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ベジタリアン、ヴィーガンについての覚書

近年、ベジタリアンに関する理解は食の世界に関心のある人にとって避けては通れないものになりつつあります。

ベジタリアンの割合は世界的に増加が続いています。
飲食関係ならインバウンドに占めるベジタリアンについて無関心ではいられないでしょう。
そうでなくとも、友人知人がベジタリアン、海外から来たゲストをもてなす際にベジタリアン対応が必要、というケースは今後も増えるでしょう。


もうひとつ大きな理由としては、菜食は一過性のブームではなく世界的なトレンドとして続くであろうということです。
持続性はいまを生きる世代の大きなテーマであり、食べ物に関わる以上はこの課題は避けて通れません。
テーマは人と関心を集めます。
ベジタリアン食へのニーズが高まるにつれ、フードツーリズムと結びついたり、ひとつの食のジャンルとして新たな発展を見せたり、ベジタリアン食自体が foodie にとって目の離せない最先端の食の分野になる可能性を感じています。

ベジタリアン人口の推移

ベジタリアン人口は2023年に5.3億人に達する
訪日旅行者に絞っても割合は多い

ベジタリアンのタイプ

ベジタリアンにも様々なタイプとバックグラウンドがあります。
研究所や観光庁のガイドでは宗教由来もベジタリアン対応として含めていますが、ここではライフスタイルとしてのベジタリアンに絞って考えてみたいと思います。
宗教にも触れるは触れますが、ハラールやコーシャは一旦扱わないものとします。

ベジタリアン

菜食主義自体は人類の歴史古くから世界各地で見られています。
菜食主義は英語では Vegetarianism と表し、1847年に誕生した英国ベジタリアン協会が近代のベジタリアニズムの源流になります。

ベジタリアンの分類を一覧するには日本エシカルヴィーガン協会が提供する表が簡便で見やすいでしょう。

ベジタリアンに関する分類

表に加えて以下に補足します。

ラクト・ベジタリアン、オボ・ベジタリアン

それぞれ乳菜食、卵菜食になります。
乳と卵、両方を食する場合はラクト・オボ・ベジタリアンと呼び、一般的なベジタリアンはこのラクト・オボであることが多くなります。
ちなみに原料を含むため、卵を禁じる場合はマヨネーズ等も禁じられます。

ペスコ・ベジタリアン

別名をペスカトリアンと言い、魚乳卵菜食になります。
魚を許容しても乳、卵を禁ずる場合もあるので確認が必要です。
英国ベジタリアン協会の定めるベジタリアンの定義からは外れ、ベジタリアンに準ずるといった意味でデミベジタリアンとして区分されます。
外食産業ではこのデミベジに相当する「デミベジ・レストラン」というジャンルが生まれています。

ポーヨー・ベジタリアン

英語では pollo vegetarian になる。鶏魚乳卵菜食。
畜肉は禁じます。
このタイプもベジタリアンの定義から外れるとされ、デミベジタリアンに区分されます。

ヴィーガン

英国ベジタリアン協会の中で乳や卵をとらず植物性食品のみを摂食するメンバーが集まり 1944年に設立された英国ヴィーガン協会が源流です。
元は strict vegetarian と呼ばれていましたが、協会設立時に「すべての動物の命を尊重し、犠牲を強いることなく生きるライフスタイル」の名称としてヴィーガンが定義されました。
ヴィーガンでも食生活にのみ植物性であることを取り入れるスタイルはダイエタリー・ヴィーガン、生活全体に適用して例えば化粧品や衣服の原材料まで植物性であることを選ぶスタイルはエシカル・ヴィーガンと呼び区別されます。

ロー・ヴィーガン

英語では raw vegan。生菜食品を重んじる食事、ライフスタイル。
なお生の調理、食べ物のことをローフード(raw food)といいます。

ナチュラル・ハイジーン

古代ギリシアの菜食主義や考え方を源流に、1800年代に米国の医師によって確立、提唱されました。特にローフードが重んじられています。

精進

日本では仏教伝来を経て 675年に肉食禁止令が発せられ、これ以後の様々なイベントを経て全体が菜食主義に傾いていきました。
当時は魚が食べられていましたが、鎌倉時代に禅宗が伝わり、不殺生戒に基づく精進の考え方が導入されます。
精進料理は、肉や魚介類、卵など動物性の食材は使用しないベジタリアン食になります。
出汁も精進出汁と呼ばれ椎茸、昆布など植物性のものを使います。

日本は明治に入り西欧化に伴う肉食が導入されるまで 1200年に渡り菜食が主で、そのため現代のベジタリアニズムにも導入できる様々な食の技術、技法が存在しています。
歴史も含め極めて面白いテーマなのですが、スペースを大いに取るためまた別の機会に考察してみようと思います。

栄養について

食材を制限した状態で、栄養価を満たすことが必要になります。
詳しい話は専門的でそれぞれのスタイルに応じるので別に譲りますが、タンパク質、n-3系脂肪酸、鉄、亜鉛、カルシウム、ビタミンB12、ビタミンD が特に工夫が必要な栄養素となるようです。

近年では研究も進んで栄養学的な裏付けに基づくベジタリアン食のガイダンスなども存在しています。

外食に関わる方は、栄養面からもベジタリアン食に対する理解を深めておくと喜ばれる機会が増えるのではないかと思います。

個人見解

ベジタリアンの世界に触れて、やはり食は文化、ライフスタイルと切って切り離せないものなのだなと実感しました。

個人的にはできるだけ思想信条を省いた資料、書籍を通じて菜食の可能性を探りたいと思っていたのですが、ベジタリアニズムの成り立ちからキリスト教の影響があり、戦争や平和といった食とは距離があるような言葉も書籍に登場します。
思想信条も含めて、リスペクトを以て向き合う必要があるのだと再認識できました。
誰もが自分の思想信条を持っていると思います。私は持っていないというのもそれもひとつの思想信条です。
自分と違うものであるからこそ、リスペクトが何より必要であると思います。

少し話題が逸れますが、歴史を見ると人は食べ物で差別ようです。
あいつが野蛮、あんなもの食ってるぜ、というのはローマ人がガリア人を揶揄するパターンであるくらい古くから使われているものです。
ベジタリアンの勉強をしていてもベジタリアンの中自体でこの雰囲気を感じるときがありました。
例えばより厳格な菜食主義から見て他は遅れているといったマウンティングのようなものですが、個人の持つ生命や倫理感が関わるだけに軽いものではないでしょう。

個人的にはベジタリアニズムが多様性を許容する豊かな世界観であって欲しいと思い、私もベジタリアンでないからこそ、機会を得て理解を深め、自分の共存できる多様性のひとつにベジタリアニズムを上手に入れ込んでいきたいと思いました。

元々野菜好き、発酵も好きなので。
ベジタリアニズムの可能性も今後追々探っていきたいと思います。

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