、最後の最後まで「お祭り男」であり続けた。
槙野は翌年神戸で1年プレーし引退した。

宇賀神友弥契約満了

同じく宇賀神とも契約満了の発表がされ、岐阜へ移籍した。

2021年、年初に4人居たこの世代の選手たちは、シーズン終了後誰も居なくなってしまった。
選手の契約というのは様々な要素が絡むものの、こうなった理由の一つとして「コロナ」というのは確実にあっただろう。
柏木の規律違反というのもコロナ禍ならではであったし(もちろんだから許せるというものでとないが)、観客数が制限され浦和レッズ一番の収入源である入場料がまともに得られない状況で、経営的にも高給のベテランを雇っておく余裕がなかったと予測できる。 

2024年、宇賀神友弥岐阜より加入。
1月、宇賀神の復帰が発表された。

そして同じく2024年、現役引退を発表。

2024年12月8日。最終戦で引退セレモニーが行われた。

宇賀神の復帰、そして引退。
セレモニーの場にはまたあの時と同じ断幕が。

2006年からスタートしたこの年代と浦和の物語は2024年、終わりを告げた。


この年代のイメージはいかがでしょうか?
もしかしたらあまり良いイメージはないかもしれません笑
それこそ「調子乗り世代」なんて呼ばれていたのもあり、「ちょっとウザい」と思わせる場面もありました。

また、柏木の去り際や槙野のピッチ外での様子、ウガのサポーターへも食ってかかるような態度。
それぞれ個性的な面々でしたね。

宇賀神は復帰の挨拶で「引退をしに帰ってきたわけではない」と言っていました。
結果的には公式戦での試合出場は最終戦を合わせて2試合。「戦力になった」とは言いにくい成績。

しかし、控えの控えからプロになり、プロ入り後も絶えず新しいライバルが加入するチームでもレギュラーを守り続けた。そんな男ははきっと「まだやれる」と思い続け全力でトレーニングを続けてきたと思います。そして、そんな姿はチームの助けになっていた。そう信じています。

調子乗り世代は正確に言えば87年、88年生まれを指すみたいですが、どちらにしろ、チームにもうその世代は居なくなりました。

堤、エーコ、ヨシヤ、坂本。
彼らが去り「この世代上手くいかないな…」と思っていたところに陽介とウガの加入。槙野も来ました。その3人が主力になりACL制覇…もその後ほぼ同時に退団。
だからこそウガの復帰は嬉しかったし、僕自身にもに「まだやれる!」と思わせる、そんな勇気をくれました。
ユースからの昇格が叶わず、それでも大学を経由して浦和に入り、日本代表にまでなった。
彼の姿は同じ夢を持ったかつての仲間たちにも勇気を与えて、応援されていたんでしょう。
僕はユース時代のメンバーを詳しくは知りませんが、それでもあの断幕には涙しました。

ウガを筆頭にこれから浦和に関わってくれる人はいるだろうし、エーコや西大伍のように現時点でまだ引退を発表してない人もいます。
彼らの今後の活躍を祈るとともに、感謝を伝えたい。
ありがとう調子乗り世代!バイバイ!



※読んでない方は清尾氏のnoteもぜひ

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