青木繁
「印象派が好きです」というといかにも日本人という感じでなんだか居心地が悪いけれど、色々説明を省くのにちょうどいい。
先日唐津で河村美術館という土日祝日しか開館していないという個人美術館に行った。明治の近代洋画家、青木繁の絵がいくつかあって、この夕焼けの海に釘付けになった。若くして、喀血して、色々人生に絶望して、夕焼けの海を見ながら、帆を下ろす船を見ながら、最期の絵かもしれないと思いながら描いた一枚。
唐津は夕陽が海に沈むころ、観光客も地元の人も浜辺に座ったりわんこの散歩をしたり、青木繁が絵を描いた時と変わらない時間が流れてる。もちろん人も船も色々違うけれど、きっと同じ静かで優しい時間が流れてる。
自分の才能をまだ持て余して、社会で生き抜く術もまだなくて、大好きな人ともうまくいかなくて、家族とも距離ができてしまって、死期も近づいて、絶望がむしろ優しい夕焼けの時間をこの絵の中に留めている。鏡のような夕焼けの海。
T.B.S.A
青木繁の残したサインはさまざまな解釈があるようだけれど、私はどれも違う気がする。最初は結核(Tb.)の青木繁っていう皮肉かとも思ったけれど、今はto be 青木繁な気がしている。生への彼のもがきが聞こえてくるような気がするから。
青木繁にはこの絵ではなく、全盛期の2つの重要文化財がある。きっと大作の迫力があるのだと思うけれど、私はこんなふうに喜怒哀楽を全て携えて静かに時間が流れてくる絵が好きだ。青木の作品はこの夕焼けの海が1番好きだ。
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