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その時、恋を知らなかった。
ベランダから見る夕焼けの空はいつもと分からないのに、どうしてこれを見る時はこんなに気持ちが落ち込んでいる時なのだろう。
記憶は、感情とワンセットで覚えるという。だとしたらこの苦しみや切なさが、茜色の空に重なって、いつかこんな綺麗な世界も嫌いになってしまうのか。
未だに、忘れられない人がいる。
もう何年になるだろうか。
初めて逢ったのは中学一年の頃。
あの子は学年で2クラスしかない同学の、
あと一歩は踏み出さないという選択
彼の瞳に私が映る瞬間が、今まで生きてきたどんな快感より心地よく感じられた。ただその奥に自分を映し出していればこの上ない高揚感に包まれていられる。
たとえそれがどんな形であれ。
「ああ、俺ね、また別れたよ」
あっけらかんと赤裸々な事情を話し出す彼に、些か呆れ果てた声色が漏れる。
「また別れたの、懲りないわね。今回はどんな理由で?」
「少し放置しただけだよ、ほんの1ヶ月」
うすら笑みを浮かべて